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悪魔のささやき

 翌日、大学に行くと紹司が待っていた。

「ソニアさんからアドバイス聞けたかよ」

「……ダメだった」

「そ、そうか……ソニアさんなら、親身に考えてくれそうなのにな」

「ああ、他人の事を考えるのは、逃げてるだけとか、良くわからない事言われて……」

「なんだ、ちゃんと相談には乗ってくれたんじゃないか。詳しく話してみろよ」

 俺自身、理解できていない事なので、説明には苦労したが思い出せる言葉を紹司に伝えた。


「確かによく分からんな、又聞きだからかもしれないけど」

「セイラに選んでもらう方がいいだろ。相手の気持ちを考えるなら」

「そうだよなぁ……」

 男二人で頭を突き合わせて首をひねる。今日は石井さんとは違う講義なので、気まずい思いはしなくて済む。

「でもさ、セイラさんがその子を選んだら、お前はそれで満足なの?」

「そりゃ残念だけどさ。こっちの気持ちを押し付けても、相手に無理させるだけじゃないか」

「それもそうか……」

 結局、俺はセイラが決断するのを待つことにした。



 ALFにログインした俺は、盗賊の襲撃で新たな被害が無かったことを確認すると、特に何かをしようという気にもなれず、ぶらぶらと街を歩くことにした。

 ただ街中を歩いていると、頻繁に男から声を掛けられる。適当にあしらいながら、できるだけ人が居ない方へと散策コースを変えていた。

 するとスラムとの境ぐらいに、寂れたというか、崩れたというか、ボロボロの教会があるを見つけた。

 中を覗いてみると、礼拝堂。ステンドグラスから差し込む光に照らされた像が正面に立っていた。

「でもあれって……」

 ふらふらと中へと入って確認する。神像だったり、張り付けの聖人などが置かれる場所に、どっかりと座り込んでいたのは山羊の頭を持つ人型の魔物。

「やっぱり、悪魔の像だよな」

「左様、ここは悪魔崇拝者(サタニスト)の為の背徳の教会。汝、迷える羊を食らう場所よ」

 奥の扉から現れたのは、黒のフード付きローブを纏った男だった。

「神に愛想を尽かし、己のみを信じ進む覚悟のある者が……」

 朗々と語っていた黒ローブが、突然言葉を詰まらせた。


「え、えーっと。その、なんだ、歓迎するよ!」

 威厳を意識してたであろうロールプレイが崩れ、相好を崩した男が揉み手するように近づいてきた。

「あの、私は、単に好奇心というか、見たこと無い建物だったから覗いただけで……」

「大丈夫、悪魔崇拝っていってもゲームだし、中二病の延長なだけだよ、怖くないよっ」

 すっかり毒気というか、おどろおどろした雰囲気がなくなって、妙に気さくな態度で話しかけてくる。

「すいませんっ、興味無いんでっ」

 俺の容姿を見るなり態度を変えた男に拍子抜けした俺は、逃げるように教会を飛び出した。


「おわっ」

 教会を出たところで、人とぶつかってしまった。

 コロコロと転がったその人は、大の字になって動かない。

「ご、ごめんなさい、大丈夫ですか!?」

 慌てて駆け寄って抱き起こす。その人、いやその子は10歳くらいの女の子で、先ほどの男と同じような黒いローブを着ていた。

「ひゃっ」

 サワサワとお尻を撫でられる感覚に、思わず手を放してしまって、女の子は再び地面に倒れた。

「酷いじゃない」

 腹筋の力で上半身を起こした少女に、文句を言われた。

「と、突然、お尻を撫でられたからっ」

「いいじゃん、減るもんでもなし」

「減る、減らないの問題じゃなくて、驚いたから手を離したのよ」

「ああ、そういう事か」


 少し変わったところのある少女は、すくっと立ち上がりローブをはたく。

 このゲームは15歳以上でないとプレイできないし、目の前の少女は見た目通りの年齢ではないのか。

「ふむ、アナタが可愛いから、無理に勧誘しようとしたってところかしら?」

「無理にって訳じゃないけど、何かに勧誘はされそうだったのかな。そんなつもりは無かったから、出てきたんだけど」

「教会に助けを求めるような悩みでもあったのかしら?」

 こちらの内心を見透かすような瞳で、少女はニヤリと笑った。


「ふぅん……」

 気づくとルカと名乗った少女に、いま直面しているセイラとの関係について話してしまっていた。一応、固有名詞は使っていないが、状況は把握されただろう。

「あれ、なんで……」

「このゲーム、脳に直接干渉するから、催眠術に掛けやすい……って言ったら信じるかしら?」

 ナニソレ、コワイ。

「冗談よ。話したそうにしている事を、誘導尋問で引っ張り出しただけ。特別な事はしていない」

 いや、それでも十分に怖いんだけど。

「しがらみのない人間には話しやすいこともある。教会の懺悔や辻占いなんかもそうした面があるらしいしね」

 そういうものだろうか。

「それよりもだ。アナタはちゃんとその相手に、自分の気持ちを伝えている?」

「え、そ、それは……」

「そのライバルの子は、アナタの目の前でよりを戻したいと口にしたんだろう? なのにアナタの事は察してくれって言うのは都合が良すぎないか?」

 愕然とする。そんな事にも気付けていなかった。すっかりセイラとは意思が通じていると思い込んでいた。

「はっきりしない態度の人と、自分を必要としてくれる人。アナタならどちらを選ぶ?」

「あ、ああ……」

「まあ、相手としては選ぶ感覚も無いだろうけどね」


「わ、私はどうしたら……」

「相手の事を考えた最善は、恋愛感情は無いとはっきり告げて、今までの友達付き合いを続けることかな。リアルでの友達として過ごすのが一番だろう」

 セイラが最初に求めていた大学近辺での知り合いを増やす。それに協力できれば良いのだろう。

「次点は今のまま時間が経過して、相手がその子を選ぶのを待つ」

 それは一方的に身を引くということか。

「最悪なのは相手に気持ちを伝えて、迷わせ選択を迫ること……だな」

「な、なんで!?」

「それは相手に負担をかけて、どちらを選んだとしても傷つけるから。以前もかなり悩んで苦しそうだったんでしょう?」

 以前、大学の俺とケイの存在との間で悩んで、大学でもALFでも会えなくなった時期があった。

 それを再び突きつけるのは、確かに負担となるだろう。

「相手の事を思うなら、せっかく戻ったよりを守ってやるのがいいかもね?」

 そう……なのか。

「ふふ、出会いが欲しいなら、悪魔崇拝者(サタニスト)の集会に参加すれば? 悩む必要もない人間関係と快楽を楽しめるわよ?」

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