ノマクド洞窟でゴブリン討伐
ノマクド洞窟は土壁になっていて、人が三人は余裕をもって並べるくらいの広さはある。
出てくる敵は、小柄な俺のキャラよりも背の低いゴブリンとコウモリくらいだった。
俺は普通の風の精霊を召喚した。もちろん、恥ずかしい詠唱ではなく、ショートカットのサインによる召喚だ。ただパーティーの面々からは残念そうな顔で見られたが。
「ケイちゃん、可愛い格好ね」
「え、あの、もらいもので」
セイラさんの視線が一番遠慮がなく、隅々まで観察された気がする。
パーティー構成は、セイラさんは片手で持てる剣と盾を持って戦う騎士、ダンはグローブをはめて戦う格闘家、ロイドは光魔法を機軸にしたヒーラーである。
セイラさんが敵の注意を引きつけ、ダンが攻撃を開始。それに合わせて精霊の攻撃を合わせて、ロイドも遠距離からの魔法を撃ち込んでいた。
「ケイさんは遠距離魔法は無いの?」
「え、は、はい。重力操作しかなくて、お金がなくなったので」
ロイドの質問に申し訳なく答えた。精霊に指示を出すと、あまりやることがなくなっていた。
一応、重力操作を敵に掛けてるが、抵抗されることも多く、掛かったとしてもあまり効果は感じなかった。
「ああ、外れを取ったのか。昔は強かったらしいけど、今はねぇ。ダンジョンに入るなら、攻撃魔法も持ってた方がいいよ」
「はい、ごめんなさい」
「いや責めてる訳じゃないよ、アドバイスとしてね!」
わたわたするロイドを見るとクスリと笑ってしまった。相手も照れて笑っているので良いだろう。
「ずるい! 私もケイちゃんとイチャイチャしたい!」
前線のセイラさんは、こちらを見る余裕があるようである。
IDのシステムとして、上位の冒険者が下位のダンジョンに入ると、レベルやスキル、装備による補正が入って、適性レベルに調整される。これにより、過度のレベリングなどに対応し、それなりの難易度を保持できている。
ただプレイヤー自身のスキルや、能力も制限された中でカンスト状態なので余裕はできるみたいだ。戦闘中でも結構、話しかけられた。
おかげでダンジョンの扉を開けるギミックを説明されて開けに行ったりと、戦闘中でも色々とやることはあった。敵に近づきすぎると、反応されるので気を使う場面もある。
「ケイちゃん、ゲーム慣れした感じはあるね。結構やる方?」
「ま、まあ、それなりには」
ゴブリンを相手にしながら、セイラさんは質問してきたりする。当たり障りのない部分はいいけど、ネカマがばれないかは不安だ。
しかし、セイラさんが、妙に絡んできて少し不安だ。もしかして、女の子スキーな人なんだろうか……。
ちなみに一番の目的である錆びた武器集めは、結構な割合でゴブリンがドロップしてくれ、パーティーの人達も譲ってくれるのでそれなりに集まっている。
錆びたダガーは、NPC相手に売るか、スキルで鋳つぶしても下位の素材になるだけなので、需要は無いそうだ。
そうこうするうちにボス戦に。
大柄なゴブリンとその取り巻きが出てきて、途中でも追加で敵が増えていく。ボス以外の敵をできるだけ早く倒しながら被害を減らし、その後でボスにダメージを与えていく。
既に完成されたパターンは、苦戦する事もなく終わってしまった。取り巻きゴブリンもちらほらと錆びたダガーを落としてくれたので、俺としては満足だった。
「それじゃ、解散だね。ケイちゃんは、魔法買わないとね」
「はい、そうします」
ペコリと頭を下げてダンジョンを出る。
戻ったのは錬金術師の部屋である。早速、錆びたダガーを還元していく。錆びたダガーと一酸化炭素の入った瓶を釜に置いて、瓶の中にダガーを差し込むと反応が開始される。本来はそんな簡単に錆がとれるわけじゃ無いのだろうが、そこはゲームであり綺麗になった。
ブロンズダガーという最低ランクのダガーになるだけだが、NPCへ売却したら錬金釜の使用料くらいにはなるだろう。
「おろ?」
いくつか還元するうちに、違った物ができた。『装飾されたブロンズダガー』という名前で、その名の通り刀身から柄にかけて、見事な装飾が施されている。
「少しは高く売れるのかな?」
とりあえず所持品に入れて、他の還元も終わらせた。
その後は、冒険者ギルドに行って、クエストの報告。少しまとまった報酬がもらえた。
これで魔法を買いに行くかと振り返ると、セイラさんが立っていた。
「やあ、さっきぶり」
「あ、はい……」
思わず警戒してしまう。待ち伏せされていた。ちょっと考えたら初めてのダンジョンクリアの後、ここに来るのは予測できるのだった。
「ごめんなさい、驚かせてしまったかしら」
「あ、いえ、その……」
「女の子の初心者って事で、アドバイスしないとと思ったけど、ちゃんと分かってるみたいね。私のことを怪しい女だと警戒してくれてるみたいだし」
「えっと、あの、すいません」
「ううん、それでいいの。女の子プレイヤーを見ると、ちやほやする男が寄ってきて、最初はいいんだけど……思い通りにならないと急に態度変えたりして、悪質になるプレイヤーもいるから。せっかく楽しいゲームなのに、そういうので離れて欲しくなかったのよ」
セイラさんの表情が少し曇ったのは、過去にそうした事で去ってしまった友達がいたのかもしれない。
「ありがとうございます」
「さっきは結構話しかけちゃったけど、私がある程度のボーダーを作ると、男プレイヤーはそれ以上踏み込めなかったりするのよ。不快にさせてたら、ごめんなさい」
「いえ、楽しかったので、気にしないでください」
「そう? 良かったわ。それじゃあALFを楽しんでね」
「あ、あの、フレンド登録してもらっていいですか?」
去ろうとしたセイラさんを呼び止めた。
「あら、いいのかしら? 怪しい女かも知れないわよ?」
「フレンドだけなら、そこまで悪いことはできないと思いますし、相談できる相手はいてくれると嬉しいので……」
「ちゃんと考えてるわね。ならいいわよ、申請して」
「はい、ありがとうございます」
メニューから申請を行って、受諾されると、フレンドリストにセイラさんの名前が登録された。
「何か困ったことがあったら、気楽に相談してね。それじゃ」
「はい、ありがとうございました」
魔術師ギルドに行くと、ダンとロイドの姿があったので、気づかれる前に立ち去った。セイラさんのおかげで警戒してたので気づけたのだ。二人には悪いが攻撃魔法は明日でいいだろう。