バッドステータスを付けるには
チェリーブロッサムのハウスを出た俺は、郊外にある薬師ギルドを訪れた。NPCであるアリアは、俺のことを覚えていてくれた。
「命の水はできた?」
「はい、おかげさまで」
ウィステリアを作っていたのが、遠い昔のように感じるな。
「今日は別件で来たのですが、仲間にバッドステータスを付けるポーションに心当たりはありますか?」
「攻撃じゃなくて、味方に使うポーションで?」
「はい、例えば熱病とかです」
んーと考える姿は、検索を行っているのだろうか。しばらくして、俺へと向き直る。
「どうしてそんなことを?」
「実はID中にポーションを使用された後で、敵に攻撃を受けたわけでも無いのに、視界が二重にブレて立っていられなくなったんです。体もよく動かせなくなって、ステータスの確認もできなかったんですが……」
「確かに熱病と思われる症状ね。敵の攻撃、例えば切り傷が化膿する破傷風などでも発症するんだけど……それは無かったというわけね」
「はい、私は後衛なのでダメージは受けていなかったんです。それなのに、パーティのヒーラーがポーションを使用した後に、症状が出ました」
「そう、それでPKにでもあったのかしら?」
「いえ、ある意味もっと酷いです。動けなくなった私に対して、男達は体を触ってきました」
男である俺でさえ、何度も同じ説明をするのは苦痛だった。痴漢被害などで、状況説明をしなければならない被害者のストレスは、かなりのものになるだろう。
俺の話を聞いたアリアは、一度瞳を閉じて考えた後、答えてくれた。
「バッドステータスを付けるポーションはあるわ。ただその作り方は普通じゃないから、教えられない。貴女に教えて被害が広がるとは思えないけど、悪用できると分かった以上ね」
その理屈は分かる。今後、何らかの対策も取ってくれると信じよう。
「その代わり、バッドステータスに対して耐性を上げるポーションの作り方を教えるわ」
「それがあれば、ポーションを使われても、症状が出ない?」
「皆無にはならないかもしれないけど、被害を受ける可能性はかなり低くできるわ」
薬の品質にもよるのだろうが、プレイヤーの耐性があがればかなり防げるのだろう。
「ではそのレシピを頂きます」
ポーション用のレシピ本を購入し、オークションに寄って素材を購入。難易度的には問題なかったので、それなりの数を用意した。
耐性ポーションをソニアさんには効能の説明を添えて、メッセージで1ダースほど送った。
そして自身に使いながら、初心者用のIDを回る。サブキャラを使用しているらしいので、先に進むより初心者用を回るほうがいいだろう。また、記憶の欠損をトラブルと捉えにくく、報告されにくいところまで考えているとすれば、かなり悪質だ。
その日の六回目のIDで、ついにポーションを使われる事があった。パーティの名前は、forest、river、mount。やはり以前とは違う名前だ。ただ、そいつらは何もしてこないまま、ダンジョンは終了した。
「あれ、違ったのかな?」
ボス戦中のポーション使用、単なる誤爆だったのか?
「あ、そうか!」
パーティの状態異常は、パーティ名が並ぶリストに表示される。ヒーラーが治癒を行うためだ。つまり、バッドステータスが付かなかったら襲ってこないのか……。
自分を囮に触ってきた相手をハラスメント報告していく予定が、そもそも襲われないという状況で頓挫。ハラスメント警告は、報告が行われないと10分ほどで問題なしとして消えてしまうので、ログにも残らないらしい。
初心者用のIDは、30分制限で詰まることがなければ、10分ほどでボスを倒せる。そこから20分の間に、ハラスメント行為も同意したものとして扱われるのだろう。
しかし、バッドステータスがそんなに長続きするのか?
戦闘中のバッドステータスは、長くても60秒ほどで消える。麻痺など致命的なのは、10秒ほどで消えるはずだ。その都度、新たにポーションを使うのなら、かなりの数が必要になる。
「一回で長い時間効果が出るとみるのが、妥当だろうな……」
その時、耐性ポーションの効果が切れた。
「そうか、このタイプのポーションだと効果が長い」
耐性ポーションは、1時間の効果時間だ。もし、その耐性アップに麻痺や混乱などのバッドステータスが付随したら?
「効果が長く続くのかもしれない!?」
俺はログアウトして、攻略サイトを見に行く。薬師の攻略部分を見に行くと、調合失敗した場合の付随効果というのがあった。
例えば、解毒ポーションにHPも回復する効果をつけようとして、調合判定に失敗すると毒は消せるがダメージを受けたり、HPは回復するが、毒状態になるポーションがてきるらしい。
「これを耐性ポーションに適用したらどうなるか?」
耐性アップとHPが回復する効果のどちらかが反対の効果になって、耐性部分が下がるとバッドステータスが付くのか?
「可能性はあるな。アリアは直接教えることはできない代わりに、ヒントをくれたのか」
調合に失敗するには、粗悪な素材を使ったり、環境の悪いところで簡易合成したりすると起こるみたいだ。
「あとは実験してみるだけか」
ただ今日はIDを回った事もあり、時間が遅くなってしまった。まだ週中だし、無理はできない。授業だけならまなだしも、セイラさんと思われるあの子とすれ違いになるのは避けたい。
耐性ポーションと二人組になることで被害は抑えれるはず。
俺は無理はせずに寝ることにした。




