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VRMMOでネカマプレイ日記  作者: 結城明日嘩
はじめようALF
39/87

セイラの気持ちと撃退

 翌日も何とか遅刻せずに大学へ。普段は夜更かしとかしてなかったので、午前2時までゲームをやってただけでもかなり眠い。

 やはりあの子を見かける事は無かった。もし俺のせいで学校に、講義に出れていないなら、俺が居ない方がいいんだろうか。

「えらく眠そうだな」

「まあ、色々やってて寝るのが遅くなってるしね」

「俺だってちゃんと調査してるんだぜ?」

 紹司はネットゲーマーの裏サイトから、怪しいやりとりが無いかを探ってくれている。

「まぁまだ新しい情報はないけどな」

 もしかすると仲間を募って行為に及んでいる可能性がある。

 昨日、紹司が言ってたように、第三者が介入できないように3人でパーティを組むはず。そうなると、都合を合わせないといけないし、募集掲示板があってもおかしくはない。

 犯罪用クランがあって、そこで話されていたらお手上げだが、それでも外部からの接触窓口はありそうだ。

「あまり深追いしなくてもいいからな。運営には報告済みだし、対処法もあるわけだし」

「ああ、分かってる。ただゲーマーとして、ゲームを悪用する輩は許したくないんだよ」

 その気持ちは分かる。せっかくの楽しい空間が、犯罪的に乱されるのは……俺のことじゃないか。

「何暗くなってんだよ、お前のネカマは犯罪行為には触れてないだろ?」

「そのつもりだけど……」

 女の子から過度のスキンシップがあったり、セイラさんとの関係も不正(チート)があっての結果であると思う。

「あまり考えるな、お前はゲームをちゃんと楽しんでる」

 紹司の言葉に少し励まされながら、ちゃんと考えないといけないなと思った。


 家に帰って早速ログインする。やはりセイラさんは、オフラインのままだ。リアルでは大学で過ごせなくして、ゲームでも過ごせない状況を作ってしまっている。

 しかし、連絡のとりようもなくどうしたらいいのか。

 そんな時、ソニアさんからメッセージが飛んできた。

「ポーションありがとう。これ、今回の件以外でも重宝しそうね。報酬を払うわ。あとセイラがこのところログインしてないんだけど、何か聞いてる?」

 ついにその質問が出るようになってきたのか。

 何と返答していいか迷っていると、追加でメッセージが飛んできた。

「とりあえず、時間ができたらハウスに来て頂戴?」

 こちらが答えにくいのを察したのか、そんな内容だった。今から向かうと返事をして家を出た。



 チェリーブロッサムのハウスに着くと、そのままソニアさんの私室へと案内される。トレーニングルームかと思わせる器具に囲まれながら、ソニアさんと向かい合う。

「それじゃ、話を聞きましょうか」

 有無を言わせぬソニアさんの様子に、俺は正直に話す事にした。

 性別を偽ってキャラクターを作成し、男なのに女の子としてセイラさんに接してきたこと。それを打ち明けた時、ショックからセーフティが働き、ログアウト。それ以降、会っていないこと。

 そして、まだ確定はしていないが、同じ大学に通っていてお互いを認識したことまで話した。


「なるほどね、シゲムネくんと恋愛感情がないのはそういうことね。しかし、そんな事あるのねぇ」

 ソニアさんは感慨深げに呟いた。

「あの子にALFを勧めたのは、私なのよね」

 セイラさんとは高校時代の友人らしく、大学は別になった。元々引っ込み思案で、友達の少なかったセイラさんに、ゲームの中なら気楽な感じで、友達を作りやすいんじゃないかと思ったそうだ。

「最初はこわごわだったけど、こっちじゃ女の子は放っておかれないじゃない。強引に誘われるウチにゲームが好きになったみたいね。まあ、女の子と付き合ってたのは意外だったけど」

