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再開祭り二日目

 俺の家で打ち上げとしてちょっとした宴会が行われた。ホノカちゃんの要望通り、風呂場も開放して好きに入れるようにしておいた。

 セイラは畑から果物を収穫したり、料理を用意してくれて、ソニアさんは飲み物を買ってきてくれた。俺は動く人形達とテーブルなどを庭に広げてセッティング。

 盗賊の乱入があったり、ドタバタしたまま始まり、ドラゴン討伐の時点で夜半を回っていた事もあり寝落ちが続出。宴会らしい宴会にならないまま人がいなくなっていた。


 朝になって俺も寝落ちしていたことに気づく。VR用のヘッドギアを外して顔を洗うと、セイラの手料理に比べて味気ない朝ごはん。

 栄養補給と割り切って、食事はALFで楽しむとか、廃人思考になってるだろうか。

 後片付けも適当に、ALFへとログインを開始した。



 昨夜用意したテーブルなどは出しっぱなしだが、思ったよりも乱れた様子はなかった。

 暴れる前に寝落ちしたからだろうか。

 そのためにせっかくの料理が手付かずで残されている。

 ぶどうから一粒、ちぎって口に運んでいると、声を掛けられた。

「おはよう、ケイ。つまみ食い?」

「おはよう。勿体無いからさ」

「そのうち皆もまたログインしてくるんじゃないかしら」

 一晩明けて、セイラは普段の調子を取り戻している。実際のところ、昨日のアースドラゴン戦は夢だったんじゃないかとすら思える。

「その称号、付けてるんだ」

「なんか流れで付けてそのままだった」

 『地龍に呑まれし者』その称号が、昨日の騒ぎが事実だったと告げている。

「ふふっ、久々の大物で楽しかったわ」

「私はシゲムネにびっくりだよ。あんな堂々と人を使うなんて」

「ホントね。ただのゲームオタクじゃ無かったみたい。一気に人気者になったみたいだし」

「そうなの?」

 そういえばシゲムネは、チェリーブロッサムの女の子達と盛り上がっていたみたいだ。カナエちゃんとの仲を進めると言ってたのに大丈夫だろうか。


「とりあえず片付けよっか」

「そうだね」

 動く人形を呼び集めて、残った料理やテーブルを片付け始める。

 そうするうちに、チェリーブロッサムの面々もログインしてきた。今日は何しようかと早速盛り上がり始めている。

 まだまだサービス再開の祭りは続いていく。



 シゲムネはチェリーブロッサムや無名の勇者からの誘いででかけていった。やはりあの指揮ぶり、状況判断は皆の信頼を勝ち得たようだ。

 俺は少しまったりしたかったので、『秘湯めぐり、美人女将の殺人事件簿』というツアーに参加してみる事にした。

 ネーミングもさることながら、絶景の温泉を巡るというツアー内容も興味深い。

 その事を伝えるとセイラとホノカちゃんがついてくる事になった。


 集合場所の噴水広場に行ってみると、階段の上で上半身裸のマッチョな老人がポージングしながら待ち受けていた。

「ツアーの参加者かな?」

 ポーズを変えながらの問いかけに頷くと、更にポーズを変える。

「歓迎しよう、良いマッチョを!」

 日焼けした肌に、白い歯を見せながら笑みを浮かべる。

 戸惑いながらも少し距離を取り、時間がくるのを待つ。周りに集まったメンバーは普通に冒険者達で、老人ボディビルダーだけが浮いていた。


「目印になるのも大変だなぁ」

「やっぱりそのため……よね?」

「半分は趣味だと思うけど」

 筋肉を見せつけるポーズを様々に切り替えながら、近くにいる人に話しかける姿は人目を引く。

 目印としては目立つが、見知らぬ人は敬遠しそうでもある。

 実際に途中で明らかに道を変えた人もいた。


「では改めて、引率のヴァイスじゃ。みんな、マナーを守って周りに迷惑をかけないようにするのじゃぞ?」

 汗の光る上半身はそのままに、ツアー参加者に注意を促す。

「道中、モンスターの乱入がある場合は、速やかに対処するが、居なくなった人がいないか、みんなも注意するんじゃよ?」

 容姿は突飛だが、言ってることは正しい。こうしたイベントの開催にも慣れているみたいだった。

「それでは出発じゃ」

 ヴァイスと名乗った老人の後を、ぞろぞろと付いて行く。参加者は30人くらいか。


 街を出て進路は東に、森へと入る道を進んでいく。小道を進んでいると偶に犬系のモンスターが襲ってくるが、警護として参加したマッチョマンが駆けつけて粉砕してくれた。

 そして少し視界が開けると、湯気の上がる湿地へとたどり着く。

「ここが温泉?」

 ホノカちゃんの疑問に俺も首をかしげるが、事件は起こった。

「女将ーっ」

 ヴァイス老が湿地の一角へと駆けていく。俺達もそれに続いた。

 ヴァイス老が膝を付き、誰かを抱えている。和装を思わせる衣服に、まとめ上げた黒髪。こちらからでは、ヴァイスの背中に遮られて詳細は分からないが、足元は赤く染まっている。

「女将の殺人事件簿ってそっち!?」

 周囲のツアー参加者から声があがる。サスペンスドラマでは、女将が事件解決に奔走するのが多いので、勘違いしていた。

 女将が殺されている事件簿らしい。

「誰がこんなことを……」

 プルプルと拳を震わせるヴァイス老。中々の役者ぶりである。まさか笑いをこらえて震えているわけではないだろう。

 このツアー、まったりどころじゃないかもしれない。

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