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魔術研究連盟

 再開三日目はシゲムネからの連絡で始まった。『無名の勇者』をはじめとした魔術研究連盟から呼び出しだそうだ。

 何その大仰な組織。

 事の発端は先日のアースドラゴン討伐戦で披露した、重力操作から生み出した精霊だ。

 しばらく停滞していた新しい魔法の可能性に、多くの魔術師が興味をもったようだ。

 既に幾つかの新たな精霊が生み出されているらしく、発端である俺にも披露したいということだった。


 俺は『無名の勇者』のクランハウスを訪れていた。冒険者が集う宿をイメージしたというハウスは、広めの庭と二階建ての木造建築からなっていた。

 一階は酒場兼食堂になっていて、二階が宿のスペース。宿といってもクランメンバーが、定期契約している形で常時使っているらしい。

 庭には即席のテーブルが用意され、朝から人だかりができている。酒や肴をつまみながら魔法談義に花を咲かせている。


「あ、ケイちゃん。いらっしゃい」

 俺に気づいて手を振ってきたのは、アースドラゴンの尻尾組を先導し、事実上のトドメを刺した火力魔法を放った魔術師だった。

 やややつれた感じの神経質そうな面立ちは、いかにも魔術師と思わせる雰囲気を持っていた。

「改めて自己紹介するよ、俺は『無名の勇者』のスレイ。見ての通り魔術師だ」

「よろしくお願いします」

「こっちこそ、よく来てくれたね。今は君のおかげで新たな研究材料ができて、会が活性化してるよ」

 今も何やら召喚を試みている魔術師がいる。焚き火から炎の精霊を呼び出そうとしているみたいだ。

 その焚き火も普通のものではないようで、何か変わった匂いが漂っている。

 魔法が発動して、炎が人型へと凝縮される。大きさも色も特徴はない。ただどこか甘い匂いが漂っていた。

「今はアロマ成分を燃やして、リラックス効果のある炎の精霊を作っているらしい」

「は、はぁ……」

 確かに匂いはくつろげそうな良い香りだが、何に使うのか。

「精神力を回復するアロマで、魔法の回転速度を上げれるかという実験だ」

 リラックスアロマは、10分の効果時間。精霊の召喚は30分で効果時間が延ばせるかという事らしい。

「なるほど……」

 最初は何をやってるのかと思ったが、ちゃんと目的を持ってやっていたらしい。


「とりあえず我が魔術研究連盟の主要メンバーを紹介しよう」

 まずは魔術師とは思えない筋肉質な体を持った軍服姿の男が近づいてきた。

「紅蓮の魔術師グレイコフ大佐」

「グレイコフである!」

 軍人風に敬礼をして名乗った。紅蓮という割には、服は青い。

「炎系を極めんと日夜努力している」

「そして水系はこの人、カレンさん」

 言われて進み出てきたのは、水の精霊を思わせる青いドレスを来た女性が優雅に一礼。

「カレンですわ」

 その服装にはどこか見覚えがあるような……。

「そのドレス、マーカスさんのものですね?」

「え、あ、はい」

 先に相手から服装について聞かれ、思い出した。マーカスの店頭に置かれた映像に映っていた衣装だ。

「私も懇意にさせて頂いてるの」


 他にも何人かの魔術師を紹介されたが、一度には覚えきれなかった。

 それぞれに系統ごとにエキスパートがいるようだ。

「あと一人悪魔系に強い女の子がいるんだが、昨日から連絡がとれてないんだ」

 何となくルカの事だろうなと思った。しかし、海外サーバーにすらログインしていた彼女が、日本サーバーが開いた直後にいないのは不自然にも思える。

「お、ケイ。来たな」

 俺の姿を見つけたシゲムネが近づいてきた。

「なんでお前が魔術研究連盟なんかにいるんだ?」

「お前なぁ、ケイに負担が掛からないように、俺が中継として交渉してやったんだよ」

 アースドラゴン討伐戦で、重精霊の召喚とフレアストーンによる威力強化を見せたことで、魔術師達の注目を集めていたそうだ。

 ただその直後に俺は死んで、街へと戻った事で追求する相手を失った。

 街に戻って探そうという話になりかけていたので、シゲムネが仲立ちを受け持つことで無闇に居場所を探らないように、釘を刺してくれていたらしい。

「そ、そうなのか……」

「まあ、あの家とかに押しかけられると面倒だろ?」

「ああ、そうだな。ありがとう」

「まあ、その分のマージも貰ったがな……」

 ぼそりと何か呟いたのは聞かなかった事にしよう。あえて聞こえるところで言った辺りが、シゲムネなりの照れ隠しかも知れない。


「さて、それでは昨日までの成果を見てもらおう」

 スレイが先導して、庭の一角にスペースを作ると、新たな精霊召喚のデモンストレーションが始まった。

 金属の延べ棒を置いてから、スレイが魔法を唱え始める。ショートカットを使わずに詠唱しているのは魔術師としての矜持らしい。

 スレイの言葉に力が与えられ、金属が盛り上がっていき、50cmほどの人型へと姿を変えた。

「ゴーレム?」

「いえ、土の精霊をアイアンインゴットから召喚したんだ」

 今までは地面から直接呼び出していたのを、インゴットを使用することでより硬い精霊を呼び出せるようになったらしい。

「素材によって、シルバー、ゴールド、ミスリルなど様々な精霊が呼び出せた。ただ、召喚後にインゴットは消えてしまうので、アイアンがコスパが良さそうだということになった」

 なるほど、インゴットは武器防具を作る為に大量に流通しているものの、やはり金属の種類によっては高価になってしまう。

 ミスリルなどの希少な素材を使えば、確かに強くはなるのだが費用が掛かりすぎるということだ。

「このように土の精霊は比較的容易に変化をしたのだが、他の精霊は芳しくない」


 先ほど見せてもらったアロマが香る炎の精霊は、まだ成功に近い方らしい。

 風の方では冷やした空気で呼び出した冷気精霊が一番の成功例らしい。

「その子は、冷房代わりに良さそうですね」

「ああ、日常には便利なんだが、戦闘能力は変わらない。君の重力精霊にはかなわなかったよ」

 ちょっとしたアイデアだったが、思った以上の成果だったらしい。

 あともう一つ、風の精霊の素材を変える事で生み出した一酸化炭素精霊は、弱体化を受けたことだしまだ伏せておいた方がいいかな。

「海水を利用して呼び出した水の精霊は、通常の精霊よりも弱くなった」

「海水だけにしょっぱい結果だったよ」

 シゲムネが何か言ったが、スルー推奨だ。


「今のところはこんなところかな。酒で呼び出したりもしたが、精霊が酔ってていうことを聞かなかったり、炎を重力魔法で圧縮してみたが小さくなるだけで強さは変わらなかったりしたな」

 グレイコフ大佐も色々と試したようだ。

「なるほど……」

 水や土も重力ではさほど変化はないだろうな。

「土は素材、風は圧縮で良かったけど、水と炎はまだ施行中と言うことですね」

「土でいうとフレアストーンを使ってみたが、それは召喚自体が成功しなかった」

「それはまた違うパターンですね」

 さすが様々な系統の魔術師達が集まっていることはある。一日で色々な思考がなされ、試行してそれを確かめていたようだ。

「しかし、中々ブレイクスルーとなるのがなくなってきてな。ケイさんのアイデアが欲しいとなったんです」

 さてここで期待されて何か出るだろうか。考えを巡らせてみることにした。

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