そんな勇者様(笑)パーティの行く末は、予想外過ぎてお手上げです。
この話だけド・シリアスです。
人の死を扱っているR-15シーンがあります。
とはいえ、ラブコメですので、さらっと流しますが、決して命を軽んじているわけではないのでご理解下さい。
結局、サキュバス三人娘がどういう意図で勇者様をおだてていたのかは謎だけど。
おだてられた勇者様は木に登り。もとい、ふかふかであろうベッドに飛び込んだらしく。
「はい、勇者様、あーん」
「あーん」
私と神官さんの白じと目もなんのその。
「熱いっすねー」
やっぱり何故か煽る盗賊の頭。
「ひゅーひゅー」
野営地に着くまでにすっかり盗賊の頭に心酔したアホの剣士が囃し立てる。
あ。あれ?!デジャブ?!
ごしごしと眼を擦ってみると、かつてみたミーシャの姿が、セミロングのウェーブした茶色の髪の中くらいのサキュバスへと変わっただけの、全く勇者様(残念)の様子も構図も同じような光景が繰り広げられていることに驚嘆を禁じえない。
そんな驚愕の朝を迎えた数日後、私と神官さんは絶望することになる。
毎朝毎晩、魔王討伐という使命すら忘れて、すっかり魔王城でくつろいでいる勇者様ご一行。
残念なことに私達、含む。
含まれるのは本当に心外なんですが。
定型文となった
「はい、勇者様、あーん」
をミーと名乗る茶髪サキュバスと勇者様の間に、いつもは止めに入って宥めすかせていたはずの賢者様が見当たらない。
勇者様(怒)を締め上げて聞き出したところ、賢者様は昨夜魔王城を出て、王に報告をするためにも、城に戻ったというのだ。
賢者様が、魔王はちょっとお出かけしているのでちょっとこちらのお城でくつろいでお待ち下さい~というサキュバス三人組を宥めすかし、勇者を説得して魔王探しに行かせようとしていたのが嫌だったのか、それともミーシャでもダメだったが、今、勇者が相手をしているのはサキュバスですよ!とお説教をするのが鬱陶しくなったのか、もう必要ないと思ったのか、賢者なんていなくても勇者さんがいれば余裕っすよーとか意味が分からない煽てをする盗賊の頭と剣士の口車に乗ったのか。
真相は分からないが、こいつ、賢者様を追い出しやがった!!!!!!
理由の心あたりを挙げて悪態をつきながら賢者様の部屋に飛び込んだ私と神官さんが見たのは、賢者様の大事にしていた護符。神官さんや私に一言もなく居なくなるのもおかしいとは思っていたけど。
「俺が急ぎで報告に行かせた」
ってどや顔のアホ勇者を信じていたわけじゃないけど。
それでも火急の用件と言われたら旅立つこともあるのかもしれない。なんてはかない希望を抱いていたのが、膝から力が抜けて神官さんと抱き合いながら床に崩れ落ちた。
賢者様の亡き奥様が旅の安全を祈願して、昔作ってくれていたという護符を置いて、賢者様が出掛けるわけがない。
城までとは言っても、魔法で転移を使ったとしても、だ。
真っ赤に染まった視界で思わず攻撃魔法をぶちかませようとする私を現実に引き戻したのは、冷たくなった神官さんの指の感触だった。
「ロクちゃん、落ち着いて」
痛いほど握られた腕の感触が、心を落ち着かせてはくれたが、二人共、色々な可能性を考えれば考えるほど、腕がカタカタとどちらともなく震えてくるのが分かる。
「ひゅー…、ひゅー」
必死に震えを押さえながら、何度も意識してゆっくりと息を吸う。
「け、賢者様が、私達に何も言わずに報告に戻ったり、し、しないよね。」
「まだ、間に合うかも。落ち着いて、とにかく、探そう」
最悪の可能性を除外しようと、とにかく二人で城を上から下までくまなく探す。
鐘楼、無人の玉座、壁の裏の秘密通路、倉庫、階段の下の使用人用階段や廊下、地下牢まで。
