IDの連続攻略
翌日、大学に行くとどうしても例の女の子を探してしまう。大学では受講する講義によって、教室が違うので、実際にどれくらいの頻度で見かけていたかも不明だ。
俺としてはいつも通りに行動するしかない。
それと並行してIDを回るための情報を探していく。ソニアさんにお願いした情報で、どのIDで記憶の欠落が発生しやすか、傾向が出るかもしれない。その時に、そのダンジョンに行けないのは、調査の遅延に繋がる。
セイラさんがもし運営に報告して、キャラが削除されるならそれまでに何らかの結果が欲しい。
攻略サイトで4つ先のIDまで調べ、足を引っ張らないように最低限の攻略情報を頭に入れた。
結局、今日はあの子に会うことはなく、ALFにログインしてもセイラさんはオフラインのままだった。もし俺が彼女からALFを取り上げてしまっているなら、早く消えるべきなのかもしれない。
ただ記憶の欠落には、嫌な印象がまとわりついている。これだけは何とか成果を出したかった。
クエストを進めてIDを開放。次のIDはマーフォークという半魚人の出てくる海岸の洞窟。サンゴが生えていたり、苔で足が滑りやすかったり、それなりに特徴がでている。
このIDは、炎魔法の効きが悪いので、新たに覚えた風魔法と風の精霊とで攻略に臨む。
風の精霊は上位を呼べるようになっているのに、メイフィと比べると火力が落ちた。メイフィ、優秀過ぎ……あの子の身の振り方も考えておかないとな。動く人形のウィステリアは、マーカスが喜んで受け取ってくれそうだ。
風魔法が覚えたてで、精霊しか役に立ってなかったが、特に文句も言われずにIDは終了。ここはスキル構成的に、俺には向かないエリアだな。
海岸の洞窟から戻ると、ソニアさんから連絡があった。昨日の今日だが、それなりに話が集まったらしい。
ソニアさんが所属する『チェリーブロッサム』という女子クランのハウスへと招待された。
ソニアさんの他にホノカの姿もあった。
「こんばんは、ケイちゃん」
「こ、こんばんは、ソニアさん、ホノカちゃん」
その名の通り桜が要所にあしらわれたハウスは、いかにも女の子向けの空間で、少し落ち着かない。
「早速だけど、集まった話を伝えるわね」
本人に記憶が無かったのが2件、友達がそんな事を言ってたというのが5件という報告だ。
IDの傾向まではこの件数では分からないが、半分は今日調べていた範囲に入っていて、比較的初心者向けのIDが多いみたいだ。
単にソニアさんが聞いたプレイヤーが、簡単なIDしか行ってないのかもしれない。
「あの、この話ってこのクランの方ですか?」
「ほとんどはね。このミリシアの森は、私のフレンドの話だけど」
「その人も女性ですか?」
「そうね。そういえば、男友達のクランにも聞いてもらってるけど、反応はないわね。ちょっと確認してみるわ」
「すいません、お願いします」
ソニアさんが席を立ち、ホノカと二人になる。その表情は少し暗い。
「ホノカちゃん、大丈夫?」
「何か、怖いことになってるんですか?」
俺が本格的に調査に乗り出した事で、同じ現象を体験したホノカに不安を与えたようだ。
「ううーん、単なるバグだとは思うし、運営に詳細を送れば対応は早くなるかなって」
「……そうですか」
俺は嘘が下手なんだろう、ホノカの表情に変化はなかった。俺が危惧している事がもし可能ならば、女性プレイヤーにとっては由々しき事態だ。
ソニアさんの男友達からの情報で、男性からも体験談がでるならいいのだが……。
「何人かのフレンドに頼んでたんだけど、その人たちのところでは聞いたことないって」
確認を終えたソニアさんからの報告は、俺の危惧を裏付けるものだった。
女性限定で現象が発生しているとすると、脳波検知の問題かそれとも人為的な選別が行われているか。
「まだ推測なのですが……」
俺は自分が考えている事を話した。突拍子もない話に聞こえただろうが、ソニアさんと特に自身も被害者のホノカは顔色を変えた。
「そんなこと……ないわよね?」
「はい、単に女性の脳特有のバグって可能性は高いです。ただ、はっきりとした事が分かるまで、IDは控えた方がいいかもしれません」
ALFがサービス開始して、3年以上が経過している。今更、性別固有のバグが発生するかと言われれば疑問だ。
ただ俺の推測に比べれば、そちらの方が救いがある。
「ホノカちゃん、ごめんね。怖いこと言って」
「い、いえ、大丈夫です」
「それでケイちゃんは、どうするの?」
「運営からの返答を待ちます」
チェリーブロッサムのハウスを出ると俺は家へと戻り、セイラさんが居ないことを確認した後、ID攻略の続きを行う。
そこは遺跡をベースにしたIDで、罠や仕掛けで開く扉など、ダンジョン自体が難関になっていた。
出てくるモンスターは虫系で、遠距離攻撃主体で良かったと思えた。前衛の、特にタンクの人はすごいなと思う。
ボスとして出てきた大きなサソリなど、近づきたくはないリアルさだった。
続いて挑んだIDは、崩れた古城で盗賊系のモンスターが襲ってきた。メイフィと一緒に炎魔法で敵に攻撃しながら、先へと進んでいく。
ボスは盗賊の頭領で、雑魚も多数出るタイプ。トライコアを投げて、炎魔法で引火させると大きな爆発が起こり、雑魚を一気に吹き飛ばす。中々の爽快感だ。
そうやって雑魚を処理するうちに、ボスのHPもどんどんと削られていき、あと少しで撃破という時、パーティのヒーラーが俺に対してポーションを使った。
最初は操作ミスかと思ったが、ボスを撃破した頃に、視界が歪み始めた。
「な……に?」
「おおっと」
多重にブレる視界に、平衡感覚がおかしくなり、倒れそうになる。それをヒーラーが受け止めてくれた。
「おし、ドンピシャ」
「攻略早かったし、かなりの上物。たっぷり楽しめるな」
「お、この子、童顔の癖に結構でかいな」
ヒーラーの手が無造作に胸へと伸ばされ、怪しく蠢く。
『何をする!』
叫ぼうとしても声が出ない。さらには、与えられる刺激が強く響き、頭の奥が白く焼けるようだ。
『あ、やぁっ』
男達の無遠慮な手が、服を脱がし始めたところで意識が途絶えた。




