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暴力表現と入浴効果

「ALFができなくなるって?」

「定期的にこの手の話題は上がるんだけどさ、今回は法案になりそうなんだよ」

 暴力表現規制法案。

 グロテスクな表現や、暴力行為を正当化するような表現に対して、教育に悪いということで規制しようという動きは、昔から何度も起こっているらしい。

 現在でも管理会社があって、表現によってランク分けをして、年齢制限を設けている。暴力表現があるものは、小学生では買えない仕組みのはずだ。

「もうすぐ選挙があるじゃん? それに合わせて、保護者や高齢者なんかに受けが良い案が出されるんだよ」

「でもALFは15歳以上じゃないと、プレイできないじゃないか」

「大人がそんな細かいところを気にするかよ。子供の教育に悪いってなったら、適当に賛成されんだよ」


 ネットを検索すると、それらの話題が上がっている。ニュースサイトのコメントにも『今までが放置しすぎ』『凶悪事件の抑制になるだろ』『軍国主義に戻る』といったいかにもな意見も多い。

 反対意見が少ないのは、ニュースサイトなどを見る若者が少ないからか。

「もう一つ流れがあってな、ALFが海外のゲームだって事で反対する意見もある」

 制作会社はアメリカだが、日本サーバーは日本支社で運営されている。その収益は国内のサーバー運営や特色あるクエスト配信の作成などにあてられる。

 おかげで日本独自の仕様が打ち出され、オタク文化や食文化に特化した色が出ていた。

「それが何で規制側に狙われるんだ?」

「観光資源にダメージを与えるんだと。クールジャパンの文化に触れるのに、現地に行く必要はなくなってゲーム内で済ませられるって」

「そんな滅茶苦茶な」

 別にALFで観光地が再現されているわけじゃない。

 確かに日本サーバーは、アキバを模した店舗もあって外国人プレイヤーが観光がてら来ることはある。

 だが全人類に占めるゲーム人口などたかが知れている。特異な趣味の一部が日本に来なくなったとしても、日本の経済に与える影響など微々たるものだろう。

「なんでそんな発想になるんだ?」

「弱いところ、反対できないところ、票にならないところを叩きたいんだろ」

「そんな弱いものイジメな感覚で……」

「これで『学校からイジメをなくそう』とか本気で言ってるからすごいよな」

 紹司は呆れた表情でため息をついた。



 改めて調べてみると、偏見やら思い込みで話を膨らませて、悪いのは若者文化という方向に持っていこうとする勢力があるのがわかる。

 それに大手マスコミすら便乗して意見を載せてたりするからタチが悪い。

 報道の自由度が低いとか、偏向報道があるとか言われてはいるが、実際はテレビなどの影響は大きい。

 大多数の意見を操作してるのはマスコミなのだ。

「こんなのどうしたらいいんだ?」

 多少間違っていても、多数の人が信じてしまえば真実になる。ゲーマーなどの少数意見は、多くの人に伝わらないままに消えてしまう。



「難しい顔してるわね、入浴剤のレシピ?」

「あ、セイ……石井さん」

「こんにちは、鍋島くん」

 あの騒動以来、リアルでも顔を合わせるようにはなっていた。とはいえ、まだ慣れそうにはないけど。

 清純そうな白のワンピース姿と、派手なセイラのイメージは乖離している。狙ってやっているから余計にそう感じるのだろう。

「いや、紹司の奴がな……」

 暴力表現規制法案の概要を説明すると、途中で石井さんも知っていたのか頷いた。

「その話ね。色々と言われてるけど、どうなんだろうね。政府って、意外とこの手のコンテンツを大事にしてるから、無茶な規制はしないと思うんだけど」

「そうなの?」

「保護者の受けがいいから何度も話題には出るけど、実際に規制にはなってないし」

 紹司もそれは言っていたな。

「どのみち人口比率で言ったら、保護者世代にはかなわないしどうしようもないよ」

 石井さんは諦めの表情を浮かべていた。



 入浴剤に関しては、香水を適度に薄めるのはすぐにできた。あとは保温効果を高めたり、肌をつるつるにしたりするような成分とかか。

 でもゲームキャラの肌は基本つるつるだし、暑さ寒さも骨身に染みる事もない。氷雪地帯とかにいかないと、懐炉も必要ないくらいだ。

「となると、マクシミリアン家のリラックス感は単に豪華な設備にあるのか?」

 隣でメイドさんが控えて、冷えたソーダ水などを渡してくれるブルジョワ感。でもそれだけなら、『動く人形』のウィステリアもやってくれる。

 入浴後にすっきりとしたいなら、ハーブとかか?

 疲労回復を狙うなら、いっそのことポーションとか入れてみようか。

 事件のために用意した耐性ポーションをとりあえず混ぜてみる。やや緑がかった色になり、少し入浴剤っぽくなっていた。

「効果は薄れてそうだけどね」

 色々考えるのも面倒になって、そのままじゃぼんと浸かってしまう。

「くっ、耐性ポーションは薬草の塊だから薬臭いな……」

 ただその分、体に良さそうな気もする。しばらくすると臭いにも慣れてきて、ゆったりとくつろげた。

 ピコン。

 システムメッセージが表示された。入浴効果、耐性アップが発動しました?

 耐性ポーションを使用したように、耐性アップのアイコンがついていて、その時間も約一時間で変わっていない。

「薬効のあるお風呂に入ると、その薬効が付くのか……これ、人数が増えたらどうなるんだ?」

 その声に導かれた訳じゃないだろうが、セイラが風呂場に入ってきた。

「ケイずる〜い、一人でのんびりしてっ」

 このところ、セイラの雰囲気は変わった。妙にくだけた調子で、少し甘える部分が出ている。ソニアさんに憧れて、飾っていた部分が薄れたみたいだ。

 それだけ俺に気を許してくれているということかな。


 ザッパーン。

 勢い良く飛び込んだセイラは、露出の多い赤のビキニ姿で浮き上がってきた。

「うわっ、何コレ。変な臭い」

「ちょっとポーションを入浴剤替わりに入れてみたんだけど……」

「ちょっと慣れない臭いだけど」

「薬っぽいよね。この辺は色々工夫がいるんだけど、思わぬ効用もあるみたいだから」

「効用?」

「一定時間浸かってると、ポーションの効果が発動するみたい」

 もしかすると運営の中にも、温泉好きがいて企画を通したのかも知れない。単純なリラックス効果より、ステータスアップがあれば、利用者は増えるだろう。

「あ、何かついた。耐性アップね」

「セイラにもついたってことは、ポーションとして使うより人数が増やせるみたいだな」

 IDに行く前に入浴していけば、効率アップが見込めるかもしれない。

「臭いもすぐに気にならなくなったね」

 そういいながらセイラの手が伸びてくる。

「ケイの肌もスベスベだしっ」

「ちょっ、セイラ、くすぐったいって!」

 しばらく二人でじゃれあってしまった。

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