アクイナス屋敷と秘密の部屋
久し振りのアクイナス屋敷。前回はすぐにIDに入ったので、周辺は探索していなかった。
メイフィの鞍を外して、いつもの子狐サイズに戻ってもらう。凛々しい姿もいいけど、やっぱり子狐の方がかわいい。
「やっぱりメイフィは可愛いね」
『もう、やめる、です!』
あまりにからかい過ぎて、メイフィに怒られた。うう〜ん、思ったことを言ってるだけなんだけどな。
メイフィの乗り心地は快適で、以前ドレイクに乗った時に感じた酔いも無かった。
おかげですぐに探索に入れる。
アクイナス屋敷には三種類の敵がいた。動く人形、ホムンクルス、そして合成獣。
アクイナスの日記から、動く人形のレシピやホムンクルスのレシピは知ることができたが、合成獣に関しては、まだわかっていない。
もしかすると、アクイナス屋敷にそのヒントが無いかと思ったのだ。
メイフィにも探してもらいながら、屋敷の周囲を歩いて回る。所々に薬草の採取ポイントがあったので、それらも確保していった。
『この辺、です』
屋敷の周りを半周と少し回ったところで、メイフィが屋敷の壁を引っ掻いた。
そこに入り口があったりするのか。しかし、壁を壊すハンマーなどは持ち合わせていない。
「これでいけるかな?」
攻撃の補助用に持ち歩いているフレアストーンのトライコア。壁を発破することもできるとは思う。
ただやり過ぎないかが問題なわけだが……ダンジョンの入り口が壊れることもないか。
浅く傷つけた壁にトライコアを貼り付けて、少し距離を置く。炎魔法で着火しようとしたら、先にメイフィがぽっと炎を吹き出した。
ドガン!
大きな音と共に壁と床が崩れて、地下への階段が姿を表した。
メイフィが狐火を呼び出して、ふわふわと先導させる。ゆうに二階分は階段を降りていく。通常のボス部屋の更に下という深さだ。
「どこまで降りれるんだろ」
三階分は降りたあたりでようやく平らな部屋へと辿り着いた。
狐火に照らされた室内は、シリカが入っていた円筒形の水槽のようなものが立ち並んでいる。ただ全てが割れているか、中身が無いもので、合成獣の姿は無かった。
「え、隠し部屋なのにハズレ?」
奥には研究室といった雰囲気の機材や本が並んだ部屋もあったが、そこにも合成獣やその資料は見当たらなかった。
『何かを持ち去った形跡がある、です』
メイフィは床をクンクンと嗅ぎながら、部屋を探索していたが、その一角に埃の溜まり方が違う場所を見つけていた。
「他の人が持って行っちゃったって事?」
『だと思うです』
シリカが一人しか居なかった事を考えると、ここにあったモノも一点物の可能性が高い。
入り口が閉じられていたのは不思議だが、ここにはもう何も無いのだろう。
「そっか、残念だね」
『残念、です』
帰りは転送石で家へと戻った。
家に戻った俺は一旦ログアウトして、革細工に使う薬品とマクシミリアン家の所領の場所を確認する。
薬品のレシピは、薬師ではなく革細工ギルドにあるらしい。錬金術のレシピなのに、他のギルドにあるとは盲点だ。
この分だと、他のギルドにもレシピはあるかも知れない。
攻略サイトを確認していき、ギルドで売ってるレシピを探すと、魔術ギルドには製本技術、彫金ギルドには機械油などがあることが分かった。
ALFに戻ってそれらのレシピを買い漁り、一つずつ作っていった。
「ケイいるー?」
作業に没頭してるとセイラが訪ねてきた。手には山盛りのいちごが入ったカゴを持っている。
「セイラ、いらっしゃい」
「これ畑で採れたいちご、一緒に食べよ」
時刻は日付をまたぐぐらいだが、ゲームの中で食べる分には問題ない。
「ううっ」
「む〜すっぱっ」
セイラが畑で育てていた果物シリーズ第一弾のいちごは、酸味が強くてそのまま食べるのには向いてなかった。
「失敗、失敗。これはジャムにでもしようかな」
「中々難しいですね」
「まあ、成長スピードが現実とは違うから、色々試せるけどね」
セイラの畑は色々な果物を試験的に育てている。みかんにレモン、スイカやメロン。いちごにトマト、ぶどうなんかも作っているらしい。
「デザートのレパートリーを増やしたいしね。こっちだと失敗し放題だし、練習しやすいの」
以前から休日の朝食をごちそうになったりしていたが、セイラの作るものは美味しい。デザートで失敗とかも無いとは思うが、素材もただではない。実験するにはALFはもってこいなのだろう。
「ケイも料理覚えなさいよ? 一人暮らしだと手を抜きがちになるんだから」
「う、うん……」
「手料理してくれる彼女でもいれば別だけど……」
ぼそぼそっと付け加えたセリフが、微妙に俺の耳に届く。
「はっ、今のナシ! 違うからっ」
セイラはほとんど減らなかったいちごのカゴを持って出ていった。
残された俺は呆然と彼女を見送った。ソニアさんの言葉も蘇る。セイラは人との距離感が掴めてないらしい。といって俺だって人間関係が良好だったとはいい難い。
悶々としたものを抱えて眠ることになった。




