祭りのはじまり
「ちょっと待ってください」
言い直しながら現われたのはホノカちゃんだった。あの時の言葉はちゃんと届いていたみたいだ。
「ホノカちゃん」
「久し振りっ」
「よかったよ〜」
チェリーブロッサムの面々が口々に喜びの声を上げて、彼女を取り囲む。接触禁止障壁がバシバシと発光して、皆の熱烈ぶりが伺える。
「皆、久し振り。折角ALFという世界にいるのに花火とか、リア充っぽい事してちゃダメです。皆でファンタジーしましょうよ!」
ALFの花火もまた現実では再現困難な事をやるんだが、彼女の言いたいのはそういうことじゃないんだろう。
「やはりゲームの醍醐味、巨大な敵を倒しに行きましょう!」
ホノカちゃんの登場と意思表示で、皆の行動は一新された。
仲間と一緒に何かをする。
一人じゃできない事をする。
巨大なモンスターに皆で挑む!
チェリーブロッサムのライトなゲーマークランでも、やはりそういうことは心踊る冒険だ。
皆すぐさま装備を確認し、必要なモノをかき集める。
「目標としては私達では普段挑めないような敵ですよね」
「そうだな……ここはやはりドラゴンか」
ソニアさんも乗り気で皆を誘導する。ドラゴン、ファンタジーの王者とも言えるモンスターは、ALFにも当然のようにいる。
主なのは地水火風の四元素の名前を持つモノだ。
「事前準備がさほど必要じゃないのは、アースドラゴンだな。空を飛んでる風や火、海にいる水ドラもしんどい」
シゲムネも自分の知識を引っ張り出してアドバイス。
「アースドラゴンなら、『無名の勇者』クランがやるみたいですね」
あらかじめ調べてあったのだろうホノカちゃんが即答する。
「じゃあまずはそことの接触だね」
祭りを催すクランは有名どころで、そのクランハウスもよく知られている。
『無名の勇者』クランのハウスも、メンバーの何人かが場所を知っていたのでゾロゾロと移動した。
『無名の勇者』も中堅以上のクランで、攻略や生産などの実力者が揃っていて、今回のアースドラゴン討伐に対してもある程度のフォローを覚悟で準備しているようだった。
「歓迎しよう、チェリーブロッサムの方々!」
クランリーダーのアッバスは、俺達を心から歓迎しているようだった。
実力的には到底ドラゴンにはかなわないメンバーだが、そこは女性クラン。男所帯の他のクランにとっては、仲良くなるチャンスだけでも十分な報酬かもしれない。
『無名の勇者』のアッバスを中心に、小規模クランのリーダーが集められて最低限の注意事項と、役割分担が決められている。
「それじゃ、アースドラゴンについて最低限の情報共有をしとこう」
ブランクはあれど熟練の冒険者だったシゲムネが、チェリーブロッサムの面々にアースドラゴンについて話し始めた。
土龍と書くがモグラのように地面に潜る訳ではなく、どちらかというと山。陸ガメの大きい物と言った雰囲気らしい。
「動きはゆっくりだが、足の近くは振動に邪魔されるし、体は固い。近接職はその体に登るところから攻略が始まる」
亀の甲羅にあたる部分に弱点となるポイントがあるらしい。しかし、その甲羅部分には眷族となるアースドレイクが生息していて、妨害してくる。
アースドラゴン自身も動いているので、足場が揺れている。そこでの戦闘は普段とは違ったモノになり、苦戦する人も多いのだとか。
「足元でドラゴンの動きを牽制する組も、足踏みと飛んでくる石つぶてがあるから油断はできない」
要するに敵対する以上、楽な相手ではないということだろう。
「一撃のダメージが大きいのは足元組なんで、俺達に回ってくるのは甲羅の上かな」
シゲムネの予想通りチェリーブロッサムに与えられた任務は、甲羅の上でのドレイクの相手。弱点付近は相手も猛攻になるので、そこに集まってくるドレイクの一部を撃破する役目だ。
アースドレイクはイグアナ系のトカゲで、表皮が固い。動きはゆっくりだが、倒すのには苦労するらしい。攻撃は噛みつきと引っ掻き、それと偶に石つぶてを吐き出してくるらしい。
「遠距離でも正面には立たないように注意ね」
先導役として『無名の勇者』から3人の助っ人がやってきていた。いずれも歴戦といった雰囲気を持っている。
タンク二人とヒーラーが一人、戦闘のフォローがしやすい役職だ。同じタンクとして、セイラやホノカちゃんが立ち位置などの指導を受けている。
「足場が揺れるから、まずはしっかりと立つこと。基本的には俺達がメインを取るけど、数は多いからそれぞれ一匹はお願いね」
助っ人が前衛に入るので、後衛のまとめ役は自然と弓を使うシゲムネが率いることになっていた。
チェリーブロッサムの面々を集めて、段取りを説明する。
「甲羅に上がる手段は、アンカーを打ち込んで、ロープを伝いながら登るのと、尻尾を駆け上がっていくのと、空が飛んでいくかだ」
風の上位魔法に空を飛ぶ魔法があるらしい。他にも翼を持つペットに乗っていくとか。
俺はメイフィと相談して、尻尾を駆け上がってもらうことにした。ロープを登るには筋力が一定必要だが、俺は非力だった。
「頼むね、メイフィ」
『任せる、です』
大型犬以上の大きさになったメイフィに跨る。まずはアースドラゴンのいるエリアへの移動だ。
最初の街から北へと向かって移動する。転送石で移動するには一度その地へ行く必要があるので、皆で乗り物を使った大移動となった。
女の子集団であるチェリーブロッサムを中心に、次々に周囲のメンバーが入れ替わりながらの移動。俺にも何人かのプレイヤーが話しかけて来ていた。
「ケイはモテモテよね」
燃える赤髪を逆立てたセイラが、周囲を圧するようにしつつ近づいてきた。
「セイラが守ってくれたら助かるけど」
「それもタンクの仕事かしら?」
久々のゲームに、セイラも活き活きした様子を見せている。石井さんとセイラは別人に思える事もしばしばあった。少し引っ込み思案の石井さんと、人を引っ張る姉御肌のセイラ。
どちらが本人かというのは意味がなく、どちらも彼女なのだろう。人はそんなに単純に一つの性格ではないということだろう。
俺はそんな彼女たちがどちらも好きだった。
山々が連なる山脈に囲まれた盆地。その中央にこんもりと盛り上がる岩山。それがアースドラゴンのうずくまる姿だった。




