表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
65/87

問題と思考

「さてシミュレートは終了した」

 見た目の幼さとはかけ離れた老成した瞳が俺を見据えた。悪魔憑きによる思考加速がどれほどの時間圧縮を行うのかは分からない。

 ただその幾重に重なる解法を何度も試みる作業は、人の脳と精神にどれだけの傷を付けるのだろうか。

 安易に彼女に頼った俺は、間違っていたのか。


「おいおい、終了したと言った。そこで迷われても私の苦労が無駄になるだけなんだが」

「それはそうかもしれないけど……」

「まずは問題の整理だ。大学でも習うだろう? 出題に対して何が問われ、どこに焦点を集めるのか。まずはソコからだ」

 ルカの冷徹に思える脳裏から言葉がこぼれてくる。

「も、んだいは、ALFが存続できるかどうか」

「なら解法は、今ここにいる」

 そうだ、俺達はALFに入れている。海外サーバーでなら、ゲームは継続できるのだ。なら解決なのか? 違うな。

「日本でプレイしたい、仲間と一緒に」

「それはなぜ阻害されているのか」

「暴力表現規制法案……」

「違うな」

「え?」

「ゲームシステムが、日本のレギュレーションを満たしてないからだ」

「だから、それが暴力表現規制法案じゃないの?」

「まだ施行どころか、法案として提出もされてないものに、そんな効力はないよ。問題となるのは、コンピュータエンターテイメントレーティング機構。通称CEROだな」

「え、それって……」

 ゲームソフトに書いてある年齢制限の審査機構の事だよな。

「今回、日本サーバーが閉鎖されたのは、それが原因って事?」

「このゲームはアメリカの規制によって制作され、日本には表現基準に合わせた形で修正を入れて販売している」

 これは昔から言われていることで、海外から移植されるゲームでは、暴力表現で部位欠損などに修正が入ったりしていた。

「ただベースとして存在するものに、蓋をする形で修正してあるものが、バグであれ表示されるのであれば、規制の対象になるということだ」

 黎明期の成人指定ゲームで、元のグラフィックにモザイクを上乗せしていたゲームが、モザイクを非表示にするツールが出回り、規制された事もあるそうだ。

「それが今回は……」

「生々しい強姦動画が広まった事で、CEROが注目したのだろう。またCERO自体が、そうした規制に政府から力が掛からないように、自分達で監視するために作られた組織。今回の暴力表現規制法案を最も畏怖しているはずだ」

「じゃ、じゃあ、犯人を捕まえても、動画の出処を探っても、今のサーバー停止には関係ないってこと?」

「表現への制限の根本部分が問題とされるだろうからな。運営側がバグを利用されたとしても、そうした間違いが起きない対策を出来なければ、運営再開にはならないだろう」

 となると俺達がどうこうしても関係ない話なのか。

「まあ、この話はあくまで今ある情報と私の知識で導き出した推論であって、事実ではない。実際は民心党なりの圧力で止まっている可能性は否定できないよ」


 結局は、プレイヤーがどう動こうがタッチできない部分なのか。

「しかし、今回の法案もそうだが、何かにつけて規制を入れたがる連中が力を持つと、今後の運営に影響が出ないとは言えない」

「それは……」

「どんどんと窮屈な世の中になるかも知れないな。この民心党が起こした騒動をそのまま放置しても良いのか?」

「でもそれこそ一人じゃ、どうにもならないよ」

「なぜ一人と思う?」

「だって投票権は一人一票しかないじゃないか」

「本当にそうか?」

「え?」


 ルカはそれ以上は答えてくれなかった。



「それはそうと『悪魔憑き』に興味が出てきたんじゃないかな?」

「そ、それは……」

 興味がないと言えば嘘になる。こうして問題に答えを出してくれるのはありがたい。でもそれはルカであるからで、俺がそうなれる訳じゃないだろう。

「何、ものは試しじゃ。そんなに資金に困っているわけでもないだろう?」

「それはそうだけど……」

「安心していいよ、NPCは日本語使えるから」

「え、そうなんだ」

 アメリカサーバーで周囲はアルファベットばかり。買い物もうまくできないんじゃないかと思っていた。

「行ってみればわかる。魔術師ギルドの場所も一緒だからね」


 ルカに連れられて、魔術師ギルドへと足を踏み入れた。周囲では英語だろう会話が飛び交っていて、正直なところ頭が痛くなる。

「あ、あのぅ」

「はい、なんでしょうか」

 おずおずと話しかけたNPCの受付が、日本語で応対してくれたことに安堵する。

「魔法のリストをお願いします」

 出してくれたリストを確認すると、闇魔法の項目を開く。重力操作や暗闇を生み出す魔法。相手へのダメージを自己の治癒に変換する魔法などが並んでいる。

「あれ?」

 しかし、『悪魔憑き』という魔法はなかった。

「ルカ、魔法が無いんだけど」

「悪魔召喚はクエじゃからな」

「そうなのか……って、なんで魔術師ギルドに来たんだよ!?」

「いや、アナタは素直過ぎるからなぁ。教育的指導だ。もう少し情報の精査やら自分で考える事をしないと」

「ぐぬぬ」

 しれっと言われて腹は立つ。腹は立つがその通りなのだろう。人に答えを出してもらえば楽だが、それだけに頼るのは危険だ。

「それに『悪魔憑き』を手に入れても、自分で思考する癖がないと意味ないからね」

「わかったよ。自分で考えれる部分は、自分で調べたり考えてたりしてみる」

「そういうところが素直過ぎるというんだけどね」

 ルカはふっと笑みを浮かべた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