煉獄祭壇の探索
『煉獄祭壇』は死者の行列と、それを地獄へと連れ去ろうとする悪魔とで構成されていた。
プレイヤー達は悪魔を撃退していき、一定の悪魔を撃破するとボス格の悪魔が出てくる。人が全て連れ去られるとダンジョン攻略失敗となる拠点防衛型のダンジョンだった。
「さてこのIDで何をすれば道が開けるかだなぁ」
闇魔法は精神に悪魔を呼び込み撹乱したり、重力操作、視界を奪う闇、他は相手のHPを奪えるが威力は低いドレイン系くらいか。
「ケイちゃんは連れてるホムンクルスが道を見つけたんだよね」
「となると悪魔憑きが一番近そうだが……」
悪魔に精神錯乱は効かないので、自身をドーピングする方か。
時間限定で肉体強化や知識の獲得を行えるが、反動で全身が筋肉痛になったり、頭痛に襲われたりと苦痛がフィードバックされるので、使う人が少ないスキルだ。
死者の群れの最後尾に付き、襲い来る悪魔を倒していく。ルカは自らに『悪魔憑き』を使用して、知力を高めた状態で魔法を使用していた。
「あぉあぁお」
闇の底に溜まりし枷に囚われよ。重力操作の魔法を短縮詠唱で発動させるルカ、動きが鈍ったところへマドカが放った光魔法のレーザーが突き刺さっていく。
僕も槍を使ってダメージを与えて撃破。トーマスは人間に近づく悪魔のターゲットを自分へと引きつけて護る。
これは通常のID攻略と変わらない。
最初の雑魚系を撃退すると、ちょっと強い悪魔が数体現れる。これはトーマスがターゲットを押さえて、マドカがヒールに回り、僕とルカとで確実に数を減らしていく。
「いたた、痛いわ」
ルカが頭を押さえて戦線離脱、悪魔憑きの反動が来たのだろう。
僕は必死で数を減らすべく立ち回る。背後に回って命中修正を上げたところで、隙の多い大技を叩き込む。
数が減ったところで、マドカも攻撃に参加。ほどなくして中堅も全滅した。
最後に出てくるのは、3mほどの巨体を持つ悪魔で、皮膚も硬いボス敵。雑魚悪魔も出てくるので、それらを先にルカと撃破していき、最後にボスを集中してタコ殴り。
IDのレベル上限に達しているPTなので、そこまでの苦戦は無く終了した。
「何も変化なかったな」
「普通に戦っただけだし……ルカの悪魔憑きは?」
「頭が頭痛で痛かったわ」
こめかみの辺りを押さえながら答えてきた。その様子からは新たな発見は無さそうだった。
このフィールドに隠しマップとかあるのか?
なだらかな細い道を山頂に向かって、人が歩いていく。最後尾を護りながら登っていくので、最終的には山頂に着くのかと思うが、大抵はその前に終わる。
「山頂まで登ってみるか?」
トーマスは嫌な顔をしたが、ゲーム内で山登りしたところで疲れる訳ではない。
「マドカちゃんとハイキングと思えばいいだろ?」
トーマスに耳打ちすると、俄然元気になった。男なんてそんなもんである。
僕はルカと一緒に、山を登り始めた。
山頂にはある種、異様な光景が広がっていた。
直径10mの広場に、天上より光が降り注ぎ、そこに入った死者は青白い炎に包まれて焼かれていく。
予め煉獄について調べていたので、それが現世の罪を清める儀式だと類推する事はできるが、その苦しみ焼かれる姿は馴染まない。
「閻魔様の方が優しそうだなぁ」
山頂の広場を四人で調べてみたが、特に秘密の部屋などは無くそのうちにタイムアップとなってしまった。
二度目の攻略ではあえて人を攫わせていったが、30人攫われたところで攻略失敗となり、特に変化は無かった。
「やはり暗黒魔法は必要ね」
「闇魔法な」
「むむむ……」
マドカちゃんも考えてはくれているが、中々案はでない。
「悪魔召喚なんだよなぁ」
「アクイナス屋敷の時みたいに、制約の冠を適当な悪魔に被せるとかは?」
「ケイちゃんに聞いたら、イベント以外では作れてないって」
あの屋敷にあった一連のアイテムと、イベント補正があってようやく完成できる難易度らしい。
以前使った分は、シリカたんが持っていってしまった。
「手詰まりね、今日は解散しましょう」
「そうだね」
アイデアが浮かばない時は、一旦別の事をしていると、ふと閃くことがあるものだ。
「とりあえず」
ピコンとルカからフレンド申請が来ていた。
「おおお、女の子から初申請だぉ」
「アンタ、かなりのプレイ歴なのに初めてなの?」
「ごめん、嘘付きました」
さすがにレイヤーの何人かは、服を依頼する時にフレンド申請されたことがある。
「何か思いついたら連絡するわ」
「わかったぉ。今日はありがとね」
「別にアンタの為だけじゃないからね」
「ツンデレセリフキター」
しかしルカは深いため息をついただけで、転送されていった。トーマスはマドカちゃんとにこやかに手を振り合っている。どうしてこうなった?




