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勇者様(笑)パーティの魔法使いだと自分では思っていたのですが。

「勇者様の足を引っ張るのはやめて」

は?!


苦笑いしか出てこないな、とか、本当に碌なことに巻き込まれないな、とか、燃やしたらばれるかなー、とか。

ぼーっと考えている私を引っ張り、皆が寝静まる簡易テントから少し離れて、声が聞こえないくらいの場所まで移動した木の下で、ミーシャとやらがいきなりのたまった。


あ・し・を・ひ・っ・ぱ・る?!


誰が?誰の?

誰がどう見ても、勇者とお前が私達の仕事増やしてるんだろうよ!

自分を省みれよ!小娘!

そんなに年齢は変わらないはずなのだけど、あまりの脳内幼児具合に思わず小娘呼ばわりした…

「は?小娘何言った?」

くなるどころか、しっかり小娘って出てしまった。

「勇者様と私がうらやましいのはわかりますが、私達は愛し合ってるのですよ?!」


え?!

女鹿店。

妻蛾転。メガテン。目が、点。

突っ込みどころがありすぎて本当に意味が分からない!

うらやましくないけど?!

そして愛し合ってるって?!

妻子ある人と?!

随分と自分勝手な愛だけど、まぁいい。

個人の自由だ。

で、それがこの「お仕事」にどう関係があるんだ?!


「えっとー。まず、うらやましくないです」

とりあえず、否定できるところから否定してみる。

出来る仕事から片付けていく主義ですから。

小さなこともこつこつと。

巨大な魔法構築には、基礎の三元素大事。


はっ。思わず現実逃避してしまっていた。


ミーシャ(笑)とやらはその間も、「私と勇者の愛の物語」を語っていたが、そんなものは馬耳東風。

そよ風、そよ風、と聞いていなかったのがばれたのか、段々とミーシャ(笑)がエキサイトしてきた。


え?!

どこにエキサイトする要素が?!

勇者に興味ないし、うらやましくないって散々相槌打って来たのに。おかしいな。

言葉、通じてないのかな。

試しに隣国の言葉で話してみる。うん。余計怒った。何でだ。馬鹿にしたのは全然伝わってないみたいなのに。

雰囲気か!

ある意味すごいな!


ちょっとミーシャ(笑)の特殊能力に感動しつつも、全然うらやましくはないなと思ってきた辺りで、あまり火から離れたくもないし、そろそろ話を打ち切ろうと、完全に流れをぶった切ってやった。

「で、そ・れ・が、結局、何になるんです?」

憤慨したミーシャ(笑)が、頭から湯気を出しながら、如何に自分と勇者様が働いているか、自分が勇者様のためにやりたいことは何か


を羅列しはじめた。

「うん。一言で纏めると、私達にサポートに徹して、もっと勇者と自分が戦ってるように、何なら自分が戦って勇者様のお役に立ってるようにみせろって、言ってるんだよね?」


うん。頭いたー。

「さっきからそう言ってるでしょ?!私達は愛し合ってるんですから!」

うん。それ理由じゃないからな。


これかー。さっきの警報。

話なんて聞くんじゃなかったー。いや、まぁどうせ碌でもない話だとは分かっていたけど。もっと、せめて、もうちょっとでも実のある話かと思ってたー。

うん。こいつ、まじで賢者様とか、神官さんが手を変え品を変えて今のパーティの状況とか説明してたの、まじで!一欠けらも聞いてなかったんだな!

二人の努力の結果に、つい稲穂のように頭を垂れたくなる。


しょっぱい。しょっぱいよ。。。目から塩が。この田畑の稲は最初から芽も出ていませんでした。塩田だったよ。。。

現実逃避に大好きなおコメについ妄想を広げてしまう。

ああ、ほっかほかのご飯をお腹一杯、あったい御家で食べたいなー。

ぽかぽかお風呂に浸かって、そしてふっかふかのお布団で寝るんだー。


この世界に強制的に転送される前の、もうほとんど忘れてしまった、数少ない幸せな記憶を掘り起こしながら、遠い目でここにはない幸せアイテムと歌を思い出す。

熊の子には動物園でしか会わない世界だったけど、幸せだったなぁ。

まぁ今も不幸じゃないけど。

人間て手に入らない幸せは至福の一品に見えちゃうよねー。

ご飯ー。お風呂ー。布団ー。

ご飯とお布団はともかく、無事に帰ったら国王様に言って、皆で入れる大きなお風呂作っちゃおうかなー。

あと、とりあえずこの女また明日にしたいなー。


「ぶふ!!!!!!!!」


ぶふ?!

頭上からの突然の爆笑に警戒を一気にMAXまで引き上げる。

魔王城のテリトリーに、人がいるなんてことはまずない。


緊急警戒警報。

神官さんと賢者様に思念転話を送るが、応答がない。


こんな馬鹿な女に引きずられるままに、火元から離れたのがますます悔やまれる。

が、魔法を使うのに便利な火元から離れてしまった上に、思念転話も妨害されているのか、離れすぎてしまったのか繋がらない不利な状況を掛け合わせてしまっているとは言ってもまだまだ引き出しは沢山ある。

そうじゃないと勇者パーティではノタレ死ぬからね。

いくつかの魔法を同時展開させようと動こうとした瞬間、それを察知したのか、ミーシャと私が対峙していた場所の横の立派な楠の上から、根元に、一人の男性がすとん、と音もなく降り立つと、両手を上げて

「どうぞ、続けて?ぶふっ」

と、すぐに上げた左手を口元に、右手はお腹に回してしゃがみこんだ。


続けて、って言われてもねぇ。

流石に魔王城のお膝元みたいな森の中で、得体の知れない男が現れたら、あんなアホな会話に付き合ってる余裕はない。

いや、魔法撃って闘ってるところで別に口も動かして、完膚なきまでにミーシャを叩き潰して論破してもいいんだけど。

それやったら尚更面倒くさいことになって、魔法誤爆するのが目に見えてる。絶対ミーシャぶっ飛ばしたくなるもん。

100%って中々人生の決断でないけど。100%確実に!やる!


「いやー久しぶりにおもしろい思考が飛んでるなーと思って来たら、ぶふ」


魔王城のお膝元で、人型で、足音もなく高所から飛び降りる男なんて、確実に、高位の魔族に違いないのに。

どうやら笑い上戸だったのか、ツボに入ったのか。

さっきから男が笑い転げているせいで、私の緊張感とか、警戒もそっちのけで、ミーシャがすぐに警戒心をなくして、さっきの話を続けようとしてくるのと併せて、ダブルでびっくりして、思わず丁寧語もぶっ飛んだ。


「で、さっきの話ですけど」

「いや、状況読めや。そういうとこだろーが。今までの話の結論も」

「そうやって逃げる気ですか?!」

「いや、逃げてないし。むしろ、殲滅したいし。あのさ、ほんと、空気読んで?!」

「私と勇者様がうらやましいのですね?!」

「そんな話してない。今。」


勇者様(残念)は、薄々気が付いていたけど。

女見る目もなかったのか。

話通じない女よくも連れてきてくれたな。

警戒を解く気はなかったけど、苛々して頭をかきむしりたくなる。

ああああ!本当にさっきの嫌な予感も頭痛も、確かに警報だった!


私、何の状況に巻き込まれてるの?!


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