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VRMMOでネカマプレイ日記  作者: 結城明日嘩
はじめようALF
41/87

再会

 昨日というか、今朝ログアウトしたのは、午前四時を大きく回った頃だった。流石にヤバイとすぐに寝たが、目覚ましもかけていなかったので、朝はかなりギリギリの時間になった。

 まあ大学はそこまで出席が響かなかったりするのだが、ソニアさんがセイラさんに話してくれたはずなので、講義に出れなくてすれ違う方が怖い。

 俺は既に始まっている講義の教室に入っていくと、紹司の隣に席を確保する。


「お前が遅刻するなんて、珍しいな」

「まあな、夜更かししすぎた」

「その顔は、何か成果があったのか?」

「成果といえるかわからないけど、3人ほどハラスメントで報告できた」

「なるほどな、やったじゃん」

「でも薬の出処は分からなくてさ。使ってる末端を処罰しても解決しないだろ?」

「それでも前進だよ。ハラスメントは、前後の映像が残ってそれを運営が精査するからさ。そういう行為が行われている事がわかれば、運営の動きも早くなるよ」

「だとしたらいいんだけどな」

 せめてバッドステータスが一時間続くバグが直れば、被害は無くなるだろう。

 その安心感からか、授業の大半は寝て過ごす事になったが。



 二限目、紹司は別の教室での受講で、席を立つ。俺はそれを寝ぼけながら見送って、再びうとうととし始めた。

 ふと何かの気配に目を開けると、俺の横に何かが置かれるところだった。手にとって見ると、白い封筒で宛名も差出人もない。

 振り返って見ると、白のブラウスに、青のスカートを履いた人物が去っていくところだった。

「あっ」

 セイラさんだと思い至った時には、その姿は見えなくなっていた。


 手元に残された封筒を見る。紹司がいなくなって、隣には人がいないので、誰かと間違えたということもないはず。

 少し緊張しながら中を見ると、一枚の便箋が入っているだけだった。

『今日、ここまで来て下さいますか』

 そのメッセージと共に簡易な地図と座標。スラムにあるセイラさんの家の場所だ。

「なぜ今更こんなことを……?」

 ぼんやりと考えるうちに、また寝入ってしまっていた。


 結局その日は大学の構内でセイラさんと会うことはなく、俺は家に帰ることになった。



 家に帰ると早速、ログインしてみる。するとちゃんとセイラさんもオンラインになっていた。

 庭に出てみると、メイフィや法師丸がじゃれあっていた。そのいつもの光景にほっこりできるのは、徐々に物事が片付いてきたからか。

 俺はセイラさんの家の前に立つと、ドアをノックする。

「は、はい。待ってくださいね」

 少し間があってから、ドアが開く。出てきたセイラさんは、いつもの派手な髪色ではなく、フェイスペイントもない。黒髪のストレートに、ノンフレームのメガネといった出で立ちで、シンプルな白のブラウスに青のスカートという大人しい姿だった。

