はじめてのダンジョン
昼間は大学で授業を受けつつ、ダンジョンの情報を集める。システム的にはインスタントダンジョンと言われる形式で、パーティー単位でダンジョンが貸し切りになって、中を探索できるスタイルだ。
これのメリットは、レベルに合わせた難易度調整ができるので、その時々に相応のスリルを味わう事ができる。
デメリットは、パーティー構成がある程度縛られてしまう点だ。
決められた事を決められた手順でこなす感じで、嫌がる人もいるみたいだが、俺としては調整された難易度という面で面白そうだと感じている。
挑もうとしているダンジョンは最初のダンジョンなので、難易度はかなり緩い。かといって四人推奨のダンジョンに、初挑戦で一人で挑める気はしない。
「いっさんなら行けそうな気もするが、洞窟でアレを使うのはどんな作用がでるか怖いな」
パーティー募集か……すればすぐに集まるだろうが、後が怖い。何のために女性キャラにしたのかと言われそうだが、下心の透けて見える男に詰め寄られるのは、思った以上のストレスだった。
次に思い出すのは、装備をくれた二人か。最低限のマナーをもっているのか、グイグイくるだけの度胸がないのかは分からないが、一定の距離感は守ってくれそうだ。
女性専用のクランもあるのか。そこまで固まってしまうと、将来の姫プレイがやりにくくなる可能性がある。
「ん? ランダムパーティーというシステムもあるのか」
ダンジョンに参加希望者を匿名で募って、その場限りの四人パーティーが組まれるというシステムだ。これなら万が一、変なプレイヤーに当たっても、ダンジョンを離脱すれば追跡はされない。
「これでいくかぁ」
「ん? それALFか?」
友人の一人が俺の端末をのぞき込んで聞いてきた。少しドキリとする。不正行為をやってるだけに下手に知られるのはまずい。
「あ、ああ」
「俺もサービス開始からしばらくやってたよ。まだ続いてるんだな」
「うん、結構続いてるみたいだから気になったんだ」
「結構時間使うからなぁ、なかなか復帰はできねーわ」
「俺もそんなに真剣にはやれないんだけどね」
「ネトゲは程々にしないとな」
友人との話はそれで終わった。ううーむ、学校で調べるのも気を付けなきゃ駄目だな。
家に帰ると早速ゲームを起動する。楽しようとチートネカマで、真剣にはプレイしていないが楽しんではいる。
ログアウト場所は、錬金術師の家だ。人気のないスラムにあるので、基本的に静かだ。錬金術師は相変わらず何かを作っているようだが、出会いの時の爆発のようなことはない。あれもプレイヤーが接近すると発生するクエストだったのだろう。
俺はひとまずダンジョンを開放するためのクエストを受けにいく。冒険者ギルドへと向かい、二階にあるクエストカウンターへとやってきた。受付のNPCからゴブリン討伐の依頼を受ける。
「街の近くにある洞窟に、ゴブリンが住み着きました。これを討伐してください」
簡単な説明とマップ表示がされる。一応、この場所には行かなくてはならないようだ。
俺は一人で街を出て、重力操作で圧縮した空気から、風の重精霊を召喚。護衛に連れて、洞窟を目指す。道中、プレイヤーには合わず、襲ってくる敵は重精霊で倒していけた。
サンショウウオのようなツルリとした生き物から、ニュートの尻尾というアイテムがドロップした。合成素材らしい。
「ノックバックが優秀だけど、パーティー戦だとターゲット取りにくくなるから駄目か。ダンジョン行くときは、普通の精霊にしないとな」
洞窟の入り口には、調べれるポイントがあって、チェックするとノマクド洞窟のダンジョンが開放された。
洞窟の中はこのままだと入れないように柵でふさがれている。ここでランダムパーティーを申請してもいいが、一応街まで戻ることにした。帰りもいくつかニュートの尻尾を拾って、そのままスラムの錬金術師の元へ。
メニューからランダムパーティーで、ノマクド洞窟への参加を申請する。これで申請者が四人になれば、ダンジョンへの転送が行われるはずだ。
ピコンと思った以上に早く、マッチングの通知がやってきた。参加しますかという選択肢がでているので、迷わず参加。足下に青く光る魔法陣が発生し、光るエフェクトに包まれた。
浮遊感の後、光が収まると少し暗い洞窟にやってきていた。
「お、珍しい、女の子だ」
そんな声が聞こえる。が、その声は女性のものだった。白い鎧に身を包んだ女性が微笑んでいた。赤毛のショートカットに、派手なアイメイクに、真っ赤な唇。頬には星形のペイントまで入っている。
「あの、初めてですが、お願いします」
「ここで初めてってことは、本当の初心者?」
「は、はい」
「そっか、じゃあ色々と教えながら進めていいわよね?」
他の二人は当然のように男プレイヤーだった。俺のスキルに合わせて、パーティーの編成が調整された。白の鎧を着たセイラさんがタンク役、ダンという人が近接の攻撃役で格闘家、もう一人のロンドが回復役に回り、俺は遠距離からの攻撃役だ。
「宝箱とかどうしよう?」
「一通り回るでOK」
「ああ、それでいいよ」
「ありがとうございます」
俺のマップ埋めに協力してくれるようだ。
「なに、可愛い子と一緒に回れるんだ、嬉しいよね」
それを言うのがセイラさんなのだが。他の男二人は笑顔で頷いていた。