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アースドラゴンの弱点攻防

「ケイ、あの岩盤!」

 三度目の瞑想を終えて立ち上がろうとしたところに、その声が届いた。誰のものかは考える事もない。彼女はまだ奮戦して、ドレイクの侵攻を抑えてくれている。

 そして岩盤。

 どうして気づかなかったのかと自分を殴りたくなる。

 通常では歯が立たない固いモノを砕く方法を、俺は既に知っていたのだ。


「皆、一旦攻撃を止めて!」

 俺の声に戸惑いの顔を浮かべつつ、このままではとても間に合わない事をわかっている面々は攻撃を止めてくれた。

 それに気づいた他の魔術師からの攻撃も減っていく。完全に止む前に甲羅へと近づいていった。爆発などで見えなくなっていた黒い甲羅が再び目の前に現れる。

 幾つかのヒビが入っているものの、砕けるにはまだまだかかりそうだ。

 そんな黒い甲羅に飛び乗って、ヒビの具合を確かめる。

「急がないと回復し始めるぞ!」

 魔術師の一人が警告してくる。それを聞きながら、俺はヒビの幾つかにフレアコアを差し込んでいった。

「あとは……」

 簡易錬金釜を取り出して、トライコアを2つ放り込む。起爆寸前の臨界状態になるように、魔力調整を行って合成。

 その間に甲羅の再生が始まり、ヒビの端から繋がっていく。

「おい、どうするんだ!」

「説明は後、誰か炎の最高威力の魔法を!」

 出来上がったものの不安定に明滅するフレアコアのヘキサコアを、ヒビ割れの中心部へと組み込んだ。

「フレアストーンの倍率なんてしれてるだろうけど……やらないよりマシか」

 魔術師の一人が詠唱を始める。普段は使うことのない長い呪文が必要な、大量の精神力を奪われる火力最大の魔法。

 俺は転がり落ちるように甲羅から飛び降り、そこへと視線を向ける。


「ニュークリアスストーム!」

 核の嵐と名付けられた盛大な火柱が、黒い甲羅へと突き立てられた。白熱した炎が渦を巻き、相手を焼き尽くす極限魔法。しかしそれだけの炎でも通常では、甲羅を破るには至らないのだ。

 しかし今は点火する極点に、不安定なフレアコアが埋まっている。

 更には炎が派生する先に、幾つかのフレアコアが誘爆するように配した。マクシミリアン家の時にはそこまで必要なかったが、知識として仕入れておいたのが役に立った。

 まずは中央のコアが起爆。甲羅のヒビを押し広げながら炎が伝搬して、ヒビに埋めた他のコアへとエネルギーが伝わる。

「え、何か、やばくね?」

 起爆の魔法を唱えた魔術師の声と共に、視界が真っ白に染め上げられた。



 周囲にいた魔術師は身の危険を感じてその場に伏せた。それに気づいた機敏な者もそれに追随するが、外向きにドレイクと対しているタンクやそれを見つめるヒーラーは間に合わなかったかもしれない。

 轟音と衝撃が辺りに広がった。

 伏せていても吹き飛ばされそうな暴風がしばらく続いた。アースドラゴンの足元に居た人は立ち上るきのこ雲を見たとか。


 耳が聞こえず、目も白く焼けている。しぱしぱと瞬きしながら、体が動くようになると甲羅の場所へと走った。

 黒い甲羅のあった場所には穴が空き、薄茶色の少し大きめのウロコが露出していた。

「やった! 壊れてるよ!」

「バカ、ケイ。避けろ!」

「へ?」

 シゲムネの声に辺りを見渡そうとすると、突然の衝撃に弾け飛んだ。

 いや咥えられて持ち上げられていた。

 眼下にアースドラゴンの巨体が遠ざかり、こちらを見上げるシゲムネや魔術師が小さくなる。

「ふぎゃっ」

 腹部を襲った激痛と共に視界が暗転した。



『蘇生しますか?』

 簡単なメッセージが暗闇の中に浮かんでいた。どうやら死んでしまったらしい。

 この蘇生を受けると最初の街に戻ってしまうので、ヒーラーによる回復を待つしかない……って、あの爆発でヒーラーも吹き飛んだのか?

