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初めまして。勇者パーティの魔法使いです。

【注意】内輪ネタのフィクションです。

「燃やそう」

「二人とも燃やすか勇者の下半身切り落とそう」


言葉を口から唾棄するように投げつけると、問答無用で窓の向こうでいちゃつく二人、どころか二人ごと家を吹き飛ばす勢いで爆発を生じさせる魔法の呪文を紡ぎ始める私を、背後から必死で神官さんがなだめてくる。


「分かる、分かるよ。気持ちは痛いほどよく分かる。でも、勇者ふっとばすのはだめー」

神官さん必死に涙目で私のローブの袖を引っ張っているけど、毎度毎度お決まりになりつつあるやり取りを繰り返しながらも、全く改まらない勇者の行動に、私の堪忍袋の緒は切れる寸前なんだ。

許して欲しい。

神官さんの横には、私を羽交い絞めにしてでも止めようとする賢者様もいるけど、その腕を振り払い、交互に二人への視線を合わせる。


「二人とも止めないで」


一端中断した呪文の詠唱を再開させる前に、今日こそは言ってやろうと、目の前のだらしない様子の男女をきっと指差す。

「こんな奴ら、燃やした方が今後のため!」

「いやいやいや、魔法使いが勇者を燃やしたらだめでしょ」

必死の賢者様の様相にだんだんと気持ちは落ち着いてきたが、拗ねたように神官さんの方を向き同意を求める。

「気持ちは痛いほど分かるんでしょう?」

魅了して頷かせようとでもするように神官を見つめてみるが、返ってきた苦笑いに、ふん、と鼻から息を一息に吐き出す。


「絶対、燃やした方が今後の世界のためだと思うんだけどなっ」

胸の前で腕を組み、服を半分脱ぎかけた、だらしがない様相の勇者を睥睨する。

残念ながら、同意の声は上がらない。

二人とも内心は私の意見に絶対、絶対、賛成のはずなのに!

とはいえ、穏健な二人から、攻撃許可が出るわけもなく。

がっくりとうな垂れると、私は魔法の詠唱を断念し、力技を行使した。

すなわち、窓枠を全力の拳でどんどんと叩く。

その一択だ。

魔法で吹き飛ばすのが駄目なら、腕力に物を言わせて、物理的行動で阻止するしかない。

あ。物理的行動だけじゃなくて、精神もがりがり削る気、満々でした。


「この、くされ、ピーーーーがーーーーーーーーーーーー!!!出て来いー!!!」


賢者様と神官さんも今度は私を止めなかった。

いつものことだからだ。


あ。誤解しないでください。

私、魔法使いは別に勇者を慕っているとか、嫉妬しているとか、そういうことは髪の毛一本ほどもありません。

仕事と少々のやむを得ない事情から仕方なくこんなやりたくもないことやってます。

間違っても、勇者の恋人ですか?とか、好きなんですか?とかの質問は辞めて下さいね。

こっそり路地裏に入るところを後ろから付けていって、魔法で消し炭にしたくなってしまうので。はい。


どちらかといえば恋愛に興味がなく魔法の研究一筋できた私ですが、一応、女としての身体を持ち合わせている立場から言わせてもらえば、


こ・ん・な・や・つ・ね・が・い・さ・げ!!


たとえ勇者として名声も地位もお金もそこそこ持っていたとして、見た目もそこそこ。

爽やか男子、という感じでさらさらの茶髪を短く刈りそろえて、頼りがいがある言動をしていたとしても。

一皮向けば女好きで、女癖も手癖も悪くて、あっちにふらふら、こっちにふらふらする凧男子、願い下げです。

熨しつけられてもお断りです。

挙句の果てに、最終、そうやってふらふらした女性たちの誰も本命じゃなくて、自分大好き、自分をちやほやしてくれる女性が好き、だなんてやってられません。相手にするのも不毛。


男は黙って、不言実行。


間違っても、俺、勇者勇者、武勇伝話しちゃうよ、なんて鉄板ネタを披露するちゃらい男、好きになるもんじゃありません。


それでも、なんでしょうね。

時代、なんでしょうか。

この不毛な勇者の女関係整理の仕事が、やってもやっても終わらない賽の川原の小石積みレベルで途切れずに必要とされてしまうのは。


はーーーーーーーー。


馬鹿な女達はどうして騙されるかなー。


勇者を物理的に吹き飛ばした始末書を書かされている間にも、がっくりと机に手をつき溜息を落とす私の背中を神官さんがぽんぽん、と慰めるように軽く叩いてくれる。


「頑張れ?」


頑張れじゃないよ!皆で一緒に受けた仕事でしょ!

一緒に頑張りましょうよ!

この馬に蹴られそうな不毛な仕事。


そう。

仕事なんです。これ。残念ながら。


私、勇者パーティーの魔法使い、なんて立場のはずなんですけどね。対外的に見ると。

そしてどちらかというと、周りを冷めた目で生温かく見守りながら、陰湿な罠を張り巡らせたり、その罠に必要な複雑怪奇な呪文を構築したり、研究したり一人でこつこつこつこつ地味ーに仕事してるのが好きなんですけどね。


何がかなしゅーて、こんな、青筋立てて、勇者といちゃつく女達を吹き飛ばすなんて不毛なことを繰り返して、始末書を書かなければいけないのか。

時間も魔力も精神力も使う、哀しい仕事。

本当に不毛だ。

くすん。

それでも、引き受けたからには、どうにか勇者を更正させないといけないんですよねぇ。

葬った方が精神衛生上にも良いだろうし、何より、早いと思うんですけど。

常識人な賢者様と、優しい神官さんが止めるから。

くすん。


私、こと魔法使いは、今日も頑張って勇者を吹っ飛ばして生きていきます!

くすん。

時間と魔力と腕力と、始末書の無駄遣いだ!がっくり。


やらかしました。反省はしています。他の作品もなるべく早くに完結できるよう鋭意努力します。

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