占いか分析か悪魔憑きか
「仕方ない、種明かしをしてやろうか」
ルカは不敵な笑みを消さぬまま、俺に向かって言ってきた。種があるということは、何からの別ルートで既に情報を持っていた?
しかし、今回の事を知っているのは、シゲムネかソニアさん。もちろん、信頼があるから話せた事で、その二人が他人に言いふらすとは思っていない。
「やはりな。一つ情報を与えると、それを自分なりに考えて、思考を巡らす。その姿勢は良いと思うぞ?」
「くぁっ」
精神感応なのか。メイフィとは念話で会話できる。つまり、思考を外部に伝える方法はあるのだ。
元々ALFは脳波を計測してプレイに反映する機器を使っている。その中で会話として発しようとしているものだけを、相手に伝えているはずだ。
現実世界と違って、その送受信部からの情報があれば、精神感応のようなスキルもあって不思議はない。
「まあ残念ながら読心術とまではいかないぞ? 現実世界でも通用するマインドリサーチ術だよ」
「な、に?」
「世の中の占い師をどう思う? 眉唾のそれっぽい事をいう輩?」
「そ、それは……」
この場合の占いとは、雑誌やテレビでやる血液型や星座によるものではないだろう。街角で手相などを見ながらアドバイスする類のものだ。
俺はあんまり占いとかは気にしたこともない。それがどのように行われて、何をしているのか。
「占いの多くは統計学という話を知っているかな。こういう条件が揃うと、人はこのように行動する。そういう観察学による統計で、こうなる傾向が強いと判断する」
「あ、あぁ?」
「そして相手の反応を見て、時に言葉で揺さぶって、相手の望むこと、聞きたいことを教えてやるのだよ。ホットリーディングとか、コールドリーディングという奴だな。メンタリストと呼ばれる人がテレビに出てたりするだろう?」
「つ、つまり」
「今回の事でいうなら、一番サンプルの多い恋愛絡みの案件。相手の言動から、年齢や経験、正確などを読み取って、それに応じたアドバイスをしてやる」
「で、でも、俺は……」
アドバイスと逆の行動をとったのに。それを口にずる前に、言葉が続けられた。
「アナタの性格は思考型。自分で納得しないと、行動には移せない。ならば納得させる理由を見つけさせてやる」
「見つけさせる?」
「ああ、下手に考える奴は他人の意見を素直に聞けない。だから、そのままを伝えるのではなく、疑問に思う答えを提示して、それは違うんじゃないか、こっちの方がいいんじゃないかと思わせ、そちらを行わせてやるとスムーズに進む」
「え、うぅ……」
セイラに友達として側にいてやる選択を突き付け、それに不満を抱く俺が、他の方法を模索して、自分の想いを伝えるように誘導した……?
そんな事が可能なのか。単に結果から逆算して、そう思わせたいだけじゃないのか。
「もう一つ、私は『悪魔憑き』を使える。これはステータスを一時強化できる魔法で、肉体強化や魔力強化などを行う。私の場合は思考加速、頭の回転を上げる効果をよく使う」
「思考加速……」
「アナタも考えるタイプだから分かるだろうけど、いくつものifを重ねて物事を考えていく。その中で可能性の高いものを選び出すのだ。また、思考加速の副次効果として、勘のような思考も分析してくれる」
「勘?」
「ベテランの刑事が、事件の解決にクサイところに辺りを付けるアレ。あれは本人も自覚のない経験の蓄積の中から、違和感や手掛かりを探し出して、ここが怪しいと目星をつけている。思考加速は、それの裏付けになる記憶も掘り出してくれる」
「な、るほど……」
正直、漠然とした感覚でイメージがうまく浮かばない。
「悪魔憑きに興味が出てきたかな? 使うと頭が頭痛で割れるように痛くなるがな」
そう言いながら顔をしかめる。
「そんなわけで、もうすぐ効果が切れるから、ログアウトする。また会おう、同志よ。あと彼女にはちゃんと可愛い女の子と会ってたと伝えるんだぞ?」
「え?」
問い返す前にルカの姿は、ログアウトして消えてしまった。悪魔憑きの強烈な印象を残して。
しかし、表にいた黒ローブがルカに会いたがらなかったのも、よく分かる。あれこそ魔女なのだろう。
プレイヤーは何者なんだか……。
家に帰るとセイラも戻っていて、畑の手入れを行っていた。スイカが大きく育っていて、それを一玉刈り取って持ってきてくれた。
「冷やした方が美味しいんだろうけどね」
一応スラムにも井戸はあるから、冷やしておくのはできるだろう。後は魔法で何とかできるだろうが、氷系魔法は覚えていなかった。
「そういえばケイはどこへ行ってたの?」
スイカを切り分けながら、セイラに聞かれた。ルカはちゃんと教えろと言ってたけど、最初のアドバイスは逆が正解だったわけで、今回も逆がいいのか。
「ちょっと女の子に会いに……」
セイラがきょとんとこちらを見る。いや、説明の仕方が悪すぎた。
「あ、あのね、教会で懺悔した時に知り合った子が悪魔でね。文句を言いに行ったら、何か計算づくで翻弄されたというか」
しどろもどろに説明しようとするが、訳がわからなくなってしまった。そんな俺にセイラが笑いかけてきた。
「そんな浮気を指摘された亭主みたいな反応は早いよ。別に浮気なんて疑ってないし」
そりゃそうか。この辺もルカにコントロールされてるのかどうなのか。あの子の事は記憶から押し出したほうが身のためかもしれない。
「順を追って話すよ」
セイラとあの子が出会ってからの経緯を、誘導尋問で引き出されて、逆のアドバイスをされたこと。逆の行動を行うことを予測されていたこと。悪魔憑きの思考加速でそれを予測したことなどをセイラに話した。
「なんか凄い子に会ったのね」
「ほんと、キツネにつままれたような変な感じだったよ」
『まだ摘む事はできない、です』
隣で一緒にスイカを齧っていたメイフィが割り込んできた。ことわざを知らなかったみたいだ。
「私も会ってみたいなぁ」
「え、それは……」
「何? やましい事があるの?」
「ないない、それは無いけど。悪魔崇拝者の中でも敬遠されてるみたいだからさ。心を見透かされてるみたいで怖いよ?」
「推理なのか占いなのかわからないけど、知識が豊富な人なんでしょ。そういう人と知り合っておくのは、いい事だと思うよ」
あまり拒絶すると関係を疑われるのだろうか。ここまで計算してたら怖いなぁ。セイラを会わせていいのかとは思うが、告白初日からわだかまりを作るのも避けたい。
「わかったよ、とりあえずその教会までは案内する」
「ふふっ、楽しみね」
しかしその機会が訪れることは無かった。




