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猫愛ずる姫君  作者: 月乃渚
本編
8/16

8 戻りたい、戻れない

 俺が猫になって一週間ほどたった。

 未だ白魔術師のウェントワークスからは何の連絡もなく、一体どうしたものかと思い悩んでいる。

 あの男に本当に任せておいて大丈夫なのだろうか?

 そして、非常事態だというのに何もできない自分にいらだちがつのる。

 そんなストレスがたまった状態の俺に、ミラベル姫が作ってくれた紙を丸めたボールを作ってくれた。

 そのボールを追いかけたり、両手でつかみあげたりして遊んで......訓練していたとき、アルシア嬢が勢いよく部屋に入ってきた。

「英雄十二王の像がすべて破壊されましたわ。」

「なんだって!」

 英雄十二王像は王宮の入り口の前に並んでいる、アルゴール王国の過去の優れた国王たちを称えて作られた巨大な十二体の石像だ。

 国民からも敬愛されている英雄王たちの像を壊すとは、どこの不届きものだろうか。

 それにしても、像一体が人間三人分の高さはあるようなものをどうやって壊すことができたんだろうか?

「昨日の夜のうちに破壊されていたみたいで、目撃情報もなくて犯人が特定できていないんですけれど、おそらく魔術師でなくてはあのように大きな像を一晩で壊す力は持っていないだろうという話になっていますわ。」

「たしかにそうですね。兵士が十人かかってもなかなか壊せるものではないし。ウェントワークス殿はどうされているんですか?」

「それが、どこにもいないんですの。」

「この非常時に?何をしているんだ彼は!」

 王宮近くで破壊行為が行われたということは、やはり王族の命も危ない。

「それはやはり、あの時の黒魔術師がやったことなのかしら?」

 ミラベル姫はいつもと変わらない様子で聞いている。

 肝がすわっているのか、危険がわかっていないのか。

「おそらくそうですわ。」

「王族のかただけでも、どこか安全な場所に移られた方が良いのではないか?」

「あの白魔術師の方が結界をはってくださってるんでしょう?だから大丈夫じゃない?」

 ミラベル姫はここは安全だと思っているようだが、危険というものはいつどこで起こるかわからないものなのだ。

 俺は国境近くや治安悪化地帯にも勤務していたことがあるから、痛いほど身に染みている。

 いつもその大丈夫だ、と思う心のスキに入り込んでくるものなのだ。

「陛下や殿下方はどうされてるんだ?」

「通常の生活を送られてますけれど......。」

「なぜだ?早く王宮から離れた方がいい。」

「そうやって騒ぎ立てて混乱を起こさせることこそ相手の思うつぼかもしれないから、事を大げさにするべきではないとエドモンド殿下が言われて、みなそれに従っておられますわ。」

「むう......。」

 エドモンド殿下はいつも穏やかではあられるが、少し冷静すぎるところもあると思う。

 ただにこにこしながら言われると、逆らえない不思議なオーラがある。

 というか、俺は少し苦手だ。

 何を考えているのかわからないところが少し怖い。

 ディミアン殿下はその点、非常にわかりやすい。自分にも他人にも厳しいし、融通が利かないところもあるが、軍人の俺にとってはその単純明快さは従いやすさでもある。

「とにかく、ミラベル様も一応注意されていてくださいね。」

 アルシア嬢はそう言って部屋を出て行こうとした。

「あら、アルシア、もう帰るの?」

「お父様と一緒に騒ぎ立てている役人どもを落ち着かせに行ってまいりますわ。それでは。

「あ、待ってくれ!」

 俺は白魔術師がいそうなところを聞こうと思ったが、アルシア嬢はさっさと出て行ってしまった。

 この猫の姿から戻るにはどうすればいいのか、その方法はわかりそうなのか聞きだしたいのだが。

「さ、クーちゃん、外は危ないから部屋でじっとしていましょうね。」

 ミラベル姫はそう言って俺を抱き上げようとしたが、それをするりとかわした。

「もう、クーちゃんったら、私のいうことを聞きなさい。」

「ミラベル姫、私はここでじっとしているわけにはいきません。早くもとの人間の姿に戻って、騎士としてこの非常事態に対応しなくてはならないのです。」

「何を言っているの?人間の姿になんて、もどらなくていいじゃない。クーちゃんはずっと可愛い猫のままでここにいるべきなの。」

「それが許されるのであれば、ミラベル姫のご希望を叶えて差し上げたいのですが、私はまがりなりにも騎士なのです。この身でもってこの国を守る責任と義務を負っているのです。今こそこの国のために動かなくてはなりません。どうか、ご理解ください。」

「嫌よ、そんなこと。わかりたくないわ。」

 ミラベル姫は怒ってそっぽを向いてしまわれた。

「ミラベル姫。」

「だめよ。人間のクーちゃんなんて、見たくもないわ。」

 この言葉には傷ついた。

 俺は確かに姿は猫だが、中身は人間だ。

 騎士であることを誇りに思っているし、その責務は果たすべき立場なのだ。

 ここまでくると、ミラベル姫のこれも甘えというより単なる子供のわがままだ。

「あの白魔術師がきっとなんとかしてくれるわよ。アルシアだってずいぶんと信頼しているようだったし、別にクーちゃんが出て行ったとしても、できることなんかないわよ。」

「ミラベル姫、あなたに私のことを理解していただけず、残念です。」

 重たい沈黙が流れる。

 俺はふう、とため息をついた。

 できることなどないとは、ひどい言われようだ。

 たしかにこの猫の姿では何もできないかもしれない。

 だからこそ、早く元の人間の姿に戻りたいのだ。

 元に戻れば、国を守ることができる。

 そうすることはつまり、ミラベル姫のことを守るためでもあるのだ。

 それがなぜわかってくれないのだろうか。

 ミラベル姫はただ猫を思うがままに可愛がりたいだけなんだろう?

 中身の俺のことなどどうでもいいのだ。

 もう黙って従ってなどいられない。

 隙をみて、この部屋を出よう。

 そして白魔術師ウェントワークスを探すのだ。

 俺はひそかにそう決心した。









次回、クーちゃん家出する。をお送りします。

お読みいただき、ありがとうございます。

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