162話 絶対的審判
よろしくお願いします。
〈さて.....たつさんはまだサラマンダーと話してるけど、こっちの相手はお喋りなんてできないからね.....斬っても斬っても倒せなくても.....動けなくすることはできるっ!〉
フィルスと大地を囲うように迫り来る荒くれ者達の目に生気というものはなく、白眼でゆっくりと歩み寄ってくる様はまさにゾンビのようだ。だが、二人とも怖じける事はなく武器を構える。
「大地!こいつらは斬っても死なないから動けなくするだけでいいからね!」
「おうよ!任せとけってんだ!」
背中で会話をする二人は目の前の敵の殲滅にかかる。大地はスピード重視の重い一撃で的確に荒くれ者の脚や腕を斬りつける。フィルスは剣に振り回されないように力を入れての攻撃となるため大地より手数が劣る。受け止められるとテレポートで瞬時に後ろへ回り込み、魔法で縛るか手足を切り裂いて正面衝突を避けた。
この戦い方は自分にあってるようで、スムーズに動けるのを自分で実感しながら戦闘を繰り広げていると身体を悪寒が襲う。
「大鎌......死神の象徴とも言える鎌か.....なんか、たつが持つと.....ホントに後ろ姿が死神だぜ.....」
「す、すご......」
大半の荒くれ者は手足を切り裂かれ動けなくなってはいたが、他の手足のある荒くれ者までもが動かなくなり、皆がたつを見やった。赤い翼には黒い線が混じり、全身にある赤い線も黒が入り交じっていた。たつの持つ鎌はよりいっそうに黒くなり、たつの後ろ姿が死神の姿と重なるのを感じ鳥肌が立つ。
「暗炎魔法.....《死へ招く神の裁決》」
【っ!?な、なんだ!こ、これは......!】
たつの唱えた魔法はサラマンダーの足元に大きな赤黒い魔法陣を作り出した。それが現れた瞬間からサラマンダーの動きは完全に停止し、ただそれに驚くように目を見開かせるだけであった。
「......裁決......封印!」
死神の裁決はくだされた.....その瞬間にたつの顔の左半分に白い棒のようなものがくっつき、頭蓋骨の形を形成していく。左半分で頭蓋骨は止まった......少し俯いていたたつは形成が終わると共に顔を上げ、左の赤紫の瞳をギラギラと輝かせる。
【ぐっ......!うご.....けない.....】
「あんま動きすぎると.....握り潰すぞ?大人しく縛られてろ.....化け物め。」
たつのその言葉に寒気がする。とてつもなく冷たい言葉はまるで雪国に吹く冷風のように冷たく、背筋を凍らす。
身動きが取れず、必死に身体を動かそうともがくサラマンダーに向かって片手を突きだして目を瞑るたつはゆっくりと口を開いた。
「この裁決から逃れることなからん。地の果てまでも呪いて必ず執行するべし.......死神の掟、第78ヶ条:生死は絶対の運命。それを執行するは我ら死神である。裁決の審判は各自の判断で決めてよい。我ら死神に間違いなど許されはせぬのだから.....」
【......なん.....だよ......なんかの、呪いか.....】
「......えぇ、貴方がどう足掻いてもこの審判は絶対であるという証拠です。では......サラマンダーさん、お疲れさまでした。」
【っ!?......こ......ぞうがぁあぁああぁあぁ!!】
「憎悪の念、我らの糧とし厄災を撃ち沈めん!闇魔法!《カースリーパーズィーゼル》!」
【っ!?使者が封印魔法を?!】
「え?封印魔法.....っ!?あ、あれは......」
たつが魔法を唱えた瞬間からサラマンダーの足元にある魔法陣は不気味に輝きを増し、まるで悪夢でも見ているように大鎌を持った巨大な死神が上半身だけ魔法陣から這い出てサラマンダーを片手で掴み魔法陣の中へと引きずり込み、青年とたつの剣だけを残して消え去った。
〈.....あれが.....使者の......いや、たつさんの.....力なのか.....〉
圧巻の一言だ。膨大な魔力がないとオークすら封印できないというのにたつはたった一人で大精霊のサラマンダーを封じてしまったのだ。
鞘へと剣を納め、歩み寄るたつに先程までの威圧感はすでに消えており大地と笑い合うたつに安堵のため息が溢れる。
〈......ホント......頼もしいや。〉
フィルスは心の中で皆の頼もしさを感じてから仲間のもとへ駆け出した。馬車は少しの休息を挟んでから未だに眠る青年を乗せて再び走り出すのであった。
ありがとうございました。
さて!青年の正体とは・・・たつの過去、帝王達の動き、次回からも書きたいことが山ほど!お楽しみにっ!