昼間からお酒を飲んで盛り上がっている勇者、盗賊の頭、剣士とサキュバス三人組に見つからないようそっと物音も足音も消す魔法を掛けながら。見つからないように。
一週目。見つからない。
二週目。もういっそ探しているのを見つかってもいいと、必死で。
探査の魔法を掛けても生命反応が見られない中、絶望の中で、とにかく眼を皿の様にしてどこか変わったものはないか、這い蹲るようにして探した結果、願いも虚しく、私と神官さんはついに、賢者様の変わり果てた姿を見つけてしまった。
地下牢の片隅の妙に柔らかい土を不審に思い掘り起こしたそこに。
変わり果てた姿の賢者様が。
必死で蘇生の魔法や回復の魔法を掛けてみるも、失われてしまった命は、もう戻らない。
「け、賢者様…。」
もう、全部、全部、勇者様も私達も皆みんな、城ごと吹き飛ばしてやろうと思って、魔力を練り合わせるも、動揺からか、上手く纏められない。神官さんも私の肩を強く掴みながら、静かに涙を流していた。
「だ、誰が」
聞くまでもなく、分かってた。城を出た、なんて言った人がいるんだから。
それが答えだ。
ここにいると思っていないのか。嘘なのか。そんなことはどうでもいいけど。
「何のために?」
「どうして?」
「どうやって??」
答えなんて返ってこないのが分かっていても誰何をやめられない。
賢者様は強くて賢かった。私や神官さんよりも旅慣れていて、一人で危険な地域に赴いていたこともあった。
普通なら、勇者どころか、盗賊の頭や剣士が三人掛りでいったとしても、サキュバスも一緒に相手をしたとしても、遅れをとるはずがないんだ。
「あいつら…」
呟きはいつしか悪態に変わる。
「想像以上に最悪だった」
もげろ、どころの騒ぎじゃない。
しかも、賢者様をこんな目にあわせておいて、サキュバスと酒盛りとか!
「まじで、燃やしてやりたい。消し炭になるまで」
滅びの言葉が口まで出かけるが、そんな生温いやり方じゃ許せないと、言葉を飲み込む。
賢者様に何をしたのか。その口から聞いて、同じようにしてやらないと許せない。
「理由を、ちゃんと、聞いて、何を、したのかも、聞いて」
私の囁きに神官さんが目を見張る。
「絶対、同じ目以上の目に、逢わせてやる」
紡げる言葉は呪いの言葉しかなくて。
力の無い自分が悔しくて。
今すぐ殴りこみを掛けて全部吹き飛ばそうとする私を、必死で止めた神官さんの諭しで、とりあえず、暴走を踏みとどまり、賢者様のためにできることをして、朝まで落ち着いてしっかりと体力が回復してから、最悪戦おうという話しに落ち着く。
私一人なら、耐えられなかった。
きっと、攻撃してた。
それでも、私を拾ってくれた神官さんのように。
神官さんに取っては、賢者様が私にとっての神官さんだって聞いていたから。
神官さんが耐えているのに、私が吹き飛ばしちゃいけないと。
何度も何度も目の前が真っ赤に染まる怒りを飲み込みながら、一晩中、まんじりともせずに、神官さんとひっそりと賢者様の弔いを行って、やれることが全部なくなってから、やっと落ち着いて尋問する冷静さを手に入れた。と思えた。
遠く離れた地下牢からなんて、愉しそうな酒盛りの音は聞こえないはずなのに。
どこからともなく、奴らの馬鹿騒ぎの音が聞こえてくるような気がして。
シーツに包まって、嗚咽を飲み込みながら、神官さんと二人、
「落ち着こう。吹き飛ばす前に、まず、話だ。」
そう、ただ、ただ、繰り返して互いの手を握り合って朝が来るのを待ちながら、今までで一番の後悔を何度も何度も噛み締めていた。
どうして、私たち、勇者のパーティで。
あんな腐ったような勇者、仕方ないけど、サポートなんてしているんだろう。
もう、サポートなんて出来ない。
疲れ果てた精神が回復のため、強制的に眠りに誘うのに抗いながら。
私と神官さんは勇者パーティにいるのは、もう、無理だ、とそう思ったんだ。