IDハラスメントへの対抗
気づくとそこは、現実の自分の部屋。極度のストレスから、セーフティが働き強制的にログアウトしたようだ。
慌てて再ログインしようとしたが思い止まる。早く復帰しすぎると、あのIDの中で復帰する。それはあの妙な状態で、男達の元へ戻ることになる。
IDで通信が切断されると、30秒ほどでキャラも消えるはずた。ケイには悪いがその間は我慢してもらおう。
そこからIDが解散となる最長の30分を待って、再ログイン。家の中のIDを申請した場所に復帰したのを確認して、ほっと一息ついた。
「アイツら!」
改めて怒りが込み上げてくる。ボス戦の撃破直前に、何らかのアイテムを使い、自由を奪ってきていた。
その上で非道を働くつもりだったのだろう。さいわい俺はセーフティが働いてログアウトできたが、男達の口ぶりだとそのまま残ってしまう事もあるようだ。
それがIDでの記憶の欠落に繋がるとしたら……恐れていた危惧が、最悪の形で実現されたとも言える。
もしあの後の行為が、女の子の記憶に残らないのであれば、被害の自覚もないままになる。もしかすると、もっと前から記憶が失われるのかもしれない。
そうなると証拠が何も残らない。
「確かein.s、zwei.s、drei.sだったか……」
ID中の名前はファミリーネームがイニシャル表記だ。ただ名前を見たら、いかにもサブキャラっぽい。足がつかないようにしていそうだ。
「一応、運営には名前を伝えておくか……」
自分が不正している事も忘れて、報告してしまった。俺のアカウントのログから、パーティを組んでたアカウントが確定できればいいが……。
とりあえず、ソニアさん達にも伝えようと思ったが、もうログアウトした後のようだ。
ショートメッセージで、警戒を促しておく。
「あとは何をされたかだな」
一度ログアウトしているため、システムメッセージのログは消えてしまっている。
あの時に感じたのはポーションを使われた事だ。ID内ではプレイヤー同士で敵対行動はできないので、毒や麻痺といったポーションは使えないはず。
あの時、視界がブレて平衡感覚が失われた。セイラさんには、魅了と混乱が残っていた。
明らかにバッドステータスが付与されている。
「どうやったんだ?」
結局一人では答えが出ずに、翌日シゲムネに尋ねてみた。
「ID中にバッドステータスを付けられた?」
「ああ、視界がダブって見えて、立っていられなくなったんだ」
「症状としては、バッドフィーバーっぽいな。発熱状態」
敵の攻撃によって、たまに発生する事があるらしい。
「しかし、それを味方からというのは分からんなぁ。ID中のパーティだろ?」
「ああ」
「その目的は何だ? PKというにはメリットも無いし」
ちょっと話し難いが、正直に言った方がいいだろう。この優しい友達は怒ってしまうんだろうが、カナエちゃんにも関わってくる。
「実はな……」
「許せねぇな」
腹の底から、それだけを呟いて黙る。攻略サイトに載っていなかったのは、被害者が女性でその手のサイトの更新を行わないからだ。しかも、被害者には記憶の欠落だけで、深刻な被害を感じていない。
「とりあえず、他言は無用で頼む。ホノカちゃんとか、記憶が無いだけでも不安そうだった。その間に何かされてたと分かったら、ゲームを辞めるどころじゃ済まないかもしれない」
「ああ、分かってる。とりあえずの予防法は、知り合いと組んでIDに行くことだな。少なくとも第三者が紛れ込むのを防ぎたいだろうから、犯人は3人でパーティを組んでるはずだ」
「なるほど!」
犯人が2人だと、被害者の他にもう一人パーティメンバーが入ってしまう。それを防ぐ為に、3人で組んでいるなら、2人以上でIDに挑めばマッチングすることは無いのだ。
「しかし、2日回っただけで犯人に当たったのは深刻だな。思ったより、人数が多い可能性が高い」
