再開と再会
そわそわしながら過ごした金曜日。
「それじゃ、また後で」
「うん、またね」
石井さんと別れて家に帰る。ヘッドギアタイプのVRマシンを立ち上げると、ALFのアップデートプログラムをダウンロードしていく。
いよいよという気持ちが盛り上がるが、紹司の言うようにまずはログインゲームだろう。
アップデートが行われ、ロすグインサーバーに繋がるまで、家事をこなしておくことにする。
VRマシンはヘッドホンのような感じで頭に乗せて装着する。視界を覆うわけでもないので、VRマシンで作業しながら、他のことを並行して行うことも基本的には可能だ。
ただ二重の五感を使用するのは、注意力の散漫と疲労の激しさから禁じられており、できるのはダウンロード管理やログイン作業くらいだ。
洗濯や掃除を行い、大学のレポートを書くというよりは眺めていると、視界の一部にログインメニューが表示された。
アップデートプログラムが適用され、ここからはサーバーに入るためのアクセスが開始される。日本中に何万というプレイヤーがこの日を待っていたはずだ。
しかし、多くの人が一斉にログインするからと、ログイン用のサーバーを強化するのは難しい。結局はユーザー側に多少の忍耐を許してもらうしかないのだ。
結果としてログインを開始して30分、ようやく日本のALFサーバーとの接続が開始された。
俺は寝室へと向かって、ベッドに横たわりながら懐かしく感じる世界へと降りていった。
「ただいま」
『おかえり、です』
二週間に渡り放置された我が家。といってメンテ中はサーバーが止められていたはずなので、見た目の変化はない。
迎えてくれた妖狐のメイフィにとっても、いつも通りの帰りに感じるだろう。
しかし、俺にとってはかなりの時間が過ぎている。
メイフィに駆け寄ると小さくふわふわの体を抱きしめた。
『わわわ、ど、どうした、です!?』
「うふふ〜かわいい、かわいい」
抱き上げて頬ずりすると、肉球でパンチされるが、それがいい。
『しょうがないご主人、です』
メイフィはそういいながら、俺の頬を舐めてきた。湿った生暖かい舌が頬を伝うのは心地よいものではなかったが、愛情表現として受け止められる。
ワシャワシャと腹を撫でて柔毛の感触を楽しんでいると、外から声が掛かった。
「ケイ、帰ってるの?」
その声に俺は家を出る。庭にはシャツにデニムのオーバーオールを着て、麦わら帽子を被ったセイラが、カゴを手に立っていた。
「セイラ、ただいま」
「おかえり。さぁ、準備するわよ」
身内の再会パーティは、シゲムネの家で行う事になっていた。ここはスラムで街の中心部から遠いし、グレード調整の為に家具もそろっていない。セイラの家は個人宅といった感じで、大人数は収容できなかった。
そして、パーティを開くにあたって、セイラのお菓子を準備する予定だが、それと共に庭で育った果物も持っていく予定になっていた。
パーティは8時頃を目処に開始予定で、今は6時前。諸々の準備を急がないといけなかった。子狐と戯れている場合ではない。
『マスターが悪い、です』
庭の畑では、メロンやスイカ、イチゴにぶどうと季節感もなく、様々な果物が育っている。
全てを収穫する必要はないので、それぞれを一定量確保してカゴへと入れていく。
「それじゃ、私は先に行ってるね。後の収穫は任せた」
セイラはお菓子の準備の為に、先にシゲムネの家へと向かう。
俺は残りの果物を収穫してからメイフィを連れて家を後にした。
シゲムネの家につくと、シゲムネとセイラの他にソニアさんも合流していた。
「ケイちゃん、久し振り!」
「ソニアさん、お久しぶりです」
とととーっと走ってきたソニアさんが体当たりを仕掛けてくる。慌てて身構えた俺の前で、ソニアさんは障壁に遮られた。
「やっぱり駄目か〜」
「え、何が……」
一瞬表示された壁状のエフェクト。
「アップデートでキャラクター同士の接触に制限が掛かったのよ」
「え、そうなんですか?」
「ケイちゃん、パッチノートくらい見ておいた方がいいわよ」
パッチノートとは、アップデートでどこに変更があったかを知らせる記事だ。大抵は公式のHPで発表されている。
ユーザーイベントの確認に必死で、そちらはおざなりになっていた。
「システムとしてプレイヤー同士の接触には、障壁が発生して触れ合う事はなくなったわ。これで襲われる心配はないけど、手を繋ぐのすらできなくなった」
「そう……なんですか」
出回った暴行動画の影響だろう。過剰とも思える処置で、審査機構からの追求に応えたということか。
「他にも素肌の面積でぼかしが入る機能とかあるみたいよ。水着とか着たら逆に卑猥に見えるっていう」
ソニアさんは苦笑いを浮かべる。馬鹿げて感じる対応だが、ゲームをプレイできなくなるよりはマシだろう。
「さっ、気を取り直してパーティの準備を進めましょ」
セイラの声に各自で準備を開始した。




