11話 男の願い
よろしくお願いします。
「じゃあ、行こっか!」
「......い、行くって......っ!?フィルス!まさか.....」
〈うんうん、分かるよ......その気持ち........でもさ~サティウスが~.......〉
内心は嫌々だが、行かないわけにもいかない........葛藤の末良心が完全勝利を納めたのでそれに従うしかない。
「......さてっ!ララちゃん?......だよね.....?お兄ちゃん達はこれから出掛けてくるけど、一人でお留守番出来る?」
「い、嫌!!わ、私もついていくもんっ!」
フィルスの問いかけに首を大きく横に振るララ。独りがそれほど嫌なのか涙目になっている。
「ララちゃん.........君の両親は皆のために旅へ出たんだ。ちゃんと、料理も作ってあるって書いてたし、直ぐには戻れないとも書いてた........つまり、君がちゃんとしないといけないんだよ?........いつまでも誰かに頼ってちゃだめ!
必ず、両親を連れ戻してくるから......」
「ぐすんっ........必ずよ?絶対だよ!約束だよ?!」
「うん........「約束する。」」
フィルスとノンシーはそう告げると、すっかり暗くなった道を進んで、帝国の門まで辿り着くのであった。
「おいおいおい........こんなに暗くなった外に子供二人で出すのはなかなか無理な話だぜ。」
「フィルス・クレイアだ。貴様ら庶民が貴族の意向を否定するか?」
「ぐっ!し、失礼致しました.......どうぞお気をつけて.....」
衛兵というのは貴族からの資金で成り立っている。つまり、貴族には子供からお年寄りまで頭が上がらない状況なのだ。ここで下手に敬語は使わずに、貴族らしく憎たらしい言葉を使ってみたが、これが意外にも良く効くようである。
「なによっ!偉そうに.......」
「僕も使いたくは無かったけど、下手に出るより偉そうにしてた方が効果あったでしょ?」
【悪知恵だね~.......】
〈そ、そうなんだけどさ.......なんかサティウスに言われると腹が立つ.......!〉
イライラを押さえながらリザードマンの居る場所を目指し始める。一刻も早く着きたかったので数時間小走りに歩いていくと無数の死体を発見した。
「.......っ!?だ、大丈夫ですか?!........ダメだ.....誰も息をしていない......」
「........一体此処で何があったのかしら......?」
見た目からして明らかに冒険者.......あまり強さは感じられないので、何に倒されたかまでは想像できない。
フィルスが苦虫を噛み潰したような顔をしていると、わずかに上空が光っている部分を見つける。そこには人型の何かが浮いていて、ずっと死体の山を見つめている。
「........妖精.....?」
「えっ?何処?何処?私にも見せて!」
【おやおやおや.......珍しいね......光の妖精だよ.....】
〈ひ、光!!す、すごっ!人間では選ばれた人しか持てない属性だよ?!〉
フィルスがノンシーのお願いに答えるべく精霊の魔力を流し込むと、光の妖精はこちらに気づいたようで近寄ってきた。
【.......私が見えるのですか?.....】
「う、うわっ!!ひ、光ってる........」
「う、うん........今は皆見えるよ?」
【ウフフフフッ.........それは運命を感じますね.....っ!?せ、精霊王様.......!】
【ヤッホー........そんなに畏まらないでよ光の妖精~.....気楽に気儘に行こうよ~.......】
〈気儘すぎるのも考えものだけどね!?.......ていうか、やっぱり、サティウスはお偉いさんなんだね.......今実感した.....〉
フィルスの気持ちを読み取ったのか頬を膨らませてフィルスを睨み付けるサティウス。可愛らしくて、まったく怖さを感じない。
「........この状況は......」
【........あぁ.....これはですね........一言で表すなら嵐のようでした。】
「「.......嵐?」」
光の妖精曰く、数時間程前........まだ昼間だったこともありリザードマン討伐隊はガヤガヤ賑わいながら歩いていた。冒険は順調そのもので誰もが油断していたその時.......
「「「「「グギャアアァァアアアァ!!」」」」」
突如として響き渡るその声で冒険者は回りを見渡す。だが、草原には何一つ動くものは居ない.........すると、隊列の真ん中辺りにいた冒険者の一人が突然首を切断されて地面に屍と化して倒れた。
その瞬間、冒険者達は気づいた........これは空からの奇襲だと。気づけば、この辺りではあまり見かけないハーピーの大群に囲まれており討伐隊の半分が戦死、残った冒険者達はハーピーをアイテムバッグにしまったあとリザードマン討伐の為に先を進んだらしい........まだ、助かる命をおいてけぼりにして.....
「.......そ、そんな........酷いっ!」
「........い、いや!まだ一人生きているよ!!」
フィルスとノンシーはその話を聞いて残りの討伐隊達を憎んでいると、フィルスの近くで唸る声が聞こえてきた。近くには地に伏せた男と女が転がっており、男の方にまだ息があった。
「大丈夫ですか?!ひ、光の妖精さん!!助けることって出来ませんか?!」
【........残念ながら.......私ではもう、手に負えません......】
「..........の、残りの......者、達を.......救っ、てやって.....くれ.........それから........お、俺の娘に....ララに.........」
「ララちゃん?!ち、ちょっと!死んじゃダメだよ!!.....」
消え行く意識の中で男が残した言葉は自分の生死より、仲間の家族のことであった.......フィルスは話の途中で言葉を切らし、目を瞑った男を揺するが反応はなく、そこで男の死を確認してから肩を落とす。
「...........行こう.......彼の願いを叶えるために....」
【.......はい。】
「うんっ!」
【勇敢な死に方だったね~.........さぁ~てっ!僕たちも頑張りますか~.......!】
サティウスは相変わらずのやる気のない声ではあるが、今回はやる気のようだ。
「........光の妖精さんはここで、冒険者の供養と、このお二人はこのままを保たせてほしいんです......」
【......了解しました。では、お気をつけて.......】
〈本当は、冒険者達を見捨てた人達なんか助けたくない......でも.......死んでいい命なんて.......存在しないんだっ!〉
フィルスは込み上げてくる怒りを圧し殺し、自分に言い聞かせるように心の中で呟く。そして再び、リザードマン討伐隊を見つけるために明るくなってきた草原を歩き始める。
ありがとうございました。




