勇者様(笑)の呪いか、実力か。どう転んでも笑える展開にしかならないこのパーティ。
絶望の夜をやり過ごして。
神官さんと私が目にしたのは、もぬけの殻の部屋。
怒りも、憾みも、攻撃魔法さへどこへやっていいのか分からず、呆然とする。
人間って、自分の想像を上回る展開があると、呆然として、その後笑いたくなるんだな!と新しい自分にこんにちわ。
いや、もぬけの殻というか、正確に言うと、もぬけの殻ではなくて、「賢者さえいなければ、自由だぜ」とのたまった盗賊の頭にぼこぼこにされた勇者様が、仲良く茶髪ボブのサキュバスミーと、金髪ショートカットのサキュバスムーと剣士と縛られて部屋に転がされてた。この現状を見て、さすがに攻撃魔法で勇者様を吹っ飛ばすのは断念した。
全てが落ち着いたら夜道で背後からぼっこぼこにしてやるし、王女様と娘さんにはお父さん残念だったよと絶対せびれ尾ひれ、しっぽまでつけて話をして
「お父さんサイテー。絶対もう顔も見たくない」
って言わせてやるけど。
どうやら、もろもろの事件はロングヘアの黒髪サキュバスにそそのかされた盗賊の頭が、自由になるために、企てたことだったらしい。
黒髪サキュバスが盗賊の頭以外に掛けたサキュバスの魅惑のフェロモンの影響で皆の意識が混濁しているところで、盗賊の頭が賢者様の水に混ぜて飲ませた痺れ薬を飲ませて殺して、自分に課せられていた鍵と賢者様の魔法を無効にした上で、勇者と剣士には出て行ったと嘘をついて、更に酒宴でしこたま酔わせてサキュバスとうにゃうにゃしてるところをぼこって縛って出て行ったらしい。
手段は全然納得がいかないけど、うん。まあ。
魔王退治の道案内に牢獄から出したのに、魔王城で酒盛りされたら、自由を求める気持ちは、わからなく、もない。
やり場のない盗賊への怒りは全て勇者に向かう。
こいつが、こいつがもっとしっかりしていれば!
むしろ、ちゃんと魔王を探して討伐していれば!!!
何、サキュバスといちゃいちゃしてるんだっ!!!
盗賊の頭は何年探してでも因果応報ってものを味わわせてやると心に誓い、とにかくまずは勇者への復讐含め、未来の報復より、手近なぶっ飛ばしだ!
自分がアー様とかいう高位魔族に目を付けられたせいで、こんな展開になっているんじゃないかという不安には、必死で目をつぶり、勇者への呪いの言葉を吐く。
はげろ!
は・げ・ろ!!
もげろ!!
も・げ・ろ!!
むしろ、もう、バルス!!!!!!
万能の呪文をぶつぶつ唱えていると、神官さんが察したように頷いてくる。
それにしても。
本当にこの後始末どうつけようか。
頭痛が痛い。
もうパーティにいられないと覚悟を決めていたとはいえ、こんなカオスな状況を放置して城に帰るわけにも行かず、仕方なく神官さんが皆に解毒して、縛られているロープを外しているのを手伝うことにする。
神官さん偉いな。
私どうしていいのかもう、本当に、茫然自失とはこういうことを言うんだなと。
展開についていけてないよ?
あ!ロープを外す振りして、ちょっと勇者様燃やしたのはご愛嬌だ。わざとではない。
悪意はあったけど!
あまりの勇者の無防備さアホさにもがっくり?絶望?いや、失望?
