事件の結末
ゲーム世界の風呂は、放っておいても雑菌が繁殖したり、嫌な臭いが出ることもないようだ。
排水口なども用意をしてあるが、入れ替える必要はなさそうだ。
一応、メイフィの『浄化の炎』で気持ちの殺菌を行い、トライコア懐炉を設置する。
温度管理をウィステリアに任せて、一通りの準備は完了。
程なく騒がしい一団が近づいてくるのが分かった。スラムは基本的に人がおらず、閑静な住宅街……とは違うが、過ごしやすい環境だ。
そこにチェリーブロッサムの面々が押しかけてきた。平日はログインしないカナエちゃんは不在なのに、なぜかシゲムネもついてきていた。
「湯船の製作者として、幅広い意見を聞かなくては!」
嘘付け。
とはいえ、その存在を疎ましく思う女の子はいないみたいで、更衣室からはわいわいと声が響いてくる。
「一番乗り!」
更衣室から飛び出したソニアさんが、水に飛び込む。まだ温めている最中なのに……しかし、気にした風もなく、クロールで泳ごうとしていた。そこまでは広くないぞ。
続いてチェリーブロッサムの女の子達が続く。その数は8人と、中々の人数。俺は入浴を遠慮することにしていた。
それなのにシゲムネは、浴槽の真ん中を陣取り、ハーレム状態だ。
「記念撮影しますね〜」
クリスが撮影機を持ち込んでいたらしく、チェリーブロッサム+シゲムネの画像を保存した。
あれ、カナエちゃんに見せたら大惨事にならないか不安だ。
セイラも今日のところは見学組、庭のレイアウトを検討していた。
「ちょっとした池とかもいいかもね。赤いバラとの対比だと、ロシアンセージとか淡い青紫がいいらしいわ。足元には、エリゲロンという白い花びらに、中央が黄色い花とか」
「花に詳しくなってます?」
「え……ログインできなかったから、色々と調べて。果物を甘くする方法なんかも調べたから、糖度の高いのを作れるはず」
転んでもただでは起きないというか、先を見据えて行動できてる感じだ。
「何ふたりの空間作っちゃってるかなっ」
唐突に濡れた腕が、首に掛かる。セイラとの間に、水着姿のソニアさんが割り込んできていた。
「ちょっと、濡れますからっ」
「大丈夫、濡れエフェクトなんてすぐ消えるから」
「そんなにくっつかないでくださいっ」
「なぁに恥ずかしがってるの。自分もこんな立派なの付けてるけくせに」
ソニアさんが俺の胸を鷲掴みにしてくる。
「おお、思ったよりあるなぁ。やっぱり、大きい方がいいのかな?」
「そ、そんなことは……って、止めてください!」
「よいではないか、よいではないか」
クワンッ!
金属音が響いた。街中はプレイヤーへの攻撃が禁止されているので、ダメージは無いが特殊効果は発生することがある。
セイラが持ち出したのは、撃退のフライパンという気絶効果が発生するものだった。
べちゃっと庭に崩れ落ちたソニアは、数秒間動けない。その間にささっと距離を取る。
テンションが上がって羽目を外しがちなソニアさんを、チェリーブロッサムの面々に預け、俺とセイラは家へと戻った。
そこでセイラがいなかった間にあった記憶欠落に関する説明を行った。
「そんなことが……」
「セイラを襲おうとした男達は、ハラスメント報告をしたからキャラ削除から、アカウント剥奪まであると思う」
「ありがとう、ケイ。でも無理はしないでよ?」
「私は仮の体だからね。女の子プレイヤーを守れるなら、やれることはやりたいよ」
どれだけの犯人がいるかは分からないが、被害者がでる以上はやれる事をやっておきたい。
「ケイがやる必要はないんだよ?」
「うん、ただの自己満足。悪を裁くとか、普通じゃできないしね」
セイラは仕方ないなと言う感じの苦笑を浮かべた。
そんな俺の心意気は、翌日にに『バッドステータスの一部が効果時間を越えて継続する不具合を修正しました』という発表に肩透かしを食らう事になった。
ただこれによって、持続ポーションを利用した不正事件は起こせなくなり、新たな被害者が出ることはないだろう。
その結果は、俺達が引き出したと信じて満足する事にした。こんな事件を引きずるより、やりたいことは色々と待っている。
「行くわよ、ケイ」
「は、はい、メイフィ連れてくるんで!」
俺はセイラとALFを楽しむ日々を取り戻しただけで、充分だった。
ひとまず一部完といった形になります。
次からはマーカス外伝を少し書こうかと思います。