 セイラさんは、俺からすると姉御肌な面倒見の良い人だが、そのベースはソニアさんにありそうだ。仮想の自分を作るときに、憧れの友達を投影したのだろう。


「あの子はロマンチストというか、乙女チックなところがあるから、今のシチュエーションに悶てるんだと思うわよ。ケイちゃんに裏切られたとか思ってないから安心して」

「へ?」

「あの子にALFを勧めたけど、実際にゲームを始めてたのを知ったのは半年後でね。髪や化粧でごまかしてたけど、顔はあの子のままでさ。リアル割れするから辞めなさいって言ったんだけど……」

 その先はセイラさん自身から聞いた言葉だ。

「リアルで見つけてくれる人を探すんだって。何を夢見てるんだかって思ってたら、本当に現れるとはね」

 何かちょっとニュアンスが違う気もする。


「ケイちゃんの事もよく聞いてたのよ。危なっかしくて守ってあげたいんだけど、突飛な事して楽しませてくれるって」

 最初から親身に接してくれて、俺の方が世話にはなっている。何とか恩返しをしたいのに、色々とこんがらがって申し訳ない気持ちだ。

「考え方が男の子っぽいとは言ってたし、もしかしたら気づいていたのかもね」

「そう……ですか」

 シゲムネとの仲を何度も確かめたりとかも、その一環だったのだろうか。何にせよ、ちゃんと話して謝りたい。

「とりあえず、セイラの事は任せといて。ちゃんと叱っておくから」

「いえ、悪いのは私の方だから。ただ、ちゃんとお話したいです」

「うん、伝えておく」



 俺はソニアさんと別れて、少し気持ちは楽になっていた。セイラさんを傷つけたかどうかは、まだわからないみたいだ。

 何にせよ、会える算段がついたなら、もう一つの問題に専念できる。

 耐性ポーションをわざと失敗させて、反転させた能力を付ける。回復ポーションと併せる事で、狙えるはずだ。

 薬草などの低品質の物を、放置したりして、劣化させるのがいいらしい。水に浸けたりもいいだろう。

 幾つか素材を見繕って、家へと帰った。


『おかえりなさい、マスター』

 家に帰ると、メイフィが待っていた。どうやら留守の間に、また盗賊がやってきたのを撃破したようだ。このところは、セイラさんの家も守っていて、頼もしい。猫又の師法丸とも仲良くやってるみたいだ。

