仕事と少々のやむを得ない事情ですが、本当にパーティを離脱したいです。
私と神官さん、賢者様がこんな不毛な仕事を引き受けたのは、先ほど、半裸で女と睦み合う寸前、二人の愛の巣(笑)から引きずりだし、襟首を捕まえて王城に引き渡した「馬鹿勇者」が、哀れだからとかじゃない。勇者で有り、魔王を討伐する身の上だから、本当に、本当に、仕方なく、国に必要だからパーティーを組むことにはしたけれど、あんな女癖の悪さ。組んで一週間もせずに愛想が尽きた。それでも、諸々の事情から、本当に、本当に、悔しいけれど、やむを得ず、彼の面倒をみるなんて残念な仕事を引き受けざるを得なかったんだ。
まずは、まさかの、王様の土下座。
しがない平民で孤児の私が、神職者である神官さんが、人格者の賢者様が、どうしてNOと言えようか。
いや、それでも言えるものなら言いたかった。
でも、魔王や魔物の恐怖、国民を守る必要性、そのため勇者の力がどうしても必要なこと。彼にどうしても頼らざるを得ない、国の力不足を詫び、そして、彼の女遊びの悪さを加味しても、どうしても必要不可欠であること。
彼の行動をしっかり管理して、ちゃんと魔王の元まで、成長させながら連れて行く人物が必要不可欠であること。
異世界転生者である神官さんが立ち上げ運営支援している孤児院の支援と引き換えに、彼女のサポートに賛同している賢者様と、孤児院育ちで魔量が凄まじい私の力が必要であること。
そして何より、愛娘の夫として、彼がせめて!せめて!大々的にではなく、隠れて遊ぶよう、どうか、どうか見守って欲しいと。
切々と訴える、王様であるが故に、国のために娘を差し出さざるを得なかった哀れな父親の姿と、国を憂う主君の姿を見せながらの、一世一代の大土下座。
もちろん、孤児院への支援は脅迫でもあり、国に仕えている立場の賢者様に拒否権がないのも承知の上で、神官さんと私の同意を得るための茶番でもある。
大人って汚い。いや、それくらいじゃなきゃ、王様なんて出来ないのか。
更には、国王をサポートするかのように、現実的に金貨を積む宰相様。
それでも、一瞬面倒くささに、国外逃亡も考えたよ!
国さえ出ちゃえば、国王様土下座させた罪もどうにかならないかなと。
でもさ、今までお世話になってきた神官さんと、神官さんをバックアップしている賢者様が取り込まれた上、逃げ切れそうもないし、今にも倒れそうな病弱な王女様がさ、
「私のことはいいのです。それでも、そろそろ物心が付いてくる娘の耳に、せめて入らないようにどうかどうか。」
なんて儚げに指を伸ばしながら賢者様にすがり付いて、王様の横で一緒に土下座しようとするからさ。
うっかり絆された。。。
絆されるっていうか、もう、何て言うか。
拒否権なんてないよね?!
賢者様と神官さんと私の三人が、「じゃあ、まぁ、出来る範囲で」YESと言ってしまったのが運の尽き。
魔王退治、なんてどこ吹く風。
近くの魔物だけなんとなく倒して回る勇者様の首に縄を付けて、というよりは、近くの魔物すら倒しに行くのは面倒くさい、女の子の前でだけ、良い恰好したい時だけ、退治しにいき、人様の手柄は自分の手柄!という勇者様。
賢者様が飴をぶらさげたり、私が背後から火を炊きつけたりしながら、どうにかこうにか魔物退治を敢行している、というのが、現状の勇者パーティーの悲惨な実情だったりする。
諦めた目で見つめながらサポートしてくれる神官さんは、私と賢者様の怒りと溜息をやるせない気持ちで拾い集めてくれている。
我らがパーティ唯一の癒し系だ。
そんな神官さんですら最近は呆れ過ぎて私が勇者様(笑)を物理的にブッ飛ばすくらいなら、まったく止めもしませんよ?
むしろ、魔法で燃やし尽くす一歩手前までなら黙認してくれます。
さすがに「殺すのはだめー」と止められますけどね。
本当に、こんな「ダメ勇者」、彼だけが特殊な魔物を狩る能力を持っているはずという前提の上で神殿が認めた「正式な」勇者でなかったら、燃やした上で、魔物にやられました!って報告して終わりにしたいところだ!
