サーバー再開祭り 準備編
「俺、サービスが再開したらカナエちゃんの連絡先聞くんだ」
「お、おぅ」
紹司の決意表明に、この二週間で色々と考えることがあったんだなと思った。
俺は石井さんと話せてよかった。もし行き違っている時に、サーバーが停止していたらと思うと肝が冷える。
俺はサーバー再開に何をするかを検討して調べていく。しかし、あまり調べすぎると自分がクエストをやるときの驚きなどが減るので注意が必要だった。
それよりもサーバー再開を祝したプレイヤー主催のパーティが各所で催されるようなので、そちらの情報を集めていった。
「日本全体がお祭りムードだからね。各クランが色々とアイデアを出しているみたい」
「みたいだね。どこか行きたいところあった?」
「どれも面白そうなんだけど、やっぱり最初はチェリーブロッサムの皆とかに会ってからかな」
大規模イベントになると、河川敷の花火大会のような人の集まりになる可能性もある。
空気に呑まれてしまうと、再会できるかどうかも分からない。
「ソニアさんとは連絡してるんだよね?」
「うん。でも彼女も他のメンバーとは連絡とれてないから……」
金曜日の午後五時からサーバーは再開される予定だ。大学での講義が終わった後、急いで帰ればすぐにログインできるだろう。
「再会すぐはログインサーバーが混雑するから、実際に接続できるのは何時になるかわからないぞ」
ネトゲに詳しい紹司の説明に頷く。確かに各有名クランのイベントも午後九時からとか、余裕を持ったスタートに設定されている。
「まずは仲間と再会するのを優先して、そこから行きたいところを回っていけばいいかな?」
「うん、そうだね」
方針は決まったものの、やはり各クランそれぞれにアイデアを更新して、どのイベントも趣向をこらしているようだ。
即興演劇を行うイベントや、人文字で再開を祝うメッセージを作ろうという計画。巨大なドラゴンに皆で挑むとか。
更には『秘湯めぐり、湯けむり殺人事件の旅』とか『皆でキャンプファイアを囲んでフォークダンスサバト』とか『激流、溶岩くだり!』だとか『大海原遠泳祭り、ポロリもあるよ!』などなど、タイトルだけでも楽しいモノもある。
「ってか、サバトは悪魔崇拝者だよなぁ」
「やっぱりルカさんに会いたいんですね、そうですね」
石井さんの目がこちらを鋭く観察する。
「いや、困ったときのルカなんで。お祝いごとでは会いたくないよ」
一応、そういう事にしておいた。
「しかしどこへ行こうかと思うと選びにくいな」
「本当に皆、色々と考えるね」
「明らかに無理矢理ひねり出した感のあるものもあるよな」
『工場見学、シルクのパンツができるまで』とか最早サーバー再開は関係ないだろうというモノもある。
それでも石井さんや紹司とワイワイいいながら、行き場を選定する作業は楽しかった。
そうした祭りばかりを見ていると、静かなところに行くのもいいかとも思う。夏本番にさしかかろうという今日この頃、雪山登山などもいいかもしれない。
クラン勢のイベントに負けない催しを考えられたらと思わなくもない。
「くっ、思考加速があればっ」
悪魔憑きクエストをやってしまいたい気にもなってくる。ただセイラを知識で出し抜くのは難しいので、絶景を楽しむというのは難しいかもしれないなぁ。
結局のところ、明確なプランを持たぬままにサーバー再開の日を迎えるのであった。