「何かあったのか?」

『レベルが20になって、新しい能力を選べるです』

 IDを連れ回したりしているうちに、かなりレベルが上がって、ついにスライムを追い越したらしい。

「新しい能力?」

『はい、幾つかから選べるです』

 炎魔法の広範囲化、火傷を与えて継続ダメージ化、炎の壁を立てて行動を制限するなど、中々に便利そうなのが並んでいる。

 ただ俺の目は一箇所で止まっていた。

「浄化の炎……」

 バッドステータスを解除できる治癒魔法だった。一連の事件への突破口ができた気がした。


 耐性リバースのポーション作成には、素材の劣化をまたないといけない。

 俺はメイフィに、バッドステータスを治せる『浄化の炎』を覚えて貰って、毒薬や麻痺薬を飲んでその効果を確認する。

「綺麗に治ってる!」

『当然です』

 得意げなメイフィの頭を撫でながら、計画を伝える。

「私がいいと言うまでは、我慢してね?」

『わかったです』

 俺はメイフィを連れて不自然ではない『ミリシアの森』でIDを回す事にした。キノコが胞子を飛ばす深い森だが、植物系のモンスターが多く、炎が弱点なのだ。

 またボスのいるフィールドが、草原になっていて見晴らしもいい……まあ、襲われる事を考えたら、暗澹たる思いだが。


 ランダムパーティで行き来を繰り返し、九回目の時に怪しいパーティと巡り合った。

 Taka、Fuji、Nasubiの3人は、元々の顔見知りらしく、俺へと話しかけてきた。

「よろしくお願いします」

「ああ、任せといてくれたら大丈夫だから」

 俺が遠距離火力だと分かると、それに合わせてパーティを調整。こちらが炎が得意なのもあるが、他のメンバーも炎系の装備を準備してあり、撃破ペースが早かった。


 ボスのラフレシアをベースにした、蔓を伸ばして攻撃してくる花も、呆気なくHPが削れていく。

 撃破確実となった時、ポーションを使用したエフェクトが、俺の周りに発生した。

「あっ」

 すぐに体が動かないのを感じた。麻痺効果のようだ。自分に付いたバッドステータスを確認すると、その時間は59分。IDが終わるまで、ほとんど動けず、声も出しにくい。

「ああ、麻痺か」

「動きなしか、魅了(チャーム)熱病(フィーバー)は中々当たらんね」

 他の男達もボスをあっさりと撃破し、俺の周りに集まってきた。

「はふ……へへ」

 言葉を発しようにも、ろれつがまわらない。それが男達には嬉しいのか、はしゃいでいる。

「何でもいいよ、ここまでの上物なんて初めてだし」

「ゲーム内整形だろうけど、楽しむのには関係ないしな」

「攻略ペースも早かったし、たっぷり楽しめるぞ」

 IDの残り時間は23分もある。

「変に構えず、君も楽しんだ方がいいよ。どうせ忘れるし」

 男の一人がそんな事をいいなが、俺のゴスロリのワンピースに手を掛けた。以前のように脱がせようとはせず、小さなナイフですっと切り裂かれた。

 露わになった胸元を容赦なく揉んでくる。

『マスター!』

『まだ、まだダメ』

 心配そうなメイフィから念話が飛んでくるが、まだ我慢だ。

 もう一人の男が、白のタイツを脱がしてくる。太ももが露わになると、そこに頬ずりしてきた。気持ち悪いが、あと一人。

 最後の一人は何やら機材を持ち出して、俺がよく見える位置にセットしている。

『まさか、撮影までしてるのか!』

 頭が真っ白になるほど、血が昇る。しかし、ここでセーフティを発動させてはいけない。努めて、冷静を取り戻す。しかし、揉まれて、撫でられて気持ち悪い。

「前の魅了(チャーム)は勿体無かったな」

「タンクはタイミングが難しいんだよ。タゲ暴れると厄介だし、タンクの子が死んじゃ意味ないしな。女の子なのにタンクとか、やるなよな」

 勝手な事を言い合っている。だがその女の子に心当たりはあった。

「倒すの確認してからだったから、魅了がかかるまでの間にIDから出られちゃったんだよ」

「あらら、それはお気の毒」

「まあ、ケバくて可愛さは微妙だったけどな。胸は大きかったんだよ」

 どんどんと、俺の中のイメージに近くなる。とするなら、セイラさんは被害に会う前に逃げられたのか。ほっと安心する。

「胸と足は抑えられてるし、俺は顔か」

 残る一人が近づいてきて、俺の顔を掴む。待て、辞めろ。しかし、阻止する間も無く、唇が触れ合う。


『メイフィ、お願い!』

 3つ目のハラスメントウィンドウが開いたのを確認して、メイフィに指示を出す。

 俺の体が青白い炎に包まれ、男達は飛び離れた。

「な、何だ!?」

「何したんだよ」

「しらねーよ!」

 言い合う男達は無視して、ウィンドウの2つを報告する。即座にそのキャラが視界から消え、残ったのはヒーラーで、ワンピースを切り裂いた男、Nasubiだった。

 俺が動けるのを確認したNasubiは、後退りして距離をとる。そんなNasubiに質問すた。

「あのポーション、どこで手に入れたの?」

「ポ、ポーション? 何の事だ?」

「あなたのハラスメントウィンドウもあるのよ。逃げられはしないわ。知ってると思うけど、ハラスメント報告はキャラじゃなくて、アカウントから停止させる。これまでのプレイは全て無駄になるわよ?」

「し、知らないよ、俺は。Fujiの奴が持ってきたんだ」

「そう、残念ね」

 Nasubiが後ろ手にアイテムを使おうとしていたが、それが効果を発揮する前に、ハラスメント報告は完了していた。


 こいつらは末端というか、ユーザーなのだろう。元凶にたどり着くのは難しいと実感した。

「セイラさんが無事だとわかっただけでも収穫かな」

 さすがにIDを回り続けて眠くなっていたので、IDから戻るなり眠ってしまった。

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