メイフィの成長
「暴力表現を野放しにしている事は政府の怠慢です。凶悪犯罪を助長している!」
若手……といって、四十歳くらいだが……の議員が、テレビで声高にしゃべっていた。
気にしてみると、意外とこの手の論争は多いみたいだ。
特に犯罪者の家から、暴力的なゲームやアニメが見つかると報道される。でも見つからなかった場合は何も言わない。
実際に犯罪者の中で暴力的なゲームに傾倒する者の割合が、一割未満だったとしても、その部分が報道されれば、暴力的なゲームをやる=犯罪予備軍というイメージが付くのだ。
その手のゲームは何万、何十万と売れていて、仮にその中から犯罪者が出たとして、それが一般的な比率より多いのか、少ないのかは論議されない。
ただ犯人の特徴として、その手のゲームを持っていたと報道される。
印象操作という洗脳はどこにでも潜んでいた。
ALFに入ると事件のゴタゴタで後回しになっていた、カナエちゃんへの子犬作成を行う事にした。
といって犬の素材は見つからなかったので、狼の毛皮、犬歯、爪をベースに、生肉と小動物の核。おまけで氷結石というのを混ぜてみた。
北極圏に近いエリアで生息するシベリアンハスキーのイメージだがどうだろうか。難易度的には問題ないはずなので、魔力調整を使って限界まで魔力を注ぐ。
メイフィの時を思わせる派手なエフェクトが集まり、合成されたのは白い犬? 狼?
「シベリアンなツートンにはならなかったかぁ」
子犬としては、なかなかに可愛いと思う。一応パーティに入れてステータスを確認。
「子フェンリル……だと?」
なかなか仰々しい子犬になっていた。確かフェンリルは北欧神話に出てくる狼で、神様も飲み込むような魔物だった気が……子供なら大丈夫か。
カナエちゃんは週末しかログインできないので、シゲムネに預けておくことにした。
「そういえば乗り物もいるんだっけ……」
アクイナス屋敷に行く時に、シゲムネのドレイクに同乗して酔ったのを思い出した。
『マスター、乗るです?』
足元にやってきたメイフィが小首を傾げて見上げてきた。ラブリー。
「さすがにメイフィには乗れないでしょ?」
『おっきくなるです』
そう言ったかと思うと、見る間に姿が大きくなり、俺の腰ほどの大きさの狐になっていた。
「お、おおお」
『乗る、です』
メイフィに促されるまま、その背に跨ってみる。掴みどころがないので、不安定な感じだが落ちそうにもならない。メイフィがバランスをとってくれているみたいだ。
「お、おおっおおおっ」
俺が背中に乗って、落ちないのを確認したメイフィが、庭を歩いてくれる。
シゲムネのドレイクに比べると、上下の揺れが少なく乗りやすい。
その動きに慣れてくると、メイフィはスピードを上げていく。上体を起こしていられなくなって、メイフィの首にしがみつくような格好になる。
「は、はやいっ」
自転車に比べて視線が低く、よりスピード感のある疾駆は、恐怖心を呼び起こす。
家を飛び出し、スラムの中を駆け回ってアピールしてくるが、腐った木箱やら寝転がる人やらの合間を駆け抜けられて、ドキドキさせられた。
スラムを一周して家まで戻ってくると、体が硬直したままメイフィから転げ落ちた。
『だ、ダメだった、です?』
「いや、スピードは申し分ないし、進路もちゃんと決めてくれるし、慣れたら大丈夫な気もする……でも、鞍は欲しいかな」
『マスター、運ぶ、です』
子狐モードに戻ったメイフィは、硬直した俺の腹の上に乗ると丸くなる。
「うん、新たな乗り物作るより、メイフィと一緒がいいな」
頭をなでてやると、指に額をこすりつけてきた。ラブリー。
大人サイズのメイフィを連れて、鞍を作ってもらう為にショップ街を訪れていた。
例の事件でハラスメント申請を行った相手には、顔を覚えられている可能性があるので、黒髪のストレートロングから、銀髪のボブカットに変えている。
「お嬢さん、かわうぃ〜ね〜。一人? どこ行くのぉ?」
最近はセイラやシゲムネと行動していて、一人になることが少なかったから忘れてた。
女の子キャラは基本的に放っては置かれないのだ。
「そ、その、この子に合う鞍がないかなって」
少し戸惑ったようにしつつも、しっかりと要件を伝える。やや上目遣いに見ることも大事だ。
これで大抵の男プレイヤーは、親身に協力してくれる。
「おっけー、任せてよ。いい店知ってっから」
ノリの軽いチャラ男だが、その能力は俺よりも上だろう。ただ街中で強引な事はできないし、ハラスメント判定がでるような行動を取れば、一発退場。現実世界よりも、ゲーム内の方が女の子に優しい。
実際にこの男もすぐ側までは来るが、触れない距離を保って案内してくれた。
セイラやソニアさんから色々と指導された賜物である。
「この店、革製品の店、サイズ調整もお手の物、俺がいれば割引おーけー、店長ほーけー」
妙なラップ調で紹介してくれた。
「ありがとうございます」
軽く会釈して店内に入ると、至るところに毛皮が吊るされていて、中々ハードな店だ。
コート類やジャケットが並んでいるが、ビョウが打たれたりしていて、ハードロックな雰囲気だ。
「何のようだ?」
グラサンにドレッドヘアーというブラザー系の店員が話しかけてきた。
「あ、あの、鞍が欲しいんですけど……」
メイフィの背中を撫でると、店員も分かってくれたのか、店の奥を顎で示した。
これ以上、中へと入るのは怖いんだが。
『マスターは、私が守る、です』
「ありがと」
メイフィの額をコリコリと掻いてやりながら、店の奥に進むと確かに鞍が並んでいた。
「う、うう〜ん」
何だろう、このコレジャナイ感。三角錐のトゲがたくさん飛び出た鞍や馬具、更には革製のムチなどが並んでいるが、明らかに趣味が悪い。どこのSMクラブだ……入ったことはないけど。
「このムチ最高、調教最強」
チャラ男はピシパシと自らの手のひらをムチで叩いて音を立てる。
「あ、あの、そういうのは要らないんです。単に座って落ちなければ……」
「ダイジョブ、ダイジョブ。ここに取っ手、ここに枷。鍵をかければ、落ちっこない」
鞍に手枷、足枷が付いていて、鞍に四つん這いになるように固定できるようだ……って、明らかに騎乗用の鞍じゃないだろ、それ。
「もういいです。私の趣味じゃないんで」
「え、ちょ、ちょっと、まってよ。調教ステータスアップの優れもんなんだぜ!」
「そういうのいらないんでっ」
俺はメイフィと店を出た。