 どのみちあの状況で蘇生の順番を待つよりも、最初の街に戻った方が楽か。


 俺は最初の街での蘇生を選んだ。

 暗闇からいきなり街中へと戻されて、眩しさに目を細める。周囲を確認する前に声を掛けられた。

「おかえりなさい」

「ただいま」

 相手を確認するまでもない。タンクとして前線支えてきたが、後方からの爆発でセイラも死亡していたのだ。

「ケイちゃん、どうなったの?」

 ホノカちゃんも近くで座っていた。

「黒い甲羅自体は壊したんだけど、何かでイキナリ殺されて……」

「ああ、アースドラゴンに食われたんじゃない? 甲羅を壊されたら、弱点周辺になぎ払い攻撃があるから」

 そんなのあるのか、教えておいてくれよ。亀のようなアースドラゴンだが首は長く、弱点が露わになると、背中の方を攻撃してくるらしい。

「討伐戦でアースドラゴンに殺されるのって、意外とレアなのよ」

 セイラの言葉を裏付けるかのように、システムメッセージが表示された。称号『地龍に呑まれし者』を獲得しましたとある。

 残念賞的なものか。

 肩を落としながら、ホノカちゃんの質問に答える。

「シゲムネは生き残ってたから、メッセージ飛ばせば状況わかるかも……」

『よう英雄、生きてっか? いや、死んでるな』

 当のシゲムネから自己完結メッセージが飛んできた。

「そっちはどうなったんだ?」

 パーティチャットにセイラとホノカちゃんを誘いながら聞いてみた。

『おう、無事にアースドラゴンは撃破されたぞ。今は亡骸の前で記念撮影やってる』

「そうか」

 今から向かっても間抜けな感じだな。

『トドメを刺したのはアッバスだったんだぜ。たまたま近くに伏せてて、お前を食らった一撃の後、一目散にトドメ刺しに出てきた』

「何よそれ!」

 セイラが憤りを露わに言い返す。

『結果としては正解だったんだけどな。甲羅は魔法で、弱点の逆鱗は物理。近くにいた魔術師じゃ無理だし、爆発受けて近接勢は吹き飛んでたから』

 両手で握る大きな剣を武器にしていたアッバスは、龍の弱点を貫くに十分な破壊力を持っていたのだろう。

 タンクがほぼ全滅の中、トドメに時間がかかれば、ドレイクが集まってきて終わりだったかもしれない。

 そもそも混戦になったのは、アッバスの部隊が壊滅したからで、そいつに手柄を持っていかれたのは納得しづらいかもしれない。

『まあアッバスは仲間から手荒い歓迎を受けてるな。例の接触不可障壁で囲まれて揉みくちゃになってる』

 あのバリアみたいな障壁で囲まれると、中々の圧迫感を感じるだろう。

『もちろん、チェリーブロッサムやお前の功績は分かってるから、何らかの分前はあるってよ。まあ、女の子と仲良くしたい下心もあるから、ふんだくってやれ』

 そこへソニアさんも加わってきた。

『その辺の交渉は任せて。こっちもある程度まとまったら引き上げるから、どこかで合流しましょう』

『また俺の家に集まるか?』

「ケイちゃんちのお風呂がいいです!」

 ホノカちゃんの意外な提案に、向こうの二人も賛同する。

『いいわね、それで決まり』

『おう、チェリーブロッサムの面々にも伝えるわ』

 なし崩し的に決定されてしまった。まあ、あの風呂も二週間以上使ってないし、いい機会かもしれないな。

「ケイ、鼻の下伸びてるわよ?」

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