女子クランのお菓子パーティ
「おう、来たな」
シゲムネが五人の女子に囲まれる中で手を上げた。何そのハーレム。
「きゃー何あの子、お人形さん!?」
「ゴスロリ似合ってるし」
「可愛い!」
女子達は、俺を見るなり殺到してくる。頭を撫でられ、頬をつつかれ、肩を抱かれる。
「セイラ? 久し振り!」
「あ、ソニア。久し振り……シゲムネの知り合いだったの?」
セイラさんの知り合いもいるようだった。揉みくちゃにされながら、手を上げたまま固まっているシゲムネを見た。女の子奪ったのは悪かったから、助けてくれ。
「では改めて、俺の友達のケイだ。それとケイの隣人のセイラさん」
何とか騒動が収まり、シゲムネから紹介された。
「この子がカナエちゃん、うちを共同で使ってる子」
シゲムネが最初に紹介したのは、ミドルティーンの外見をした少女。明るい緑の髪に少し勝ち気そうな瞳、光沢のあるやや暗めの緑の服を着ている。見つめられているのか、睨まれているのか、俺を鑑定してるかのような雰囲気だ。
それからセイラさんと旧知らしいソニアさん、アイリちゃん、クリスちゃん、ホノカちゃん。
みんな女子専用クランの一員で、今日はスイーツを持ち寄ってのプチパーティらしい。
ALFでは、現実の店舗が試供のデザートを出品してたりと、本格的なスイーツが楽しめる。
今日持ち寄られているのも、そうした一流店のお菓子らしい。
「すいません、私は何もなくて」
急に呼ばれたので、何の準備もしていない。途中で買おうかという案も出したのだが、誰かと被っても興ざめだし、任せてとセイラさんに言われた。
「ちょっと台所借りるわ、シゲムネくん、入れて」
「はい、許可しますね」
「セイラが作るなら、私も手伝うわ」
ソニアさんも付いていった。俺も手伝いたいところだが、邪魔にしかならないだろう。やはりセイラさんに教わっておくべきだろうか。
「さて、私たちはこっちの品評の続きね」
俺も席に座らされ、小皿に載ったケーキを食べてみる。ふんわりしたスポンジに、ふわふわの生クリーム。ムース状になったストロベリーソースでデコレートされたショートケーキは、甘いのにしつこくは口に残らず、次の一口が欲しくなる一品だった。
「すごい、こんなのあるんだ」
「お前、よくそんな甘いの食べられるな……」
そういえば、シゲムネは甘いものが苦手な方だった。どうやら感想を求められて、俺たちにその役を代わらせたかったようだ。
「これ、美味しいよ。甘いんだけど、後味はすっきりしてるから食べやすいよ。いちごの酸味とクリームの甘さのバランスが絶妙」
「やっぱり? ホント、美味しいよね」
ホノカが嬉しそうに話しかけてきた。どうやら、ホノカオススメの一品らしい。
「まだまだ、結論は早いよ。これも食べてみて」
アイリが出してきたのは、オレンジをくり抜いて作られたゼリー。スプーンで掬うと、オレンジ色の綺麗な透明。口に入れてみると、まずはオレンジの風味がさっと広がる。しかし、透明に見えたゼリーには、何種類かの固さが混在していて、それを口の中で噛むと、違った柑橘類の味が広がる。少し苦味のあるグレープフルーツに、酸味の強いレモン、甘さの強いみかん、甘くて爽やかさも内包する柑橘系のゼリーは、噛むたびに違った風味を伝えてくる。
「柑橘系でもこんなに色んな味がでるんですね。不思議で美味しいです」
「そうでしょ、新しい発見をさせてくれる一品だったの!」
ホノカが喜びを露わに微笑みを浮かべる。
「口直しにどうぞ」
クリスに出されたのは、せんべいだった。甘いものが続いた後に、醤油の香ばしさが香る焼きせんべいは、適度な塩気があって正に口直しの一品になっていた。
「はーい、セイラさんお手製のクッキーですよ」
持ってきたのはソニアさんだった。焼きたてのバターの香りが辺りに広がる。シンプルだが温かさが最高の調味料となっている。
「どれも美味しかったですね」
「うう〜ん、甲乙つける必要はないのかもね」
セイラさんの意見に一同が納得する。これだけ食べても胃もたれはしないし、カロリーを気にすることもない。女の子にとっては、天国かも知れないな。
「で、実際のところ、シゲムネさんとはどうやんです?」
クリスが俺に詰め寄ってきた。
「リアルの友達ってだけで、何でもないですよ」
「こいつ、キャラは可愛いけど、リアルはこんなじゃないからな」
ネカマであることはちゃんと伏せてくれる。
「それはそうかも知れませんが、異性と同じゲームとか仲良すぎません?」
「たまたまだよ。私が始めたのを知って、久々に復帰してみたら面白かったらしいんで」
「うう〜ん、ケイちゃんの気を引きたいからとか?」
「ねーよ」
ポンポンと頭を叩きながら答えるが、その仕草がかえって女性陣の興味を引いてしまう。
「むむむ」
一歩引いた位置で俺を見ているカナエちゃんは少し気になるな。本気でシゲムネに好意があるのだろうか。だとしたら、応援するのはやぶさかではないのだが。
「ケイちゃんは、私のだから。シゲムネには渡さないわ」
そんな事をいうセイラさんに腕を取られた。突然の事にわたわたしてしまう。ネカマの事がバレたのか……?
「その方がいいんでしょ?」
セイラさんが耳元で呟く。シゲムネとの関係を、しっかりと否定するのに協力してくれるらしい。
「また悪い癖が出てるのかしら?」
そう思っていたら、ソニアさんから思わぬ問いかけが。
「な、ち、違うわよ。そんなんじゃ、ないからね?」
セイラさんがわたわたと暴れ始めた。何があったのか、赤面しながらソニアさんを睨んでいる。
「そ、そういえば、さっきID行ってたはずなのに、いつの間にか家に帰ってた事があったんだけど……」
セイラさんは話題を変えようと無理矢理話を切り出した。しかし、それは盛大な自爆。先ほどのの事を思い出して、耳まで真っ赤になっている。俺の方を見ながら、違うわよと口を動かしている。
セイラさんってそっちの人なんだろうか。少し不安になった。
「あ、それ、私もありました」
ホノカが思わぬ返答を返してきた。
「私の友達もあったって。バグですかね?」
思いの外、IDに行って不具合のあった子がいるようだ。さっきのセイラさんみたいな状態にはならなかったのだろうか。
「ちゃんと調べないとダメかしらね。運営に報告した方がいいのかも知れないし」
その場は何となく流れ、女子クランの子達は、俺を着せ替え人形にする計画で盛り上がっていた。
まあ、可愛い格好に興味がないと言えば嘘になるけど、女子のパワーはすごかった。