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が、そろそろ勇者じゃなくて勇者様(笑)に格上げしたいです。

「はい、勇者様、あーん」

「あーん」


私と神官さんの白じと目もなんのその。

「熱いっすねー」

何故か煽る盗賊の頭。

「ひゅーひゅー」

一ヶ月程の長旅を経て、最北端の街に全ての荷物と一般人を置いて、更に北に向かい、この森の手前の野営地に着くまでに盗賊の頭に心酔したアホの剣士が囃し立てる。


馬鹿じゃないのかこいつら。

私の視線がますます凍てつく。ことには気付いているのか気付いてないのか。

いや、気付いているのにスルーしているのかっ!


確かに、盗賊の頭の案内で、比較的安全で魔物の少ない道を北上出来ているし、剣士もこんなアホ囃し立てをして、更に言えば下世話でアホなことしか言わないけれど、ちゃんと剣の腕はそこそこ立つ様で、

「勇者様は力を温存しておいてください!ココは俺の力の見せ所ーーー!」

とかなんとか言いながら敵を薙ぎ倒してきている。

でもそのせいか、勇者のポンコツ度合いが増してる気がするんですけどっ!


「気のせいですかね・・・?」

私の呟きに神官さんはそしらぬ方を見て瞬きを繰り返し、賢者様は苦笑している。

うん。気のせいではないんですね。そうですか。

出来た二人を崇めつつ、私は内心で知っている限りの攻撃呪文を念じながら心を落ち着ける。

「ぶっとばしたーい」

いつかこの呪文全てぶつけてやるんだ!とお空の彼方を見ながら呟くと同時に、心の中の黒い言葉が思わず黒い尻尾と耳になって生えちゃうかと思った。

そんな私の荒んだ心中など預かり知らない、にやにやした勇者が、自称踊り子のミーシャからあーんと食べさせてもらった肉を咀嚼しながら、どや顔で盗賊の頭と剣士に、

「うらやましいだろ!嫁とかわいい子供がいて、勇者で、王城暮らしで、かわいい彼女がいて、俺ホンマ人生勝ち組やんな?!」

と、冗談を強調したいのか、今まで以上に調子に乗った口調で自慢していた。


いや、もう本当に何を言っているんだ?!

この女の敵のアホめ!と苛々度が増していく。

「人生の勝ち組とか!」


ア・ホ・過・ぎ・るっ!!!!!


「勝ち組ってっ・・・!」

もう苛々も勝りすぎると哀れな物を見る目になっちゃうんだな、と自分の中の新たな扉を開いて、新しい自分と知り合ってしまった。うん。爆笑しなかっただけでも褒めて欲しいよね。


思わずそっと心の中の黒いものがつい小声で出てしまったの私の口を、神官さんが塞いでくれて、頭を撫でて、そっと水場の方に私の身体を捻って押し出す。

「つ、疲れてるよ。ロクちゃん働き詰めだもんね!あいつら気付いてないけど。ちょっと綺麗な水で頭冷やそう!魔法使いは清廉な場所とか水がいいんだよね!」


わかっているだろうけど、虎視眈々とこちらを伺っている盗賊の頭は別として、阿呆な勇者様と脳筋剣士とは気付いていなさそうだが、ここまで魔王城に近い森に来ると、比較的安全な道の知識と剣士の力だけで乗り切れる様な場所ではなく、私達三人も働きづめだ。

賢者様と私が遠隔でいざという時に転移してまた戻ってこれるよう、転移スポットを結界を張りながら設置しつつ、転移魔法も常時展開できるよう双方交代で発動前の状態にして維持している。折角前進してきているのに、転移して戻って来れなければ、今までの苦労が水の泡となるからね。仕方ないんだけど。仕方ないんだけど!

魔王城の前に一発転移、みたいな事も現状、出来ない以上、この転移スポットを確保て結界を張りつつ転移魔法の維持というのが、魔力消費には実に地味に痛いので、神官さんが、常時回復をかけつつ、私達に馬鹿な剣士と盗賊が倒した敵の有象無象や、むしろやつらが周りのことなんて一ミクロンも考えずに嬉々として振り回してるエモノ自体が当たらないよう、地味に防御魔法をかけたり、聖水で殲滅・浄化したり、馬鹿な前衛二人の身体強化や怪我のリカバリ、更には、道間違えそうになったときにそっと地図と空の状況を確認して誘導したりしてくれている。

皆、神官さんいなかったら死ぬんじゃなかろうか。

もっと有り難がれ。賢者様と私以外は、神官さんの有り難味をこれっぽっちも気付いてなさそうだけど!


盗賊の頭は何を考えているのか分からないけど。

剣士の気付かなさにも苛々するし、勇者もな!と諦めモードながらもやっぱり苛立たしく思う。

でも現状、それよりも何よりも困ったのは、ミーシャとかいう自称踊り子だ。

見当違いに突っ込みそうになるのを賢者様が上手くサポートして、方向転換させたり、私が遠隔魔法で彼女の目の前の敵を蹴散らしたりした上で、神官さんが、回復魔法・防御魔法・身体強化・結界まで張ってくれているのに…。

全く気が付かず、自分が敵を倒した気分にひたったり、勇者に声援を送るのに忙しい。

ああ、タオルも持っていってたな。何もしてない勇者様(笑)に。


「ふふ、置いて、帰ろうか」

道のりを思い出した上で、今の「勝ち組」発言を鑑みると、いっそ面白くなってきた私が、三人の働きには微塵も気付かず、自分達だけがさも働いています!という顔をしている勇者ご一行様にちらり、と視線を送ると、何故か勇者にしなだれかかっていたミーシャと目線がかち合った。


ふふん、という見下したような顔は、まあ、いい。

するような気がしてたし。

なんなら、私と神官さまに対する敵愾心と優越感は最初から隠せてなかったから。


ただ、その瞳の奥に憎悪、嫌悪としか表現できないような強烈な炎がちらりと見えた気がして、私はただでさえ痛い頭に、警報がなった気がした。


私の嫌な予感って、大体こんな時に限って優秀なんだよ!


案の定、深夜、皆が寝静まった頃。今日の寝ずの番が前半私で、後半賢者様だったので、炎の側で焚き火の番をしていたら、ミーシャがそっと私の側にやってきて、突然言った。

「話があるんだけど」

と。


視線が合った時に感じた嫌な警報が何だったのか。

見過ごした自分の頭を叩き割りたくなるようなまさかな出来事が、立て続けに起こるだなんて。

私にも勇者のポンコツが蔓延ってたんじゃなかろうか!

自分で自分を燃やしたくな…りはしないな!

ミーシャもアイツも、全部、全部、燃やし尽くしたくはなったがな!

ああ、本当に、碌でもない仕事の延長だ。

自分の嫌な予感に、乾杯、むしろ完敗だ。

勇者パーティからのとらばーゆは、本当にもうそろそろ可能なんじゃなかろうか。

かんぱーい!


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