魔王城で酒盛り始めたときにもうこれ以上、勇者様(笑)には何の気持ちも持たない、と決めてから追加で、怒り、憎しみ、悲しみを矢継ぎ早に味わわされ、そして、いっそ哀れになるこの展開。脱力感しか感じ得ない。
怒りも悲しみも、一旦脇において、現状把握と、体制の立て直しに全ての労力を使わざるを得ないこの状況。
セミロングとショートカットのサキュバスが黒髪サキュバスを貶めることで、必死に勇者を盛りたてて、格好良いとかほめてるけど。
魔王は倒さない。
むしろ探さない。
魔王城で酒盛り。
酒池肉林。
サキュバスに鼻の下伸ばして。
パーティのメンバーは殺され、逃げられ。
この勇者パーティ、一体何のために存在しているんだろう。
むしろ、魔王倒さないなら勇者いらなくない?
何処が格好いいんだ?!
サキュバスのくせに目が節穴か!
は!むしろこれも魔王の罠?!
疑うも、何の展開もあるわけでもなく、サキュバス二人が勇者様(笑)を盛り上げているのを、ただ半笑いで神官さんと眺めることくらいしかやることがない。
「これから、どうしよっか」
賢者様の報告もしないといけないし、あまりの脱力感に、暗に城への帰還を視野に入れて、神官さんに呟くと、
「ね?」
と、神官さんも困ったように視線をまだ盛り上がっている剣士と勇者に向ける。
「「あ!!」」
あまりの展開にすっかり勇者も知っているとばかり思っていたけど、盗賊の頭が犯した罪を勇者は知らないんだった。
思い出した私が勇者に言えば流石にやる気になって、盗賊の頭なり、魔王なりを探すんじゃないか?と声をあげたその時。
被せるように勇者様と盛り上がり続けていたセミロングのサキュバスが大声を出して立ち上がる。
「そいえば、アー様からお手紙の返事もらって来いって言われてたんだったー」
「あーー!そうだよー!ミー、はーいって返事してたじゃん!」
仲が良いのか悪いのか、勇者様を右側から彼女面して持て囃し、きゃいきゃいしている、セミロングのサキュバスに、左側の手を掴もう
としたショートカット金髪のサキュバスが言い募る。
「ムーもはいっって言ったじゃん~」
ミーというセミロング茶髪のサキュバスも言い返す。
どうやら、二人とも、勇者の側を離れたくなくて仕事の押し付け合いをしているようだ。
えっと、手紙って、城についたときに渡されていた、これ?
すっかり忘れ去っていた一枚の紙を思い出して、懐から取り出す。
うん。前と一緒だよね?これ。
転職届・・・?
と思いつつ開いたそこに書かれた文字は、
婚姻届。
・・・?
御免。ちょっと色々展開が急すぎて私の目が悪くなったのかな?
ごしごしと擦ってみるも、文字は変わらない。
間違えがなければ、そこには結婚をした二人が教会に届け出る書類に書かれていた三文字が渾然と輝いていた。
婚姻届、だね?
「お断りだーーーーーーー!」
色々溜まっていた気持が噴出して思わず、熨斗をつけて叩き返す。
熨斗を作成して、一緒に添えるとか、本当に魔力の無駄遣いだけど。
熨斗の意味も転移者の神官さん以外分からないであろうけど!
そんなの構うもんか。けっ。
答えられるか!
こんなもん!
勇者パーティは御免だと言ったけど、高位魔族の嫁も人間やめるのもごめんだ!
叩き返した手紙がムーのところへ飛んでいったのを二人で押し付けあっている。
そんなに、断りの手紙を持っていくよりも、勇者様の側にいたいのか。
胡乱な眼になった私が、思わず、
「二人まとめて、帰れーーーーーー!」
つい、手加減なしに魔法をぶっ放す。
うん。もちろん、間に勇者様もいたけど。無問題。
一応くさっても勇者。さっと自分をガードしたし。
そして、彼女(笑)風に両脇を陣取っていたけど守られなかったサキュバス二人が風に煽られて窓から吹き飛んでいく。
剣士様も巻き添えたけど。なんとか剣を突き立てて頑張ってる。うん。脳筋。
あのサキュバス達もこんな男のどこがいいのか、風に飛ばされたどこか遠くの空の果てで改めて考えてみるといいんだ。
ふぅ!初めて、このパーティでいい仕事したんじゃないかなっ?!