俺と私とセイラと彼女
セイラは俺に好意を抱いてくれているだろう。以前に数日ログインしなかった時も、俺の事で色々と悩んでくれていた。
ただケイとしての俺とはそれなりに過ごしてきたけど、鍋島直紀としての俺とはほとんど接点も無い。
大学進学を機に街へと出てきて、周りに知り合いもなく孤立気味だった石井さん。
ゲームを通じて知り合った俺に依存しているだけで、異性として好きかどうかという段階じゃないはずだ。
俺は自分にそう言い聞かせつつ、それでも仲良くなれるに越したことは無いよなとも思う。
俺自身も石井さんが好きなのかと聞かれたら、まだ判断はできない。今はお互いの事を知るのが大事だろう。
マクシミリアン家から依頼された鉱山の岩盤破壊クエスト。マクシミリアン家の所領は、最初の街から北西に進んだ山を越えたところにある。
主な資源は鉄や銀といった鉱物で、それらを加工する技術者も多いらしい。
道中には2つの村を経由する。転送石へと登録して、今後は転送で来れるようにしながら進んでいく。
隣には馬に跨るセイラの姿。
「メイフィちゃんに乗れるのいいなぁ。法師丸はまだレベルが足りないみたいなのよね」
三毛の猫又である法師丸に乗るというのは、イメージがわかないがどうなるんだろう。
まあ、メイフィも狐にしては二回り以上大きいと思う。
「私もIDに法師丸を連れて行って鍛えないとね」
前衛で敵の攻撃に耐える立場のセイラに、ヒーラー役の法師丸は相性がいいだろう。
マクシミリアン家の所領にある街へと到着する。山の裾野に広がる街は、スイスの街並みをイメージしたらしい。やや角ばった家屋は思いの外、色鮮やかで綺麗だ。
デートするならこういう街もいいのかもしれない。
「ケイのその服装もいいわね。マーカスさんの?」
「ええ、以前にもらったの」
騎乗時はスカートだと色々と気を使わないとダメなので、キュロットを履いている。色味も緑で普段の暗色に比べると活動的に見えるだろう。
「鎧だとあんまりこだわれないのよね。盾役は好きだけど、その辺がちょっとね」
セイラの普段の姿は、白銀の甲冑。ゴテゴテした西洋風全身鎧ではなく、軽量化された鎧なのだがそれでも凛々しいイメージにはなっても、可愛くはならないらしい。
兜は被らず、鉢がねのような頭飾りで顔も見えるし、セイラには似合っていると思う。
「私は似合ってると思うよ、その鎧姿。凛々しい女騎士って感じで」
「そうかしら?」
そんな感じで話しながら街中を歩いて、マクシミリアン家の屋敷へと向かっていた。
「セイラ!」
その声とともにセイラの腰に、女の子が抱きついてきた。
まさに突然といった感じで現れて、俺は全く反応できなかった。
「の、ノブちゃん!?」
セイラはその子の出現に驚いてはいるようだが、抱きつかれても嫌がる素振りはみせていない。
「こんなところで会えるなんて、運命だねっ」
少し体を離したものの、セイラの両手を握って正面から笑いかけている。
短めのツインテールをした少女は、軽装の鎧を着て腰には短めの剣。小柄で活動的な雰囲気で、愛らしい。
「ど、どうしたの、こんなところで……」
セイラは少し戸惑った表情でちらりとこちらを見る。
「私、気づいたの、私にはセイラが必要だって。勝手な事だとわかってるけど、ちゃんと謝りたい。それも含めて色々と話したいことがあるのっ。この後、時間あるかな?」
かなりグイグイと来る子で、セイラが押されている。
「ケイのクエストに付き合ってるところだから、それが終わってからなら……」
ここでようやくその女の子はこちらを見た。値踏みされるような視線にたじろぐ。アラいたの、なんでいるの、邪魔なんだけど……そんな内心が伝わるような視線だ。
「今はこういう子が好みなの?」
「えっ、あのっ」
焦った様子を見せるセイラ。ここでようやくセイラが以前に話してくれた事を思い出した。
『私、女の子と付き合ってた事があって……』
「今はこの子と付き合ってるんでしょ?」
「ち、違うよっ」
少女に気圧されたのと、照れくささもあって、思わず否定してしまう。その答えに少女はニンマリと笑い、セイラはショックを受けた顔をした。
「そっか、初心者へのお手伝いだね。セイラ、昔から面倒見がいいから」
その子はさり気なく体を寄せて、腰に手を回した。こちらを試すような動きと視線に、俺は固まってしまう。
セイラはそれを避ける素振りもなく、さも当然といった感じで受け入れている。
「じゃあそのクエスト、ちゃちゃっと終わらせちゃいましょ」
当然といった感じでこちらのクエストに参加しようとする少女。
ただマクシミリアン家のクエストは、ネットでも情報の出ていないクエスト。あまり他人に知られたくない。アクイナス屋敷の隠し部屋のように、先を越されたくはなかった。
「い、いえ、私はここまで連れてきてもらっただけで十分です」
「あらそう? だって、セイラ」
「え、あの、ケイ?」
こちらに確認しようとするセイラ。ただその子から離れようとする気配はない。戸惑いの中にも、嬉しそうな雰囲気がある。
確か彼女にはフラレたといっていた。まだセイラによりを戻したい気持ちが残っていたら……。
仲良くするところを見せつけられたら。俺よりも彼女を選ぶなら。
ネガティブなifが頭を占領して、半ばパニックに陥る。
「セイラさん、今日はありがとうございましたっ」
俺はペコリと頭を下げて、逃げるようにその場を去ってしまった。