国王様最愛の娘である王女様が、当初彼にすっかりと熱を上げて、婚姻、出産してしまったことも、幼い王孫のために、父親を亡き者にするのはなぁーというのが唯一の踏みとどまっている理由だ!
誰にも言ってないけど、異世界から子供の時に転移させられたようで、いきなり小学校からの帰りにこの世界で孤児になった私にしてみれば、両親を無くすというのは、ちょっとトラウマレベルで避けたい人生の深く大きな谷の一つだ。こちらに来てから転生者の神官さんにすぐに拾われて孤児院で何くれとなく生活の面倒を見てもらった上に、魔力が開花した今では、まぁ若干吹っ切れて人生前向きに楽しんでるわけだけど。
それでも、ねぇ。わざと父親を亡き者にするっていうのは胸糞が悪くなっちゃうよね。
国王様にしてみたら、他所の国に「勇者」を奪われないためにも、この「馬鹿勇者」を亡き者として次の勇者を誕生させるという手段は出来れば避けたいって思惑もあるみたいで、結局娘の婿としてどうかとは思いながらも、苦渋の選択で、婚前交渉で娘を妊娠させた残念な勇者に頭を下げて娘を娶ってもらったという、非常にやむを得ない苦い過去もあったりして。
今更ながらどうすることも出来ない雁字搦めの国の事情と、私の無けなしの良心との複雑?な事情が重なった結果、国王様始め、王城の皆の満場一致で、勇者をどうにかサポートして魔王を倒させよう、という残念な方向に討伐パーティを下方修正せざるを得なかった現状が用意されたわけだ。
ほんと、あの腐れぴーーーーーーーーもげて落ちないかな、と、当初から言っていた私ですが、王女様のお腹が大きくなってきても女遊びは辞めず、こそこそデートしていたと思ったら、最終的に王女様が出産した娘は可愛いけど、王女様は自分を嵌めたと公言して、あっちへふらふら、こっちへゆらゆらと、糸が切れた凧どころか、鉄砲玉のようにどこぞの女と遊び歩く放蕩人生を送り始めたじゃないですか!
王女様は心配そうに訪ねる私や賢者様を前に、美しい美貌に、儚げな表情を張り付けて、はらはらと涙をこぼしながら、
「男性を見る目がなかった私が悪いのです。父上にも国民にも迷惑をかけてしまって。娘にまで苦労を掛けるかと思うと…」
と泣き伏せ。ついには、幼い娘さんの面倒も見ることが叶わないほど衰弱してすっかり寝付いてしまっている。
そんな姿で、
「娘にだけは、娘にだけは父親の恥ずかしい姿を見せたくないのです。お願いします」
と顔を合わすたびに泣きすがられた、勇者パーティ一行が、勇者様のサポート辞めます!なんて気軽に言えるはずもなく、むしろ、賢者様始めパーティー一同、渋々ながら、勇者の女遊びを見つけたらとっちめて王城に連れ戻す、なんて無駄すぎる業務を自分たちから抱え込むはめに。
そんなこんなで、もうすぐ王女様の出産から三年。
物心がついてくる王女様の愛娘、アイリ様をお父さんの悪評という魔の手から守るため、本当に不本意ながら、勇者の首根っこをつかみ魔物退治に引きずり出し、女のベッドから追い出し、王城へと連れ帰る、心底不毛な業務を三人で請け負っているわけです。
私達の不毛な業務、仕事と本当にやむを得ない事情によるものって、ご理解頂けました?
誰か、この不毛な業務に助けを。
でも、そんな日々にも、そろそろ私は限界です。
私の中の黒い尻尾をつけた私が、そろそろ本当に、勇者様を魔物の一撃で殺してもらうか、下半身を事故を装って燃やしてしまうのが、皆のために最善の一手になるんじゃあなかろうか、なんて囁いてくる今日この頃。
堪忍袋の緒が切れそうです。
ちまちま魔物退治をさせるより、魔王に勇者をぶつけて、玉砕するなり、退治して英雄として祭り上げられて、更に女遊びが激しくなり、私達パーティーとは別のところで、女に刺されるなり、放逐されるなり、朽ち果てるなりしてくれたら!と切実に!願い始めています。
とりあえず、近々賢者様を説得して、魔王城に突っ込む許可を国王様から頂きたいと目論んでいます。
え?耳とお尻から黒い何かが漏れ出ているって?
知ったことか!
絶対、後ろから魔法でぶっ飛ばしてやるんだから!