貴族からのクエスト
魔術師ギルドには行かず、街の雑貨屋でNPCに還元したブロンズダガーを、買い取ってもらった。一つ10Gで、還元に錬金釜を使用した場合のレンタル料が5Gだったので、少しは黒字だが稼ぐとまではいかなかった。
期待した『装飾されたブロンズダガー』も、売値は50Gとさほどでもなかった。
NPCに買い取りを申し込むと、いつものテンプレな応答ではなかった。
「これをどこで手に入れられましたか?」
「ノマクド洞窟のゴブリンが持っていました」
「なるほど、こちらには貴族の紋章が刻まれています。そちらに届けて頂けますか?」
ピコンという電子音と共に、クエスト発行の通知がきた。クエストアイテムだったようだ。しかし、錆落としで発生するクエストとか、皆気づいているのか。
単純に売却するよりは、報酬が多いだろうとクエストを受領。そのまま目的地へと向かう。
貴族の屋敷があるエリアは、クエストの時くらいしか来ることがないので、プレイヤーの数は少ない。目的地はマップに表示されているので、迷うことなく到着した。
当然のように門は閉まっていて、NPCの衛士が立っていた。
「ここはマクシミリアン卿の屋敷である。用のない者はお通しできません」
物腰は丁寧だが、拒絶の意志は見て取れる。
「これを届けるように言われました」
装飾されたブロンズダガーを見せると、衛士は驚きの表情でそれを確認する。
「間違いなく、マクシミリアン家の紋章です。ご案内指せていただきます」
衛士が門を開け、屋敷に向かって歩き始める。屋敷の扉までもそれなりの距離がある。なかなかの貴族様のようである。
衛士が玄関の扉を開くと、ピシリとした格好の初老の執事が待っていた。衛士からブロンズダガーを渡されると、それを子細確認して、今度は執事に案内されて応接室へ。
現実なら恐れ多くて足を踏み入れるのもためらわれるような、豪奢な部屋だった。毛足の長い絨毯に、革張りのクッション。古めかしい家具に、金細工の置物など、華美ではないがセンスのある応接室になっていた。
案内されるままに、ソファへと腰を下ろすとふわりとした感触で沈み込む。
そんなに待つこともなく、奥の扉からいかにも令嬢といった感じの女性が入ってきた。
立とうとした俺を手で制すると、正面のソファへと腰を下ろした。
金髪のストレートで、編み込んだ一部が頭の後ろでまとめられ、気品のある髪飾りで留められている。青の瞳は澄んでいて、見つめられるだけで赤面しそうな可憐さがあった。
「この度は、兄のダガーを届けてくださって、ありがとうございました」
どうやら行方不明になっている兄のダガーだったらしい。三男で家督の継げない兄は、冒険者として旅に出たそうだ。そのまま音信不通の状態らしい。
ゴブリンにやられたのかよ!
などとは言えない雰囲気だ。単にダンジョンで落としただけかも知れないしな。
どこで拾ったかを答えると、少し小首を傾げた。その姿はかなり可愛らしい。
「兄が旅立ったのは何年も前。洞窟にあったのなら、もっと錆びてそうですが」
「錬金術で修復しましたので」
「まあ、冒険者さんはそんな技術もお持ちなのですね。できれば引き受けて欲しい仕事があるのですが」
そう言って出されたのは、渡したダガーによく似たダガーだった。丁寧に手入れがされていて、綺麗な感じだ。
「我が家では、子供が産まれると、魔除けにダガーを作る習わしがあるのです。こちらは私のなのですが、所々がどうしても汚れていて……」
どこがと思って見直すと、やはり細かな装飾の奥に、わずかな錆が出ていた。
「兄のダガーが新品のように綺麗なっていました。私のもお願いできますでしょうか。兄のダガーを持ってきていただいたので、5000Gのお礼と私のダガーの修復でさらに2000Gお渡しいたします」
報酬の額に驚いた。今までの討伐系クエストは、100~200G。ダンジョン初クリアの報酬で500Gだった。
軽く10倍を越える報酬に、戸惑ってしまう。もしかすると、錬金術用のクエストだったのだろうか。
