悪魔崇拝者の少女
「ロリキター!」
案内された部屋で待っていたのは、小学生くらいの女の子だった。悪魔崇拝者クランのローブを纏っているが、フードは被っておらず、明るい茶色の短めの髪をツインテールというか、頭の横で2つにくくっている。
丸顔で大きめの茶色の瞳、色は薄めのぷっくりとした唇。幼さが前面にでた感じだった。
「な、何、なんなの?」
「悪魔召喚に興味があるんだって。君の領分だろ、任せた」
僕達を案内してきたローブ男は、それだけ言って出ていった。
少女の方は怪訝そうな顔でこちらを睨んでいる。
「じゃあ、マーカス。後は任せた」
トーマスも俺に一任して、部屋を出ていった。奴の守備範囲には入ってなかったか。
残された僕と少女はしばし見つめ合っていたが、話を進めるしかないだろう。
「僕はマーカス、悪魔を召喚する方法を探してるんだけど、何か知ってるかな?」
「……」
彼女の方は、こちらを観察する姿勢で無言を守っている。ここはゲームの中、ALFは15歳以上じゃないとプレイできないから見た目通りの年齢ではないはずだ。ヘッドギアで脳波を測定するので、年齢をごまかす事もできない。
「とあるクエストを進めているんだけど、悪魔召喚が関係してそうなのだよ」
「クエスト?」
ようやく反応を示した。
「ああ。ユニーククエストみたいで手探りで進めるしかないんだぉ」
実際にはクエストリストには登録されていない。僕が個人的にシリカを追っているだけだ。ただ『制約の冠』が外れただけで支配から脱するなら、何らかのクエストがあると思う。
「詳しく話して」
僕は彼女に説明を始めた。
「なるほどね」
ホムンクルスの素体として悪魔の体が使われ、それは召喚によって呼び出されたものらしい事を伝えた。
「その日記というのは?」
「ここにある」
錬金術のスキルによって読める範囲が変わるみたいで、僕が見てもレシピなどはわからなかった。ただアクイナスという錬金術師が、死んだ娘を生き返らせる為に様々な試みを行った過程が記されているのは読めた。
「見せて」
少女に言われるままに渡すと、彼女はそれをパラパラとめくっていく。そのペースはかなり早く、普段から本を読み慣れている雰囲気を感じた。
「なるほど、これは本物ね」
何を確認したのか、日記を僕に返してきた。
「我が名はルカ、暗黒魔導師よ。汝の魂を導きましょう」
そんなスキルはない。
闇魔法は精神錯乱系の魔法と、重力操作、あとは純粋に暗闇にする魔法など目立った魔法はない。光魔法はレーザーなどの攻撃魔法があるのに闇魔法は地味で、名前に惹かれて習得するも後悔するスキルの一つだ。
アメリカ産の悪魔召喚スキルは、闇魔法スキルに含まれていて、自らに悪魔を宿してドーピングを行うことができる。
「でも我々の求める悪魔召喚はそれでは無いわよね」
「ああ、そうだぉ。悪魔の体を使えないと、ホムンクルスにはできなかったはずだからな」
「アクイナス屋敷に隠し部屋があったとはね。半年以上情報がでなかったのは……」
「ダンジョン向きじゃない錬金術師をメインスキルにしてダンジョンを攻略したから?」
後で聞いた事だが、ケイちゃんはメインスキルのボーナスを考えてなかった。錬金術師も知力ボーナスはあるが、魔力上昇がつく魔導師系スキルに比べるとかなり威力が落ちるのだ。
「メイフィに火力で負けてたのはそのせいねorz」
自分よりレベルの低いペットの妖狐に、ダメージが負けているのを気にしていたらしい。
ただそんな素人ぶりが、新たな発見の引き金になったのだ。
「次の『煉獄祭壇』にも同じようなギミックがあるかもね」
「煉獄祭壇に……」
だとしたら必要なスキルは……。
礼拝堂に戻るとトーマスが何人かのローブと談笑していた。何かのアニメネタだろうか。トーマスが生き生きとしていた。
「お、話は終わったのか?」
「ああ、ヒントは掴めたし、今後の予定も決まった」
「じゃあ行くか、煉獄祭壇」
トーマスは何気なくその場所を答えた。まあ日記に書いてあったから、次はそこだと思ったのだろう。
「あと一人、誰か探さないと」
「ん? あのロリっ子も来るの?」
「彼女は必要なピースらしいからな」
煉獄祭壇は悪魔の巣窟。必要なスキルは闇魔法だろう。本人は更なる深淵の暗黒魔法と言い張ってるが、そんなスキルは聞いたことはない。
「あとはヒーラーかアタッカーか」
トーマスはタンクで、僕はメインが槍で、多少はヒールも使える。ルカは闇魔導師なので、遠距離アタッカーだ。
「ヒーラーで良ければ、私が行くよ」
「お、いいの? マドカちゃん」
「トーマスの傷に塩を擦り込む係」
「そうそう、悪魔にやられた傷口を塩で清めてくれ」
「……え、マジで?」
どうやらトーマスと意気投合した子が、ヒーラーとして参加してくれるらしい。何だかんだでトーマスは、女の子と仲良くなるのうまいな、ケイちゃんも店まで連れてきたし。
「それじゃあサクッと終わらせて、シリカたんを探しに行くぉ」
僕達は『煉獄祭壇』へとID申請を行った。




