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温泉ツアー 残された手掛かり

「さてこの沼地は湯気が出ていることからわかるように水温が高めじゃ」

 ヴァイス老は説明しながらその場を後にする。抱えられていた女将? は、沼にどしゃっと捨て置かれる。

「ただそのままだと水温が低すぎて入浴はできん」

 ツアー客としては、先導役のヴァイス老についていくしかないか。

「日本の温泉でも海や川に近い場所などで湧き出ている温泉で行われているのじゃが」

 説明をしながら歩いていく先に、石を積んで区切られた一角が目に止まる。

「源泉周囲を囲って他と混ざらぬようにすると、適温となるのじゃよ」


 予め石を組んで作られていた天然の浴槽は、確かに他の沼地よりたくさんの湯気が立ち上り、手をつけると程よい水温になっていた。

「まあどうしても狭いのが難点じゃがな」

 直径が3mほどで3人も入るといっぱいになる大きさしかない。

「では、れでーふぁーすとかのぅ」

 ヴァイス老の視線がこちらを向いた。片言の英語発音で入浴を勧められる。

 どうしようとセイラの方を見ると、既に入る気まんまんの様子で薄着になっていた。水着の上からシャツをまとう姿は、初めてお風呂を披露した時のスタイルだ。

 ホノカちゃんもワンピース型の水着になっていた。

「いくよ、ケイちゃん」

 背中を押されて浴槽へと連れて行かれた。


 用意していたビキニタイプの水着姿になると、周囲から集まる視線を気にしながら浴槽へと浸かる。

 正直落ち着かないので、ゆっくり入っていたいとは思わないな。

 セイラとホノカちゃんは肌に擦り込むように湯を楽しんでいるようだ。

 こういう時は女性の方が大胆になれるのだろうか。

 俺はふと例の殺害現場に目を向けた。すると死体がむくりと起き上がり、歩いていった。

 そうか、死体役の人を皆で囲むとその人はずっと見られ続けないといけなくなる。一度死体役をどけて、現場を作り直して戻る計画みたいだ。

 この温泉への誘導は、時間繋ぎというところか。


 5分もしないうちにお湯を出て、バスローブを纏う。ゲームの中なので、湯冷めもないはず。俺達が出た後は、男達が先を争い浴槽に飛び込んでいった。

 美人の残り湯と考えれば分からなくもないが、やはり引く展開ではある。

「すいません、今後の浴槽は男女別でお願いします」

「う、うむ、すまんかった」

 ヴァイス老に注文すると、直径3mに何人入れるかを競う大会のようになっている浴槽を見ながら、ヴァイス老も頷いてくれた。


 一通りのメンバーが、入浴を済ませるのに30分ほどの時間が経過していた。

 待つ間はマナーとして、殺人現場の方は見ずに、用意された飲み物をもらいながら談笑して過ごした。

 ホノカちゃんは半年ほどのプレイ歴で、最初はショップを回る程度のライトプレイだったのだが、ソニアさんに会ってゲームとしての楽しさを教わり、現在に至るようだ。

「最初はわざわざ不気味な敵を間近に見るタンクなんてやる気はなかったんですけど」

「そうよね、ビジュアルがリアルな分、怖い時が多いよね」

 セイラとタンク談義を繰り広げている。

「でもやりがいもあるし、皆を支えてる感がいいというか」

「なかなか他人に頼ってもらえる機会ってないものね」

 パーティ内で耐え忍ぶ役目のタンクは、派手さに欠ける上に、失敗があると責任も重い。

 敬遠されがちな職である。

 その分のやりがいを感じれないと続けられないだろう。


 そうこうするうちに現場の準備が終わったらしく、ヴァイス老に連れられて殺人現場へと戻った。

 刑事ドラマにあるように、人型にチョークで線を引いてある。

「鑑識によると死因は胸を鋭い刃物で刺された事によるショック死。凶器は現場に残されていなかったそうじゃ」

 鑑識って……。

「気になる点としては、現場には(わし)の足跡しかなかったらしい」

 ふむ、擬似的密室案件ということか。

 実際は死体役の人が歩き去った足跡を、ならした跡が残っているがそれは言わないお約束だろう。

「しかし、ファンタジーなこの世界。足跡を残さない方法などいくらでもあるんじゃないか?」

「飛行型モンスターに、空飛ぶ魔法。遠くから胸に目掛けて剣を飛ばすとかもあるわよね」

「重力操作で体重を軽くすれば、足跡も残らないよな」

 皆がそれぞれに意見を出し合い、足跡が無いことが密室状態にはなりえない事を看破していった。

「ふむ、儂らは観光客。捜査権もないので、次のツアー先にまいりますかの」

 なるほど、ある程度の意見がまとまったところで、次の現場へと向かうイベントなのか。

 明らかなミスリードがあるようだけど、その点もまだ保留だな。

しまった、思ったより大事にしてしまって、本編が進まない……。

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