「わかりました、引き受けます」
NPC相手に遠慮することはなく、令嬢のダガーを受け取り屋敷を後にした。
錬金術師の元に戻って、早速還元を行う。装飾のくすみも取れて、新品同然の輝きになる。
そして錬金術師からは、携帯用錬金釜を買った。これで簡単な合成は、どこでもできるようになる。ただ新しい合成や難易度の高い物は、ここの錬金釜を使った方がいいだろう。
「自分の工房を開いて、錬金釜を設置すれば色々と便利になるんだがな」
家を買うと、そこに戻るための転送石がもらえるらしい。それを使うと、ダンジョン内や会話中、戦闘中などの制限のかかる状態でなければ、いつでも家に戻れるらしい。
今は錬金術を行おうとすると、街外れのスラムまで、歩いて移動しなければならないのだ。
まあ錬金釜は10000G必要なので、家と合わせたらかなりのお金か必要になる。将来の夢だな。
錬金術師の小屋を出て、ふと前にある廃屋の値段を調べた。
「2000Gだと!?」
四畳半ほどの部屋が四つに、台所のような竈など一通りのものは揃っている。
壁や天井に穴は開いて、修復は必要だがそれでも十分に安い。さらに目の前が錬金術師の家なのも便利だろう。
「買える時に買うべき……なのか?」
相談できそうなのは、ショップを持ってるマーカスか、色々と詳しそうなセイラさんか。
今日の今日でセイラさんを頼るのも気を使うので、マーカスのショップへと行ってみる事にした。
「あ、ケイちゃん。新しい衣装が欲しくなった?」
「あの、こんにちは。今日はちょっと聞きたい事があって」
「いいよ、いいよ、何でも聞いて。美味しいスイーツショップなんかも知ってるのだぜ」
それはそれで興味あるな。確か日本サーバーは味覚の再現率も高く、本当に美味しい物が食べれるらしい。何でも現実の店が、客の反応を見るためにゲーム内に店舗を構えて、新メニューを試しているところもあるそうだ。また今度教えてもらうかもしれない。
「えっと、お店を開こうとしたらどれくらいかかるのかなって」
「ふむ、ショップに興味あるのか。この店だと土地で100万G、建物で10万Gってとこだな」
「ひゃっ、ひゃく……」
「買いたくても、この辺りはもう土地が無いけどね。もう少しメインストリートから離れていけば、10万くらいの土地もあるよ」
「この店って、裏に部屋とかは……」
「そんなの無いよ。現実みたいに倉庫は要らないから、ショップスペースだけだね。試着用の個室みたいに区切ることはできるけど。住むための家が欲しいなら、住宅街に少し広いスペースもある。ここの四倍くらいで、200万くらいかな。人口密度で変動するから、もっと高いところも、安いところもあるけどね」
現地で調べてみるしか無いらしい。
「何か売りたい物があれば、代理出品でも引き受けるよ。この店の立地はいいから、かなり裁けるよ」
「いえ、どちらかというと家に興味があったというか……」
「基本、個人じゃなくクランで持つものだからね。目標にするのはアリなんだろうけど、現実は難しいかも」
まあ直ぐにでも買えるところがあるんだけどね。
「そうだケイちゃん、お金欲しいならバイトしない? 短時間で1万払うよ」
「バイ……ト?」
こちらの錬金釜の値段を知っているかのような提示に心が動いた。
このゲーム、キャプチャ機能は無いが、ゲーム内での画像を記憶する写真のようなアイテムはあるらしい。
今の衣装でモデルをやってくれないかと頼まれた。ゆるふわ系ロリータ衣装で露出は少ない、ちょっとくらいならいいか……錬金釜が買える1万Gという額が魅力的過ぎた。
五つのポーズを取らされて、様々なアングルから撮影される。
「ローアングルでは撮りませんよ、紳士ですから。キリッ」
などと言われても十分キモ怖いんだが。バイト代として1万Gを受け取り、何とも言えない気持ちになってしまった。
あまりネカマらしさが出せてないなーと思いますが
徐々にブクマも増えてるので、この路線でいくかと思います。