鉱山で宴会と悪魔少女
領主の屋敷に戻ると食堂へと通された。現場監督なども招集され、新たな鉱脈の開拓に向けて士気を高める会合の場となっていた。
「錬金術師のケイ・リュウゾウジ殿の働きにより、我らの鉱山は大きな発展を遂げるであろう。ここに感謝の意を表ずる」
執事が俺の元へと小箱を持ってきた。箱自体にも幾つかの宝石がはまっていて、高価な雰囲気をだしていた。
それを恭しく受け取ると、執事の手で箱が開けられる。中には紋章入りの短剣が収まっていた。
「我が家では魔除けの短剣を護身用に身につける習慣がある。ケイ殿には、我が家の者と変わらぬ支援を約束しよう」
え、何それ。嫁入りしろってこと!?
ということはなく、単純に資金面やら技術面、資料調査などで支援が受けられるという事らしい。
「それでは、皆のもの。今宵の宴を楽しんでくれ」
鉱山の現場を任される猛者達を招いての晩餐会は、無礼講として堅苦しいマナーもなく、ただただ美味しい料理を食べる事ができた。
鉱夫達も俺へと感謝しに来てくれた。
NPCだろうが人の役にたち、感謝されるというのは嬉しいものだ。
ALFのNPCは人との関わりによって、より人間らしさを蓄積していくらしい。今後、マクシミリアン家の領地へと訪れる度に、その個性はついてくる事になるだろう。
「ケイちゃ〜ん、飲んでるぅ?」
食事用のテーブルが片付けられて、中央が広く開けられ簡易なダンスホールになっていた。
踊られているのは貴族的な円舞ではなく、太鼓の音をベースにした民族的なものだ。
筋肉質のマッチョマンが、その体を叩きながら踊る様は楽しそうではあるが、参加はしづらかった。
なので壁に寄ってそれを眺めていたのだが、酔っぱらいに絡まれた。
「っていうか、セイラ。飲んでるんですか!?」
以前、未成年だから云々言ってた気がするんだが?
「だいじょ〜ぶ、ゲームの中なら大人らからっ」
顔を真っ赤にしながら、ロレツの回らない言葉で言われても信憑性はない。
千鳥足でフラフラしているセイラを連れて、壁際のソファへと移動する。
「んふふ〜」
ソファに座ると、セイラがしなだれ掛かってくる。
「もう、しっかりしてくださいよ」
「だって〜」
「だってじゃないです」
さてどうしたものか。
セイラは肩を抱くようにしながら顔を寄せてくる。髪色やペインティングで、印象は違っているが石井さんそのままの顔。ほんのり赤みがかった顔が耳元に寄せられる。
「こうでもしないと、イチャついてくれなさそうだし」
「え? ひゃっ」
聞き返そうとしたところ、耳をペロンと舐められて身を引いた。
セイラはそのまま力なく俺の膝へと倒れ込んだ。
「ふふ〜ケイの膝枕ゲット〜」
「もう……」
今日は金色に染められた頭を、そっと撫でると心地良さそうに目を細めている。実家にいる猫を撫でているようだ。
「今日は本当に嬉しいんですよ?」
ふとセイラではなく、石井さんの雰囲気でそんな言葉をかけてきた。
「告白されたのは初めてでしたし、相手は鍋島くんだし」
改めて言われると恥ずかしい。
「別にベタベタしたいって訳でもないですが、少しは甘えたいかな〜という気持ちもあったり……ね?」
「ぜ、善処します」
「そういう固いところが無くなると、もっと嬉しいんですけど」
「私も告白なんて初めてだし、誰かと付き合うって言うのも初めてだから、戸惑っているんです」
「ふふ、嬉しいです」
「私も嬉しいですよ」
何曲が続いた踊りが終わり、一汗かいた男達は風呂へと向かった。
「私達も帰りましょうか」
「そうだね」
「ケイ殿」
帰ろうとした時、領主に呼び止められた。
「サイラスも探してくれているとか。奴には領地を分けることもできず、本人の性格もあって冒険者にさせたのだが……ここまで、連絡を寄越さぬとは。ぜひとも捕まえて連れてきてくだされ」
言葉では叱っている調子だが、声音には心配する様子がにじみ出ていていた。
「分かりました。できるだけ早く見つけられるように努めます」
「かたじけない」
家には転送石を利用して、一瞬にして帰れる。セイラはIDへと行くらしいので、俺は自分の用事を済ますことにした。
「まずはルカに文句を言いに行く……だな」
もし彼女のアドバイス通りにしていたらどうなっていたか。
俺は廃教会へと向かった。
悪魔崇拝者の黒ローブが待っていたが、ルカを呼び出すように伝えると、部屋の方へと案内された。
クランハウス内は、部外者に許可を与えないと入れないエリアがあり、ルカを呼ぶよりも、そこへ招き入れる方を選んでいた。
「それじゃあ、ごゆっくり」
黒ローブは入り口まで案内するとそそくさと去っていった。まるでルカを恐れるように。
確かに人を誘導尋問に掛けるような怪しい人ではあるが、身内からも避けられているのか?
少し気を引き締めてから、ルカの部屋へと足を踏み入れた。
部屋は薄暗く、両側に本棚が並んだ書斎のようになっていた。奥にある大きめの机に腰掛けながら、ルカは本を読んでいた。
「ふむ、その様子だと上手くいったようだな」
「なっ」
こちらを見ることもなく、気配だけでこちらを観察したのか。
「私のアドバイスと逆を行って、仲良くなれたのだろう?」
何でもないように言われて、俺は言葉に詰まる。ルカはようやく顔を上げてこちらを見た。
「嘘のアドバイスをされて、もう少しで取り返しの付かないことになるところだったと、私を怒りに来たというところだろう」
「あ、あんたは、何者……だ」
ニヤリと笑みを浮かべるルカに、呑まれてしまう。
「ただの悪魔崇拝者だよ」