初めての死亡
街で二人と別れて、そのまま南の出口から海岸を目指した。襲ってくる敵はいないという話だったし、風の精霊もついている。問題はないだろう。
しばらく進むと潮の香りが漂ってきた。本当に海なんだな。砂浜になっているところで、波打ち際まで進む。透明感のある海水が、打ち寄せていた。
ショートブーツを脱いで、タイツも脱ぐと、素足になって海水に入る。
「冷たっ、でも気持ちいいな」
ばしゃばしゃと水を蹴りながら、しばらく遊んでしまった。
改めて海岸を見渡すと、キラリと光る採取ポイントが見えた。近づいていってかがむと、貝殻が落ちている。サザエのような巻き貝の貝殻だ。他にもハマグリのような二枚貝、シジミのような小さいの。たまに採取ポイントから、小さな蟹が出てくる事もあった。
敵のドロップに比べると、採取ポイントはかなり集めやすかった。すぐに貝殻は十分な量になり、街へと帰る事にする。
このゲーム、ただ戦ってるだけてはお金が貯まらない。クエストをこなしたり、他のプレイヤーにアイテムを売ったりしないと、Gは貯まらないようになっていた。
残り所持金は、わずかに100G。錬金釜を借りるのに、どれくらい掛かるだろうか。ちゃんとクエストもこなさないと駄目っぽいな。
最終手段は貰った装備の売却だが、プレイヤー制作分には、名前が入るので他のプレイヤーには売りにくい。それに衣装自体は可愛くて気に入ってもいる。
「ちゃんと稼ごう」
貝殻を拾って街に戻ると次はスラムの錬金術師の元だ。手に入れた素材で合成を試みる。
「この釜、借りていいですか?」
「ああ、初回はただでよいぞ」
ほむ、そんなサービスもあるのか。ならばと俺は釜と向き合う。釜というかどちらかというと竈に近い。半球状に囲われた空間に、入り口がついている。実験槽のように外部からの影響を受けない工夫だろう。
ガラス瓶を一つ借りて、貝殻を入れて上から蟻酸を注ぐ。
ALFでは、システムメニューからの合成と、実際に作業して行う合成があり、後者の方が付加要素も付いて成功率があがったり、レシピにない合成ができたりする。
ガラス瓶に蓋をしてしばらく待つとポコポコと蟻酸が泡立ち、気体が生じているのが分かる。
「確かこれで二酸化炭素ができると思うんだけど」
小学生の頃にやった実験を思い出しながらの作業は意外と楽しい。
ピコンと合成完了通知が出て、未鑑定アイテムとして記載された。
「なるほど、検証も行わないと何ができたのかも不明なのか」
俺は瓶に封じられた気体を手に釜を離れた。
近くのテーブルに置くと、次の実験に入る。
「大気に住んでる精霊さん、私に力を貸して!」
一人でも赤面しそうな呪文を詠唱して、瓶の中に精霊を呼び出してみる。
つむじ風が起こり、精霊が具現化した。その色はエメラルドグリーンから、少しくすんだ色になっていた。
気体を逃がさないよう被せていたガラス板を押しのけて、精霊が出てきた。
その輪郭はぶれていて、不安定そうだ。やはり偏った精霊だからか?
命令をしない間は、プレイヤーの側に漂うように移動する。
「え? かっ」
精霊が顔の側に来たところで、息が苦しくなる。喉が乾くような感覚に、空気を求めてパクパクと口を動かすが息苦しさは増す一方で……。
暗転した空間で、『蘇生しますか?』という選択肢が浮かんでいた。
「死んだのか」
偏らせた空気で呼んだ精霊は、予想通りに変わった特性を得たようだ。ただその特性が劇的過ぎる。二酸化炭素を吸い過ぎると、死に至る事もあるが、そこまで即効性はないと思ったんだが……。
俺は蘇生を受け入れて街の初期位置で復活。そのままログアウトする。
貝殻と蟻酸による合成で生じる気体を調べてみると、どうやら蟻酸から一酸化炭素ができていたようだ。これは致死性が高い。更に可燃性もあるのか……攻撃的な精霊になりそうだな。
他にもALFの攻略サイトで調べてみると、詠唱せずにショートカットで魔法を使う方法があった。やっぱり、あの呪文は恥ずかしい。あと英語とか別言語で発動させる方法もあるらしいが、ネイティブな発音ができないと難しいらしい。
精霊を呼び出すのに、環境が左右することは特に記載はない。これは新たな発見になるか?
重力操作はサービス開始当初はかなり使えたみたいで、次々に修正が入って、今では同レベルのモンスターに成功率5割、少しでも上だと1割ほどまで掛かりにくくなっているらしい。ボスには無効が当たり前。更に相手へのペナルティーも軽減されて、完全に死にスキルとなっていた。
錬金術もほとんど記載が無く、ポーション作成は薬剤師に劣り、スキル上げも難しいとだけ書かれていた。
「隙間を狙うには丁度いい感じだな」
俺は今後の方向性を模索しながら初日を終えた。
化学実験については、嘘情報も混ざると思うので、フィクションで一つ……。