エミットと仕事と
エミットに先導されて連れて行かれた場所は、氷雪地域の森林だった。針葉樹林が立ち並び、雪深い山道を登っている。
「あとどれくらい歩くんだ?」
ゲーム内では歩くだけで疲労することはないが、二時間も移動を続けていると精神的に疲れてくる。
襲ってくるモンスターはエミットがほぼ一撃で倒してしまうので、危険は無かった。
ちなみにルカは一時間ほど前に『着いたら連絡して』といって教会に戻っている。
「飛べればすぐだ。私は普段歩かないから、距離感が分からない」
「そうか……ちなみに寒くない?」
「我らは寒さなど感じない」
むき出しの上腕を触ってみると、かなり冷たくなっている。青ざめた肌は、見るからに寒そうだ。
「コレを着て」
ヒョウ柄のロングコートを取り出した。黒のレザーレオタードにミニスカート、毛皮のコートとアンバランスだが手持ちがこれしかない。
「寒くないといってるのだが?」
「見てるこっちが寒く感じるんだぉ」
エミットは基本的に僕の言うことには逆らえない。それが契約に含まれているらしい。ただ契約が満了したらどうなるかは聞いてなかった。
悪魔との契約は魂を掛けるものというイメージなのだが、ゲームキャラの魂とは一体何を指すのだろうか。
もしこのキャラからプレイヤーという魂が抜かれるとしたら、ALF内での仕事に影響が出てしまうのだが。
聞いておきたいが何か怖くて聞けていない。
「この奥だ」
あれから更に30分ほど歩いて到着したのは、山道の脇に開いた洞窟の入り口だった。
やや下るような坂を降りて行くと、少し開けた空間になっていて、その奥にはIDの入り口が設定されていた。
「ここってシャウエスク地方だよな。IDはミネルヴェ雪洞だったはずだけど……」
調べてみると、『シリカの休息地』と表示された。どうやら新たなIDが開放されたようだ。
ひとまずルカに報告しようとしたら、オフラインになっていた。時刻は午前三時、平日にインしてる時間じゃないな。
マーカスは仕事に応じた報酬制なので、基本的には勤務時間に拘束されない。エミットに着せたおかげで、現在製作中の女幹部の衣装の修正ポイントは掴めている。
「もう少しやれるか……」
とはいえ未知のIDなのでランダムでも人は来ないだろうし、今からPTを集めるのは難しい。
「先に仕事を済ませるか」
エミットの衣装を複製して呼び出し、目に見える違和感のある箇所を修正していく。
いつもは平面図と立体モデルでの作業だが、ゲーム内で実物を見ながら直せるので、直感的に修正しやすかった。
「シリカたんが戻ってくれたら、仕事も楽になりそうだぉ」
毛皮のコートは所持品に戻して、幹部衣装だけの状態で色々な角度から観察。またはポーズを取らせて、着心地なども確認していく。
「映像記録を撮ってもいいかぉ?」
「私は簡易な命令には逆らえない。好きにするがいいだろう」
さっきから色んなポーズを取らされて、気疲れの見えるエミットは投げやりに返してきた。
「うう〜ん、NPCにレイヤーの心は分からないか」
撮られる喜びや見られる恥ずかしさ、キャラになりきる高揚感。そんな様々な感情を悪魔に求めるのは酷だな。
「こんな感じになったぉ」
一通り記録水晶に撮影した姿を、エミットにも見せてみる。
「こ、これが、私か」
顔を青くしながら、ポーズを決める自らの姿に見入っている。女幹部は悪役で、釣り目がちな気の強い系ロリなので、丸顔のシリカたんよりもエミットの方が再現率は高い。
「この映像、店の宣伝に使ってもいいかな?」
「ひぅっ、こ、これを誰かに見せるのか!?」
「僕の店のポスターに使えるなら、飾りたいんだけど……嫌ならやめとくぉ」
「わ、私に確認を取らずとも、勝手にすればよかろう」
「それをやって怒られたから、ちゃんと確認しときたいんだぉ」
「私はお前ら人間とは違う。気持ちなど考えなくてもよかろう」
相手はNPC、気を使う必要はないんだろうが、目の前にいる女の子はとてもプログラムとは思えない。
シリカたんは制約の冠で制御されてたから、顔を青くしたりはなかったが、エミットは感情が顔に出るようなので確認したくなったのだ。
「私は別に構わぬのだが、この映像、ここはもうちょっと足の角度をこうして、躍動的な方がよくないだろうか?」
「ふむ?」
「撮影アングルとしては、もう少し右のやや下から、そう、ソコから撮ってみたらどうか……」
言われるままに撮影しなおして、二人で水晶を覗き込む。確かに跳びはねる直前のような、足の動きと筋肉の引き締まり、見えそうで見えないアングルと中々に見栄えがする。
「いいね、使えそうだぉ」
「ならこのポーズはだな……」
エミットの指示の元、何枚かの画像を撮影した。
エミットの予想外の協力により、2日分の仕事がスムーズに終わった。
「後は肌の色を整えて……」
映像水晶の画像を調整していく。その作業を覗いていたエミットがぽつりと呟いた。
「やはり肌の色は気になるのか?」
「元ネタがあるし、買うのはプレイヤーだからね。それに合わせて調整しておかないと、参考にならないんだぉ」
「そ、そうか」
一通りの作業を済ませて会社宛のメッセージを飛ばす。撮影画像とサンプルのデータもこれで送れるので、後は販売ページに掲載すればOKだ。
「それじゃ、一旦寝るぉ。エミットたん、おやすみ」
「え、あっ……」
ログアウトを行うと、何か言いたげなエミットの顔があったが、僕はそのまま寝入ってしまった。




