状態異常の謎とお呼ばれ
俺を見下ろすセイラさんの目からは涙が溢れてくる。
「私、何てことを……」
「あの時のセイラさんは、何かおかしかったですから。私は気にしてませんし」
どちらかというと、稀有な体験をさせてもらったしな。
「でも私……」
普段は凛々しいくらいのセイラさんが、弱気になっているのがちょっと居た堪れない。ここはショック療法がいいのだろうか。
顔を押さえて泣いているセイラさんの胸を下から揉み上げた。
「へ? ケイちゃん、何を!?」
突然の事にセイラさんも驚く。それにしても大きい、手に余るとはこの事か。俺は上半身を起こすと、その胸へと顔を埋めた。
「ちょっ、ケイちゃん、くすぐったいから」
「これふぇ、おあいこでふ」
「ひゃっ、くすぐったいから……でも、ありがとう。ケイちゃん」
俺の頭を抱えるようにしながらお礼を言われた。寄せて上げて、そこに埋められる。これでネカマがバレたらどうなるんだ。すぐにハラスメントでBANされるんだろうなぁ。
少し落ち着いたセイラさんは、俺を放して向かい合った。
「ケイちゃん、本当にありがとう」
「私こそ、役得でしたね」
「もう、ケイちゃんたら」
「それはそうと、何があったんですか?」
セイラさんをおかしくした原因は探らないといけない。
「私も良くわからないの。いつもみたいにランダム申請でIDを回ってたはずなんだけど……」
「システムメッセージはどうなってます?」
「わ、ハラスメント申請がいっぱい」
「そ、それは……」
「ふふふ、私の分も出てるのよね。本当におあいこね。それと……魅了、混乱を解除」
「解毒ポーションが効いたみたいですね」
やはりポーションは常備しておくべきなんだな。幾つかストックしておこう。
「一番古いので魅了にかかったというのが残ってて、次にダンジョンを出てるわ」
「となると、ダンジョンで魅了攻撃を受けたんでしょうか?」
しかし、セイラさんは首を振る。
「あんな風になる魅了なんてないわ。魅了されたプレイヤーは、相手を攻撃できなくなり、守ろうとする感じなの」
「混乱の方はどうでしょう?」
「そっちもランダムで近くを攻撃するだけね」
どちらにせよ、精神に作用するというより、目標を間違えさせる感じか。酔っ払いのような状態になるなら、お酒の方が怪しい。ただ、セイラさんはお酒臭くはなかった。
「セイラさんって、普段から絡み酒なんですか?」
「違うから。まだお酒は飲んでないわよ、未成年だし」
「え?」
普段はしっかりしてるので、かなり歳上なのかと思っていた。
「ケイちゃん、何を考えたのかな?」
「その、年の割にしっかりしてるな……と」
「おばさん臭いとか思ったんでしょ?」
手料理は美味しいし、説教くさくなる事もあるので、そういう面もなくはない。
「ケイちゃん……?」
凄みをましたセイラさんに、萎縮してしまう。
「その、本当に、しっかりしてるなって思っただけなんです!」
ジト目でこちらを見詰めていたセイラさんが、ぷっと吹き出す。
「そんな怖がることないのに」
いつもの調子を取り戻したセイラさんに安心しつつ、俺は確認を行う。
「ID中におかしくなったっぽいけど、敵の、モンスターの攻撃ではないという事ですね」
「そうなるわね」
「となると、パーティメンバーに攻撃を受けた?」
「それも無いわね。ID中はプレイヤーに攻撃できないもの」
プレイヤーに攻撃が当たりそうになると、バリアみたいなので守られるらしい。攻撃した方は硬直するので、モンスターに対して隙を作ることになる。極力避けるべき行動だ。
「攻撃は出来なくても、アイテムを使うことはできるから、何か魔法の道具とかを使われたとか」
「その辺りの記憶はないのよね。私はタンクだし、前でモンスターと戦ってるのがほとんどだから、後ろで何かやられたのかも知れないけど」
それでも増援が来ないかなど、警戒はしているはずなので怪しい動きはできないと思う。
「ううーん、今の私達じゃ結論はでないか」
「攻略サイトなんかも調べてみる必要がありますね」
『よう、暇か? 家でおやつパーティやるらしいけど来る?』
真剣に悩んでるところに、シゲムネからお気楽なメッセージが飛んできた。
「あいつは……」
「ん? どうかした?」
「なんかシゲムネがおやつパーティに来ないかって。こんな時なのに」
「まあまあ、彼にはこっちの状況はわからないんだし。ここで根を詰めても結論は出ないだろうしね」
それはそうかも知れないが、タイミングが悪いな。断ろうか。
「せっかくだから行ってましょう。彼の家も見てみたいし」
セイラさんに言われたら、それも良いかと思ってしまう。
「あとケイちゃん、服は着なさいね?」
まだワンピースを脱いだままだった。セイラさんもカジュアルな服装に着替えている。
結局、『動く人形』のお披露目は帰ってからになった。ひとまずはメイフィ達と一緒に、家の防衛をやってもらう。
「ケイちゃん、ごめんね。新しい仲間を作ってくれたのに」
「いえ、人形は慌てなくてもいいですし。能力がまっさらなので、何をさせたいかを決めるだけです」
シゲムネの家は、プレイヤーの家が建ち並ぶ一角にあった。クランの集合場所に使っているのが普通なので、プレイヤーの行き来が多い。
今日はセイラさんがいるので、ナンパされることはない……と思ってたが、思った以上に声を掛けられた。
「ケイちゃん、可愛いからね」
「どっちかというと、セイラさん目当ての人が多かった気も」
IDをランダムで回しているセイラさんは、色々なプレイヤーと顔見知りであるみたいだった。以前はクランでお客様扱いされて、問題になったらしいが、今は熟練のプレイヤーの一人として知られているみたいだ。
「今なら戦力としてクランに入れるんじゃないですか?」
「だと思ったんだけど、今度はどこか特定のクランに入ると、他のクランとやり辛くなるのよね」
実力で人気者になったがゆえに、仲間にも負担をかけてしまうのか。人間関係って難しい。
そんなことを話していると、シゲムネの家に到着する。色々とデザインに凝ってただけあって、周囲のテンプレ的なハウスと違って、お洒落な一戸建てという雰囲気だ。
白を基調にした赤レンガの家は、ヨーロッパ的な印象を与える。ガラスが小さいのしか無いので、窓は木枠なのが残念だが個人宅としてはまとまっていて可愛らしい。
植木を使った垣根の中は、緑の芝生が敷き詰められていて、そこに白いテーブルが置かれて人だかりができていた。
色々な物事を並行して進めるスタイルですが、文章としてわかりにくくなってないか不安。
一つ一つを解決していった方がいいなかな、でもMMOやってると色々な事を並行してやったりしますしね。
マーカス外伝も書きたかったりする今日この頃……