チェリーブロッサムに話を聞いただけでも、一日で7件も集まったのだ。潜在的な被害者はもちろん、犯人が三人だけでは済まないのか。
「グループが大きくなれば、それだけ見つけやすいはずだから、何とか見つけるしかないな」
犯人探しはネットゲームの知識が多いシゲムネに任せ、俺は味方にバッドステータスをつける方法を探る。
ポーションを使われたのはエフェクトで確実。ただどのようなポーションだったのかまではわからない。
錬金術でもポーションは作成可能だが、専門職もある。ここは専門の人に聞くのが良いだろう。
ALFにログインした俺は、まずはソニアさんに会いに行く。チェリーブロッサムのハウスには、クリスとアイリもいた。
「こんばんは」
ソニアさんには昨日のうちにショートメールを送っておいたので、ある程度の話は通っている。
ただ、そのソニアさんの表情が怖い。
「ケイちゃん、昨日は運営に任せるって言ったよね」
俺の頭を掴んだソニアさんが力を込めてくる。ダメージが入ろうとすると、街中の戦闘不可バリアが張られるが、それにも構わずに力を入れている。
痛くはないが、絶えずエフェクトが光って心臓に悪い。
「運営の連絡は待つと言いましたが、自分でも調査しないとははわわわわ……」
アイアンクローが両手に増えて、視界がバリアの点滅で覆い尽くされる。
ソニアさんは近距離戦闘の格闘家だった。
「まさかセイラも無茶してるんじゃないでしょうね。このところログインしてないみたいだけど」
その言葉に胸が痛む。
「セイラさんは関係ないです」
被害者ではあるが、調査には関わっていない。
「でもセイラの為ではあるわけね……はぁ、それでどこまでわかったの?」
「犯人は3人でパーティを組んで、入ってきた女の子に何らかの方法でバッドステータスを付けるみたいです」
クリスも友達が記憶欠損を起こしていたと言っていたので、詳しい話はソニアさんに直接話しかけるモードで答えた。
「そうね、私の部屋に行きましょうか」
俺の意図を汲み取ってくれたソニアさんは、クランハウス内の私室へと招いてくれた。
ソニアさんの部屋は、木の棒にワラが巻かれた立てられ、ぶら下がる為のウンテイや、腹筋の際に足を掛けるための器具などが並んでいた。
「適当に座って」
ソニアさん自身も、床の上にペタリと座り込むと、ストレッチを始めた。
俺はスカートを抑えながらソニアさんの前に腰を下ろす。
「じゃあ、昨日ケイちゃんが遭遇した事から聞きましょうか」
IDを攻略直前に、変な薬を使われ、自由を失ったところを体をまさぐられた事を伝えた。
「ケイちゃん、大丈夫なの?」
「私はすぐにセーフティが掛かって、意識が遮断されたので大丈夫です」
「でもそんな連中がいるなんて……運営には連絡したのよね?」
頷いて答える。
「IDに居た時間と共に名前も運営に報告しました。ただ名前からして、サブっぽかったです。ein、zwei、dreiでしたから」
「ケイちゃんはまだ初級ダンジョンなのね。そうなると、低レベルのサブでも十分マッチングするわね」
「はい、そこにはまだゲームに不慣れな子を狙うという意図もあるかもしれません」
「ますます卑劣ね。あれからもフレンドに確認したけど、男で記憶の欠落があった報告はないわ」
やはりそういう事なのだろう。
「シゲムネからのアドバイスは、IDに行く時は2人以上なら大丈夫そうです」
その理由も併せて説明した。
「実際に何があるかは伏せて、それを徹底させるしか無いわね」
「記憶を失う場面の情報が欲しいから、ペアで行動するのを頼んでみたいです」
「そうね、調査の為と言えば、自然に組ませる事はできるかも」
これ以上の被害を出さない為に、やれることはやっておきたい。運営がサブキャラごと、アカウントを停止してくれたら良いのだけど、運営の対応速度はまちまちで、今回の件がどこまで重要視されるかにかかってくる。
防衛策は運営から明確な対応がでるまで、自分達で行っていくべきだろう。




