勇者様(笑)の偉業は続くよどこまでも。いよいよ色々な意味で戦慄が止まらなくなってきました!
神官さんと私が憂さ晴らしに勇者、まじでないわ!と愚痴愚痴言っていると、
「みっけた」
「みーつけた」
「お使いです~!」
と、頭上で、女の子の声が突然聞こえる。はっとして二人で頭上を見上げると、神官さんが破った転職届を三人の羽の生えた女の子が追いかけている。
もちろん、白い羽じゃなくて、黒い羽の方だ。
「これアー様のでしょ?!」
「アー様の匂いがするー」
「アー様からお返事もらって来いって言われたのー」
ショートカットの金髪、青い眼くりくりの小さな子と、セミロングのウェーブした茶色の髪の中くらいの子、そして、ロングヘアの黒髪のしっかりした外見の大人しそうな背の高い子。
見事にパターンの違う三人の女の子、とはいっても、私や神官さんより年下そうなだけで、人間で言うところの20代前半くらいには見える女の子たちがきゃいきゃいとちぎれて空中を舞う紙を追い掛け回している。
あ、頭痛い。
めんどくさい奴の後に、沸いて出た明らかに面倒そうなモノを破って捨てたら、そこからまた小悪魔たちが。
私と神官さん、厄年なのかなー。
がっくりとしながら神官さんを縋るように見ると、神官さんもがっくりと肩を落としていた。
うん、絶対碌な展開が待ってない匂いしかしないもんね。
ごめんね、神官さん。私がアホ女に絡まれたばかりにこんな展開に。
アー様っていうのが誰かは知らんが、多分さっきの黒悪魔で、彼を追いかけて来たか、お使いで来たかの奴等に違いない。
「か・え・れ」
原因になっているであろう紙切れに向けて魔力を流し込み、消し炭に変えてやる。
「あーアー様の」
「お手紙燃やしたー」
「せっかくアー様が用意したのにっ!」
「お伝えしないと!」
「あ、ずるい!自分だけ話すつもりでしょ!」
「三人でお話にいきましょ~」
あ、何やら正解だったようだ。
自己解決?した彼女達がびゅーんと夜空を飛び去っていくのを見送りながら、
「あれ、解決したのかな?」
呟くと、神官さんの残念そうな声が。
「いやー。後でまた戻って来そうな」
「よし、立ち去ろう!」
見た感じ、サキュバス三人組っぽかった彼女達と戦えなくもないだろうが、できるだけ戦力は温存しておきたいし、無駄な戦いは避けたい。あの高位悪魔の情報を賢者様や神官さんに報告する上でも、もう少し情報を引き出せた方が良いかもしれないが、ともかくは、避けられるなら避けた方がいいだろう、と即座に判断を下し、火の元へ戻ると、すぐに全然起きない勇者ご一同様と膨れたミーシャを叩き起こして、出立の用意を整える。
いや、ミーシャ、お前が諸悪の根源だからな。
何自分は言うだけ言って、しれっと寝てやがるんだよ!
膨れ面してるなよ!
膨れたいのはこっちだ。
賢者様に許可をもらい、私の分も賢者様に負担を強いて、私は苛立ちを魔法に変えて、ぶっ放しながら、皆の先を急がせる。
その後、私の叱責と、強行軍に耐えられなくなったミーシャが結局、戦線離脱を余儀なくされ、本人が本当に申し訳なさそうに勇者様の足を引っ張るわけにはいかない、と涙ながらに身を引くと伝えてイチャイチャブチュブチュ愁嘆場を繰り広げ、熱烈な別れのシーンが長引くことに腹立たしくなった私が、ミーシャを強制的に街に送還したり、それと前後して、王城への定期連絡の際に、ついに、王様が勇者が戻り次第姫と勇者を離婚させて、姫と孫娘である王女とは金輪際会わさないと宣言して、勇者が私達のせいだと逆恨みして主に賢者様に突っかかったりしたけれど、それもこれも些細な出来事だった。
後に起きた戦慄の出来事に比べると。
流石に娘である王女と会えなくなるとか、離婚にダメージを受けたのか、はたまた愛人ミーシャが
街に帰ったのが辛いのか、ミーシャの不貞腐れ顔が移ったのか、勇者のやる気がますます低下していく中、何とか魔王城の城前までたどり着いた一行を迎えたのは、あの時飛び去ったサキュバス三人組みだった。
その三人を見るなり、テンションがあがる、盗賊と、剣士と、勇者様。
えっとぉ…私達、魔王の討伐に来てるんですよね?!
遠足でもデートでもないよね?!
常識的に考えて魔王城にメイド服着た一般人がいるわけないから、完全に魔物だよね?!
どう見てもカワイイ女の子の姿の魔物ってことは9割方、サキュバスだよね?!
いくら、想定していたおどろおどろしい建物ではなくて、ちゃんとした綺麗なお城が目の前に現れて、豪奢なシャンデリア、真っ赤なふかふかの絨毯の上で、メイド服着たかわいい女の子3人組が
「お待ちしておりましたー」
とか言ったとしても、百歩譲って、それを戦って倒せないまでも、何受け入れて接待されてんの?!
罠でしょ?!
どう考えても罠でしょうよっ!!!
「あ、魔法使いさんにお手紙です」
「アー様からもう一度お渡しするようにって」
「はい、どうぞ」
明らか、この前のあの「手紙」が入っているだろう封筒を私が差し出されていても、
「あ、ロクの知り合いがいるの?え、ここ魔王城?魔王って怖くないの?」
とか、いきなり警戒を解くな!むしろ疑え!
あれは断じて私の知り合いにカテゴライズして欲しくないが、よしんば、知り合いだったとしても、魔王城って時点で敵だろうよっ!
き・づ・けーーーーーーーーー!
全力で念を送ってみるが無理なようだ。
神官さんが本当に残念そうな眼差しで勇者様を見て、私に諦めろと小さく首を横に振ってくるが、私は諦められない。
いや、だって、私のせいにされそうじゃん!
王様とかに
「魔王討伐に行ったんすけど、ロクの知り合いが居たみたいで、ウェルカムモードだったので、仲良くなって帰ってきましたー」
とか言われたら私死ねるよ?!
人類今まで何してたよ?ってならない?!
ねぇ、ならないの?!
賢者様に必死で訴えてみるけど、賢者様は頭を抱えるのに忙しそうだ。
うん。そうだよね。そうなるのが普通の反応だよね。
なに盗賊と剣士は勇者様、さすがとかおだてて、よ、魔物と人の友好条約!とか意味が分からない囃し立てして、馴染んでるの!?
さりげなく食堂に入るな!酒盛りすな!
サキュバスを腕に抱くな!!!
ああああ。
もう、全部、全部ふっ飛ばしたいよー。
皆、もげればいいのに!一応、賢者様は除く。
もう一度言う。大事なことだから!
もげろーーーーーーーーーーーーー!