遭遇と告白
紹司はカナエちゃんとかなり仲良くなれた事を、俺に感謝してきた。自宅に風呂をセッティングする許可ももらい、早速設置したらしい。ウチのように風呂用の土地を買ったわけじゃないので、狭いのだがそれがいいと……下心見え見えで、呆れられないか心配だ。
あとカナエちゃんは、俺に対してペットの依頼を出してきた。出来れば犬科がいいらしいが、まだ妖狐しか作れてないので不明とだけ答えた。
狼系の毛皮ならそれっぽくはなりそうだが、どうなんだろうか。他に犬を表しそうな素材を見繕うべきかな。
このところ大学にいると、ふと視界に入る女の子に気を取られる事がある。黒髪のストレートでメガネを掛けた大人しそうな女の子だ。綺麗な顔立ちだとは思うが、俺の好みからは少し外れるような気がする。あまり胸もなさそうだしな。
ただどこかで会ったような、既視感に囚われるのだ。
「オカマになって、女に目覚めたのか?」
紹司にからかわれたりもしたが、ALFで色んな女の子に出会ったことで、自分の好みが変わったのだろうか。
講義室の移動中、曲がり角を曲がったところで、その女の子とはち合わせる事があった。間近で正面から目が合った時、思わず口から出たのは……。
「セイラさん?」
「!?」
一瞬、彼女の目が見開かれたと思ったが、そのまま俺の脇を抜けて歩き去った。
なぜ自分がそんな事を口走ったのか。彼女の顔を思い浮かべ、セイラさんの顔を思い浮かべた時に重なった。
セイラさんは普段、髪色を色々と変え、顔にペイントしたりして、素顔がわかりにくい。ただその分変わらない部分が、記憶に残っていたのだ。
その面影がさっきの彼女に似ていた。他人の空似か、本人なのか、その答えは呆気なく判明した。
ALFにログインすると、セイラさんも既にログインしていた。昨日、シゲムネが来たことで言えなかった事と、何より昼間に感じた事を確かめるために、セイラさんの家を訪れた。
そのセイラさんは、テーブルで頭を抱えて悩んでいるようだった。
「こ、こんばんは」
「ああ、ケイちゃん。いらっしゃい」
「どうかしたんですか?」
「私ね、ALFが初めてのオンラインゲームで、キャラメイクの時、あまり意識せずに作ったのよね」
ALFはキャラメイクの時に、デフォルトの中から選んでカスタマイズしたり、他のデータを持ってきたりもできるが、本人の顔をベースに調整して作る事もできる。
「私、結構素のままの顔なのよ。無知のなせる業よね。リアル割れの危険を知って作り直そうかとも思ったんだけど、既に結構成長させた後で躊躇って……」
そこでセイラさんは首を横に振った。
「違うわね。あまりリアルで友達を作れなかったから、もしゲーム上で知り合えたら切っ掛けになるかもと思ったんだわ」
いつもの明るさが鳴りを潜め、少し不安そうな表情は昼間のあの子にそっくりだ。
「でもいざ大学で声を掛けられると、何も言えずに逃げちゃって。あの人に話しかけられたら、どうしたらいいんだろう?」
「あの、セイラさん。昨日の朝に言えなかった事の続きを話していいですか?」
セイラさんは突然の話題の変更に、きょとんとした様子で俺を見返してきた。少しの沈黙を了承と受け取り、話を続けた。
「あの、その……私、いや、俺、実は男なんです」
「へ?」
戸惑いの表情を浮かべるセイラさんは、こちらに確認してくる。
「でもALFって、性別選べないよね?」
「不正ツールを使って、性別を変えてキャラを作ったんです」
そこで俺は頭を下げ、そのまま謝る。
「ごめんなさい。早く言おうと思ったんですが、なかなか切り出せずに、ズルズルと……」
返事も動く気配も無いので、恐る恐る頭を上げると、目を見開いままセイラさんは固まっていた。
それは比喩ではなく、セイラさんのグラフィックが、通信エラーで信号が送られなくなり、最後の表示のまま静止しているのだ。
脳波の異常を検知して、ヘッドギアのセーフティが働いたみたいだ。
それだけの衝撃を与えてしまった。
再ログインするかとしばらくその場で待ち続けたが、セイラさんが復帰することはなかった。
今まのでの事、縮まった距離。それだけに裏切りの反動が大きかったのだろう。
更にはあのセイラさんがおかしくなった日、かなりの事をしてしまった。すでにハラスメントの報告は残っていない。俺を訴える事もできない。
ただ運営に俺の不正を通報すれば、俺のキャラは消されるだろう。
「それまでにやるべき事は、セイラさんをあんな風にした原因の究明か」
あの日、ホノカやクリスの友達もあったというIDの記憶の欠如。しかし、攻略サイトではそんな話題は上がっておらず、そういう現象がないか掲示板に書き込んだが、同様の事例の報告はなかった。
極めて稀な現象が、たまたま知り合いに固まっていただけか?
ただセイラさんの時のような事は、ホノカには無さそうだった。もし近くの誰かを襲っていたら、自分から私も一緒だったと言い出しにくいだろう。
酔ったような状態が終わるまで、記憶がないのか、ホノカには他人を襲う症状が出なかったのか。もう少し深く話を聞く必要はあるだろう。
お菓子パーティの時に、フレンド登録はしてあったので、その中からログインしている人を見つけた。セイラさんの知り合いだったソニアさんだ。
「この前、セイラさん達がIDの記憶がなかった件で、クラン内で他な無かったか聞いてもらえますか?」
「それはいいけど、運営に報告したら済むんじゃないの?」
「バグならそれでいいんですが、何か別の要因はないかなと……」
セイラさんが掛かっていたバッドステータスは、あくまでゲーム内の効果だ。IDのサーバーから弾かれただけで付くとは思えない。
ただセイラさんと親しげだったソニアさんにも、あの時の状況を教えるのは躊躇われる。
「この手のバグで、攻略サイトの掲示板が賑わってないのが、ちょっと不自然な気がして」
「なるほど……分かったわ。知り合いにも聞いてみる」
礼を言って、ソニアさんとのメッセージを終える。
あとできることと言えば、自身がIDを回ることか。ここに来て冒険をおざなりにしていたツケがでてきた。
冒険者ギルドで次のIDのクエストを受け取り、現場で開放。メイフィを伴って、ランダムパーティ申請でIDに挑む。
そのダンジョンは、深い森のようで辺りのキノコから、怪しい胞子が吐き出されている。敵が植物系ということで、俺の炎魔法とメイフィの攻撃はよく効いた。
パーティの他のメンバーは皆男で、それなりに気を使ってプレイしてくれていた。まあ、攻略後にはクランに誘われてしまったが、そこは丁重に断る。
このダンジョンなら火力的に足を引っ張ることはなさそうなので、少し回してみるが特に異常はなく普通に終了した。
ただやはり男からの勧誘、ナンパの類は多くて気疲れはする。五回目くらいで気力が尽きて、その日は終了した。
セイラさんが落ちた後、復帰待ちをしたのを「寝落ちするまで」から「しばらく」に変更。
IDを回れなくなるので……。