「え、あれ、ケイちゃん?」

「裏口から他の誰が来るんです?」

「そ、そうよね。ケイちゃん、私がいない間に色々あったらしいけど、ちょっとだけ時間を頂戴。今日、会わなきゃいけない人がいて……」

 やはり変だ。大学の俺とケイとが、繋がって無いみたいだ。

「ソニアさんから話は聞いたんですよね?」

「そう、大変だったのは知ってる。ゆっくり話したいんだけど、先にしないといけないことがあってね……」

 何だかややこしい事になっている。ソニアさんには、昨日説明して分かってもらったはずなのに、どうしてこうなっているのか。


『メイフィ、誰かいないか探して』

『わかった、です』

 庭で遊んでいたメイフィは、迷うこと無く風呂場の方へ。バラの垣根の向こうに消えたかと思うと、盛大な火柱が上がった。

 その炎に押し出されるように現れたのは、シゲムネとソニアさん。

「え、何で?」

 セイラさんだけが、状況についていけずに、呆然としていた。


 俺は庭に正座させたシゲムネとソニアさんの前で腕を組む。

「シゲムネはともかく、なんでソニアさんまで家の敷地内にいるのかな?」

「それは、俺が許可出して……」

 そういえば、風呂工事の際に権限を広げていた。メニューを呼び出し、権限を家具移動ができ、入室管理もできるサブマスターから、ゲストに降格。

「好きなときに風呂に来れるように、多少は権限残してくれよ!」

「自分ちに作りなさい」

 ひとまずシゲムネはこれでよし。

 次はソニアさんに向き合った。

「……」

「あのね、その、セイラの保護者として、見届けてあげないと、ダメかなぁって……」

「素直に言わないなら、絶好ですよ?」

「ごめんなさい、どんな事になるかワクワクしてました」

 土下座して、頭を地面に付けるほど下げるソニアさんだった。



「結局、どういうことなの!?」

 一人取り残されていたセイラさんに向き合った。

「セイラさんから白い封筒を受け取ったのは、私だっていうだけの事ですよ」

「え、なんでケイちゃんが封筒の事を……え、ええ!?」

「封筒って……やっぱり、直接は話せなかったのね」

「ラブレターとか、男のロマンじゃないか!」

「ラブレターというか、ALFの住所が書かれた呼び出したげだよ」

「だから校舎裏で待ってます的なのだろ? 十分じゃないか」

「そう言われればそうか」

 シゲムネとそんな会話をしていると、ガシッと両肩を掴まれた。

「ケイちゃんが、あの男の人、なの?」

「だからそうですって」

「……私の苦悩っていったい」

 肩を落として何かを呟いた。


「というか、ケイちゃん。あの風呂場って何よ!?」

 落ち込んでいるセイラさんを慰めようとすると、ソニアさんに割り込まれた。

「お風呂に入る為の場所ですけど?」

「そういう事を聞いてるんじゃなーい。あの広々とした、眺めのいい風呂で、つる……じゃなかった、セイラといちゃこらしてたの!?」

「し、してませんよ。正直、それどころじゃなかったですし。完成時に、シゲムネやカナエちゃんと入ったっきりです」

「何!? カナエちゃんまで、その毒牙に……ケイちゃん、恐ろしい子」

 頭の上にガーンという文字が見えそうなくらい衝撃を受けていた。

「じゃあ一度、使わせてあげます。気に入ったら、シゲムネにでも依頼してください。お湯を沸かすのに時間がかかるんで、一時間ほどしたら来てください」

「おおお、ケイちゃん。あなた天使なの……」

「な、なぁ、カナエちゃんも呼んでいいか?」

「何でもいいよ、適当にしちゃって……」

 テンションを上げる2人を追い出して、ようやくセイラさんと2人きりになれた。



「セイラさん、今まで言えなくてごめんなさい」

「私こそ確認もせずに……その間、大変だったのよね?」

『マスター、お茶が入りました』

 動く人形のウィステリアから、念話が届いた。よくできたメイドさんに感謝しつつ、セイラさんを家に招く。


「ソニアからも話を聞いたのよね」

「多少は」

「私がALFを始めたのは、友達が欲しかったから。大学の為に街に一人暮らしをはじめたけど、周りに知り合いがいなくてね」

 そこでソニアさんに愚痴っていたら、ALFを教えられたそうだ。リアルでの知人が増える可能性にかけて、顔はほとんどいじらなかった。

 ただ仲良くない人にまでリアルが割れる事を懸念して、髪色とフェイスペイントでごまかしていた。

 現に俺も間近に見て、ようやくその可能性に気がつけた。シゲムネにも聞いてみたが、さっぱり分かってなかった。

「でも始めた動機はそんなだったけど、この世界で過ごすのが楽しくなってたのは本当。引っ込み思案で臆病な私が、ここではセイラでいられるの」

「まだ現実では話せてませんが、イメージはかなり違いますよね」

「セイラはロールプレイ……ケイちゃんも気づいてるだろうけど、高校時代のソニアのイメージだから。人付き合いがよくて、皆を引っ張るような格好いい女の子」

「そうみたいですね。まあ、ソニアさんと比べると、セイラさんの方がちゃんとしてますけど」

「そうなのかしら? まあ、ソニアは自分勝手な部分もあるしね」

 クスクスと笑う姿は、いつものセイラさんじゃない。これがプレイヤーとしてのセイラさんなのだろう。

「だからセイラは偽りの自分でもあるの……それでも、仲良くしてけれる?」

「偽ってたのは、私も同じです。というか、もっと酷いですよね……セイラさんも女の子だと思ってたから、世話を焼いてくれたわけですし」

「そうね、男の子だったら、ここまで仲良くはなれてなかった。ケイちゃん、女の子でいてくれてありがとう」

「へ?」

「だってこうして会えたのは、ケイちゃんのおかげでしょ? 一年以上続けて、色んなプレイヤーに会って、自分がどこまで脳天気に夢見てたか気づいてたもの」

 ネットゲーム上で、リアルでも知り合える友達を作るのは至難だ。仲良くなれた相手が、近くにいるというのは奇跡だろう。

 俺が男だったら、ここまで話すこと無く最初のIDだけで終わってたかもしれない。ケイの存在が、セイラさんの支えになれるなら、こんなに嬉しい事はない。

「ケイちゃん、これからもよろしく……ね?」

「こちらこそ、よろしくお願いします」

「仲良くなれた印に、そろそろ『さん』付けをやめて欲しいかな?」

「え、あ……その、せ、セイラ」

「うん、ケイ」

 そこには柔らかな優しい笑顔が浮かんでいた。

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― 新着の感想 ―
[一言] ( ̄□ ̄;)!!やっぱり、のぞきっ(笑) しかも二人で(笑)
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