表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
56/87

俺と私とセイラと彼女

 セイラは俺に好意を抱いてくれているだろう。以前に数日ログインしなかった時も、俺の事で色々と悩んでくれていた。

 ただケイとしての俺とはそれなりに過ごしてきたけど、鍋島直紀としての俺とはほとんど接点も無い。

 大学進学を機に街へと出てきて、周りに知り合いもなく孤立気味だった石井さん。

 ゲームを通じて知り合った俺に依存しているだけで、異性として好きかどうかという段階じゃないはずだ。

 俺は自分にそう言い聞かせつつ、それでも仲良くなれるに越したことは無いよなとも思う。

 俺自身も石井さんが好きなのかと聞かれたら、まだ判断はできない。今はお互いの事を知るのが大事だろう。


 マクシミリアン家から依頼された鉱山の岩盤破壊クエスト。マクシミリアン家の所領は、最初の街から北西に進んだ山を越えたところにある。

 主な資源は鉄や銀といった鉱物で、それらを加工する技術者も多いらしい。

 道中には2つの村を経由する。転送石へと登録して、今後は転送で来れるようにしながら進んでいく。

 隣には馬に跨るセイラの姿。

「メイフィちゃんに乗れるのいいなぁ。法師丸はまだレベルが足りないみたいなのよね」

 三毛の猫又である法師丸に乗るというのは、イメージがわかないがどうなるんだろう。

 まあ、メイフィも狐にしては二回り以上大きいと思う。

「私もIDに法師丸を連れて行って鍛えないとね」

 前衛で敵の攻撃に耐える立場のセイラに、ヒーラー役の法師丸は相性がいいだろう。


 マクシミリアン家の所領にある街へと到着する。山の裾野に広がる街は、スイスの街並みをイメージしたらしい。やや角ばった家屋は思いの外、色鮮やかで綺麗だ。

 デートするならこういう街もいいのかもしれない。

「ケイのその服装もいいわね。マーカスさんの?」

「ええ、以前にもらったの」

 騎乗時はスカートだと色々と気を使わないとダメなので、キュロットを履いている。色味も緑で普段の暗色に比べると活動的に見えるだろう。

「鎧だとあんまりこだわれないのよね。盾役タンクは好きだけど、その辺がちょっとね」

 セイラの普段の姿は、白銀の甲冑。ゴテゴテした西洋風全身鎧ではなく、軽量化された鎧なのだがそれでも凛々しいイメージにはなっても、可愛くはならないらしい。

 兜は被らず、鉢がねのような頭飾りで顔も見えるし、セイラには似合っていると思う。

「私は似合ってると思うよ、その鎧姿。凛々しい女騎士って感じで」

「そうかしら?」


 そんな感じで話しながら街中を歩いて、マクシミリアン家の屋敷へと向かっていた。

「セイラ!」

 その声とともにセイラの腰に、女の子が抱きついてきた。

 まさに突然といった感じで現れて、俺は全く反応できなかった。

「の、ノブちゃん!?」

 セイラはその子の出現に驚いてはいるようだが、抱きつかれても嫌がる素振りはみせていない。

「こんなところで会えるなんて、運命だねっ」

 少し体を離したものの、セイラの両手を握って正面から笑いかけている。

 短めのツインテールをした少女は、軽装の鎧を着て腰には短めの剣。小柄で活動的な雰囲気で、愛らしい。


「ど、どうしたの、こんなところで……」

 セイラは少し戸惑った表情でちらりとこちらを見る。

「私、気づいたの、私にはセイラが必要だって。勝手な事だとわかってるけど、ちゃんと謝りたい。それも含めて色々と話したいことがあるのっ。この後、時間あるかな?」

 かなりグイグイと来る子で、セイラが押されている。

「ケイのクエストに付き合ってるところだから、それが終わってからなら……」

 ここでようやくその女の子はこちらを見た。値踏みされるような視線にたじろぐ。アラいたの、なんでいるの、邪魔なんだけど……そんな内心が伝わるような視線だ。

「今はこういう子が好みなの?」

「えっ、あのっ」

 焦った様子を見せるセイラ。ここでようやくセイラが以前に話してくれた事を思い出した。

『私、女の子と付き合ってた事があって……』

「今はこの子と付き合ってるんでしょ?」

「ち、違うよっ」

 少女に気圧されたのと、照れくささもあって、思わず否定してしまう。その答えに少女はニンマリと笑い、セイラはショックを受けた顔をした。

「そっか、初心者へのお手伝いだね。セイラ、昔から面倒見がいいから」

 その子はさり気なく体を寄せて、腰に手を回した。こちらを試すような動きと視線に、俺は固まってしまう。

 セイラはそれを避ける素振りもなく、さも当然といった感じで受け入れている。


「じゃあそのクエスト、ちゃちゃっと終わらせちゃいましょ」

 当然といった感じでこちらのクエストに参加しようとする少女。

 ただマクシミリアン家のクエストは、ネットでも情報の出ていないクエスト。あまり他人に知られたくない。アクイナス屋敷の隠し部屋のように、先を越されたくはなかった。

「い、いえ、私はここまで連れてきてもらっただけで十分です」

「あらそう? だって、セイラ」

「え、あの、ケイ?」

 こちらに確認しようとするセイラ。ただその子から離れようとする気配はない。戸惑いの中にも、嬉しそうな雰囲気がある。

 確か彼女にはフラレたといっていた。まだセイラによりを戻したい気持ちが残っていたら……。

 仲良くするところを見せつけられたら。俺よりも彼女を選ぶなら。

 ネガティブなifもしもが頭を占領して、半ばパニックに陥る。

「セイラさん、今日はありがとうございましたっ」

 俺はペコリと頭を下げて、逃げるようにその場を去ってしまった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