動く人形とバッドステータス
家に帰って改めて『命の水』のレシピを確認する。水銀と魔物の血、あとお酒を混ぜて合成するらしい。酒によって何か変わるのかな?
それぞれオークションでは安いので、買ってきて合成。これは苦労することなく完成した。光沢のある赤色で、少し毒々しい。
あとはマネキンと命の水、人型モンスターの核で合成すれば、『動く人形』が出来上がるはずだ。
「問題は合成の難易度か」
久し振りに向かいの錬金術師の釜を使って、レンタル料を調べてみた。まずはガラスの合成で、値段と難易度の基準を測る。
成功する45cm平方にするのが500で、失敗する60cm平方で1000。動く人形は、750と絶妙なラインで不明瞭だ。
「あ、45cmの鏡はどうかな?」
45cmのガラスと硝酸銀で、鏡を合成しようとすると700G。それなりに近い値段になった。大きめの鏡を何枚か作ってみる。
5枚中4枚の成功。
「また微妙な成功率だな。少し難易度が上がっても、50%を割り込むことはないと思うけど」
結局、失敗が怖かった俺は、海岸でケイ砂を集めてきて、45cmの鏡を合成。数をこなしてレベルを一つあげた。
鏡を5枚作って、失敗は無し。
いよいよ『動く人形』に取り掛かる。マネキンに最初に買った魔法少女っぽい服を着せて……錬金釜には入らないんだが……下半身だけ埋めた状態に。大丈夫なのか、これで。
命の水とモンスターの核を一緒において、いざ合成。
光の収束が起こり、一瞬のフラッシュの後に、マネキンの姿が残った。
「成功……なのか?」
失敗エフェクトは発生しなかったので、大丈夫だとは思うんだが外見的変化もないので、動くのを待つしかない。
やがてピクリと体が震え始め、頭が動いてこちらを見た。
「おはようございます、マスター」
成功だ。
しかし、歩きだそうとしたマネキンは、錬金釜に引っかかって転倒。派手な音と共に転がった。
申し訳なさそうに座り込むマネキンをパーティに入れて、能力を確認していく。HPは初期のメイフィよりはかなり多く、ステータスも高め。ただ魔力の数値だけは0なので、魔法は使えないのだろう。
能力の欄は空欄である。モフモフの耕作のように、行動によって習得していくのかもしれない。
「となると、覚えさせるのは何がいいのか」
掃除はスライム、料理はセイラさんの趣味みたいだし、洗濯はこの世界では必要ない。
「やっぱり防衛力に投入することになるのかなぁ」
ひとまず庭でメイフィ達に紹介した後、セイラさんの家を訪ねてみる。ただログインはしているが返事がなった。
「IDでもないみたいだし、どこかおでかけかな」
そうだ、マネキンをセットしておいて、驚かしてみよう。などという幼稚な動機で、セイラさんの家にお邪魔する。
既に何度も入った家だが、やはり女性の部屋ということで少しは緊張する。セイラさん不在の時に入るのは初めて……と、思ったら、セイラさんはベッドに腰掛けていた。
「あ、いたんですか、セイラさん」
そう声を掛けると、ようやくこちらに気づいたらしい。セイラさんは立ち上がろうとするが、ふらついて再びベッドに倒れ込んだ。
「え、どうしたんですか、病気……な訳はないか」
ここはVRMMOの中だ。病気ならログイン自体に制限がかかるはず。
「ふへへ〜ケイちゃんだ〜」
いつもとちがった陽気な声に少し戸惑う。少し赤らんだ顔を見ると、酔っているのか?
「大丈夫ですか、セイラさん」
近づいてみるが、お酒の匂いはしない。熱を測ってみるかと伸ばした手を掴まれた。
「わわっ」
そのままベッドに引き倒され、上から伸し掛かられる。ダンジョン攻略用の鎧を纏ったままのセイラさんは、押しのけることもできない。純粋に前衛職のセイラさんは、力も強いな。
ハラスメント報告のメッセージは表示されるが、こんな状態のセイラさんを報告する気にはなれない。
「ケイちゃん、無防備過ぎ〜」
「あっ、ちょっと!」
セイラさんが俺の胸に顔を埋めてくる。もちろんケイの胸は柔らかくて心地よいかもしれないけどっ。
「もふもふ」
胸元に口を付けて何かしゃべっているようだが、言葉にはなってなかった。熱い息が服越しに吹き込まれて、何ともくすぐったい。
「ちょっと、セイラさん。さすがに怒りますよ!」
セイラさんの顔を持ち上げると、拗ねたように口を尖らせている。
「むう、ケイちゃんのケチ〜。じゃあ手で我慢する」
セイラさんの手が俺の胸を掴む。
「ふにゃっ」
思わぬ刺激に変な声が出る。脱出を試みるが、体格も力もセイラさんにはかなわない。
「よいではないか、よいではないか」
「良くないですよ!」
まずい、このままだと色々とまずい。どうしてこうなった。アルコールではないのか? バッドステータスを確認できれば対処もできるんだろうが……。
「あっ、だ、ダメですっ」
セイラさんが強引に服を引っ張り、脱がそうとしてくる。両腕が服に邪魔されて、抵抗しにくくなっていた。
何かやれることは……そうだ、ポーションがあった。俺は試しに作ったポーションを取り出し、セイラさんに飲ませる事にした。しかし、手が服で満足に動かせない。
仕方なく装備からゴスロリのワンピースを外して、自由を取り戻す。
「ケイちゃんもやっとその気になったのね」
セイラさんは俺に馬乗りになりながら、自分の装備を解除する。結構たわわな胸が解放されて、プルルンと揺れる。
思わず見惚れていると、セイラさんの顔が近づいてきた。
「ケイちゃん好き〜」
嬉しいけど喜べる状況じゃない。近づいてくる唇に、解毒ポーションを押し当てた。カツンと歯がガラスに当たったが、セイラさんは気にせず俺からポーションの瓶を奪い取り、それを口に含む。
良かった、自分から飲んでくれた。
しかし、油断した。セイラさんは、両手で俺の顔を掴むと口付けされた。そして、口移しで解毒ポーションを飲まされる。
「んんんーっ」
「ぷはっ、何これ、苦いおさ……け……」
解毒が効いたのか、セイラさんの上気していた顔が元に戻っていく。今度は逆に血の気が引いた表情に変わっていった。
「わ、わた、わたし……」
正気に戻ったセイラさんは、呆然と俺を見下ろしている。
俺の物心ついてから初めての異性との口付け、いわゆるファーストキスは、女の子同士で襲われながら薬草臭いものになってしまった。
ちょこっとお色気シーンも入れてみました。