再開の週末が終わり
溜めていた家事をこなしながらテレビを流していると、参議院選の開票速報をやっていた。
「あ、今日は投票日だったのか」
19歳になって初めての投票機会だったのに、サーバー再開に浮かれてすっかり忘れていた。
「20時開票ってなってるのに、既に当確とかあるんだなぁ」
まだ5分とたってないのに、次々と当選の数字が増えていっている。
「野党第一党の民心党が議席数を伸ばしており、大勝の様相です。現行政府にNOが突き付けられた形となり、何らかの政策変更が……」
放送を聞き流しながら、用事を済ませていった。
「やっぱ楽しいわー」
一時は引退していたはずの紹司だったが、この週末はすっかりALF漬けだったようだ。
昨日も俺を魔術研究連盟に引き合わせた後、途中で他から呼び出しがあって狩りに出ていった。
アースドラゴン討伐で、一気に知名度を上げたみたいだ。
「紹司くんは経験豊富で頼りになるからね」
石井さんも何回か付き合って回っていたらしい。
「石井さんのタンクっぷりも安心して任せられるよ。俺が本気でフルコン決めてもタゲ外れないし」
「そうかな?」
褒められて喜ぶ石井さん。少しもやもやしたものを感じつつ、最前線に行けないのは自分の手抜きでもあるしなぁとか考える。
今後、レアな素材を集めに行くなら戦闘系のスキルを伸ばしていくべきだな。
紹司と石井さんの楽しげな会話を見ながら目標に加えた。
家に帰ってログインすると、まずは盗賊撃退の結果を確認。迎撃要員のリーダーでもあるメイフィから報告を受けて、今のところは安定していると分析。グレードを2に上げてからも、動く人形3体と回復要員のハトのおかげで苦戦は無いようだ。
『もちろん、私も活躍、です』
ふんすっと鼻息も荒く報告するメイフィのお腹をわしゃわしゃする。
グレード3はまだ遠いので、地道にレベルを上げてもらえばいいだろう。
隣家のセイラ宅も同時に守っているが、その点も問題無さそうだ。
「さて錬金術の修行がサボりがちかなぁ?」
魔術研究連盟に参加した事で、本分である錬金術への意欲も増している。
お向かいにある爆発物取り扱い錬金術師の元を訪ねると、どこかへ出かけているようだった。
「って、NPCが持ち場を離れるとか……何かのクエストが始まっているのか?」
クエストの進行により人の配置が変わるのはままあることだ。メイフィと一緒に部屋の中を探してみるが、それらしい書き置きや研究ノート的な物は見つからなかった。
誰かに聞くこともできないので、手詰まり感。他にやりかけの錬成となると……やっぱり電気の力が欲しくなる。
昨日フレンド登録させてもらった『無名の勇者』の魔術師スレイさんに連絡してみる。
『電撃などの魔法の蓄積は可能ですが、ケイさんが望む結果はでないと思います』
魔法を蓄積できる石というのがあるらしく、それに魔法を込めると簡単なワードで好きな時に発動できるようになるらしい。
しかし、電撃の魔法自体があくまで攻撃魔法ということで、電圧・電流が一瞬で収まってしまうという事らしい。
物質の電気分解となると、ある程度は継続して電流を流し続けないと駄目なので、実験には不向きとのこと。
『それよりも正攻法で発電してはいかがですか?』
「正攻法?」
スレイは丁寧に教えてくれた。
発電の多くはモーターを回す事で行われている。電線を何重にも巻いて作られたコイルと永久磁石を使って、磁力の変化によって電力を生み出すのだ。
フレミングの右手の法則というやつだ。
『タービンを回す方は魔法で色々と方法があると思います』
「ありがとうございます。早速試してみますね!」
俺はショートメッセージによる連絡を終えると、オークションへと向かった。磁石と銅線を確保するためだ。
いつものように裏道の人通りの少ない道を選んで歩いていると、自然と足は廃教会の前を通るルートを選んでいた。
「そういえばルカがログインしてないって話だっけ……」
研究の楽しさに忘れていた事を思い出す。海外サーバーにまで進出してログインしていたルカが、日本サーバーが再開した祭に参加しない事の不自然さ。
「浮かれすぎて発熱したとか?」
外見は小学生なルカから連想してしまうが、どう考えても中身は年上だ。
色々と考えるうちに廃教会、悪魔崇拝者クランのクランハウスの前までやってきていた。
そこには燃え尽きた様子のルカが今にも壊れそうな樽の上に座り込んでいた。




