戦闘用スキルと装備
お金を貯めるにも、素材を集めるにも街を出て戦闘を行う必要が出てくる。せっかくのファンタジー世界だし、魔法を使ってみたいというのもあった。
「魔法のスキルを手に入れる必要があるな……」
目的が明確に決まったので、目指す場所も決まった。更に街中でキョロキョロしていると、男たちがすぐによってきて、案内してくれる。不意をつかれた最初と違って、ちゃんと目的が決まっていたら慌てる事もなかった。
魔術師ギルドに案内してくれた男がすかさずフレンド登録を申し込んできたが、そこは断っておいた。そんなに安い女じゃなくてよ
。
魔術師ギルドの受付は、女性NPCだった。下心なく接してくれるのにほっとする自分がいる。
ALFは数多の運営サーバーを並列することで、膨大な情報が集められたゲームになっている。その運営国独自のスキルや魔法が追加され、統合されていくうちに、稀に化学変化したように威力を発揮するスキルもあるらしい。
魔術師ギルドの受付で、新規に魔法を習得しようとすると、その膨大なリストが提示されるのかと思ったら、そんなことはなかった。
魔法やスキルにも前提条件が設けられているモノも多く、全くの初期ではさほど複雑ではなかった。
ファンタジーでよく聞く地水火風の四元素と光と闇の魔法で六種類から全ては始まるらしい。
まず俺は風魔法を選択。その中で、AI(人工知能)で簡単な命令を聞いてくれる精霊召還を取得した。
精霊と戯れる少女、可愛さが増すに違いない。
あと気になったのは、闇魔法にある重力操作系だ。相手の重さを変えることで、回避にペナルティーを与えたり、武器を軽くしてダメージを軽減したりもできるらしい。
それぞれを100Gで購入して、スキルの魔法に追加された。また本を渡されて、そこに書かれた呪文を唱える事で、魔法を発動できるらしい。
「これを声に出して読むのか、ちょっと恥ずかしいな」
戦闘用とは言い難い魔法を覚えて、あとは受付のお姉さんにお勧めされた『杖』スキルを取得。杖で殴るための基礎と、INT(知性)に修正の入る魔術師用のスキルらしい。また100G取られて、残高は200G、これで装備も買わないと駄目なのか。
街に出るとすぐに男たちが寄ってくる。みんな暇なのか。
しかし、ここは姫プレイするべき場所だ。最初からプレイヤー作成の高品質装備を入手せねばなるまい。
「まだ始めたばかりで、お金ないんですけど、装備品買えるところありますか?」
「任せろ、俺が案内する!」
「いや、俺が!」
「うちなら、君に合ったのを作れるよ!」
思った通りの反応に、口元が弛みそうになるが、そこは困った表情を作る。
「あの、まだ分からないので、売ってる奴でいいです」
「ならこっちこっち」
手を掴もうとするのをするりと避けながら、男の後をついて行く。
男について行くと、そこはプレイヤーが販売する露店が並ぶ一角だった。
プレイヤーが制作した武器は、NPCが売ってるものより品質が高く、その上に安い。これはサービス開始から時間が経っている恩恵だろう。
とはいえ、所持金200Gじゃ何も買えそうにない。
「俺の知り合いの店があるから、ついてきて」
露店の中を進んでいくと、プレイヤーショップが並ぶ通りへ。露店などで稼いだプレイヤーが、街の家を買い取って開いている店だ。
その一つへと男が入っていくので、ついて行くと別世界になっていた。
そこはまさにアキバ系と言えるショップで、マネキンにはコスプレ衣装が着せられている。それらはもちろん装備品なのだろう。
「おい、逸材を連れてきたぜ」
「な、なに~!」
俺を連れてきた男と店員の男が小声で何やら会話しつつ、こちらを見てくる。それぞれ整った顔立ちのイケメンなのだが、仕草の一つ一つがオタクっぽさを醸し出していた。
「初期だとあんまり豪華なのは着れないしな、この辺が限度か?」
「これはこれでアリだろう」
男たちの間で、一つの結論が出たらしい。
「このセットで100Gでどうかな?」
店員が持ってきたのは、ピンクを基調にフリルが沢山ついた衣装だった。頭から脚まで、一通りのセットに杖までついている。スペック的にもINT(知性)やMND(精神力)に修正がかなりついた魔術師にうってつけのものらしい。
「そっちに試着室があるから、着てみるといいよ」
店員が指さす方へ行くと、小さな個室があって、中には等身大を写せる鏡が置いてあった。
装備の付け換えは一瞬だが、確かに試着は必要だろう。俺は個室へと入った。
俺は鏡に向かいながら、ステータスを表示して装備を付け替える。
「こ、これは……可愛い」
ゆるふわ系のロリータ衣装というか、変身魔法少女といった格好になっていた。
大きめのキャスケット帽に、すっぽりと頭が覆われ、髪型はツインテールからストレートに。ピンクのワンピースで、白のリボンとフリルがあしらわれ、ボディラインは隠れているが、童顔に良く似合った雰囲気になっている。
何層かに重なった膝上のスカートからは、白いタイツに包まれた脚が伸び、明るい茶色のショートブーツへと続く。
攻撃力あるのかというか、殴ったら壊れそうな装飾のある杖を持つと、本当に魔法少女といった感じ。思わず鏡の前でポーズを決めちゃったりして……。
「いや、流石に目立ちすぎるんじゃないか?」
飾り気のない初期装備ですら人を集めたのだ。こんな可愛い格好をしたら、路上撮影会が始まるレベルだろう。
「あのー、これ、可愛いんですけど、目立ち過ぎるような……」
個室を出て店員に声を掛ける。
「天使キタコレ!」
「シグエルちゃん、降臨しちゃったよ」
俺の姿に男共の顔が弛む弛む。やはり何かのキャラをベースに作ってたみたいだ。
「その位の衣装は普通だけどね」
そう言いながらも鼻息が荒くなってて信憑性は皆無だ。
「まあ、レイヤーでもないと最初は恥ずかしいかもね。マントも付けてやれよ」
「オーキードーキー」
店員が更にマントを渡してくれる。これもステータスアップがついていて、値打ちがありそうだ。
試着室にはいかず、その場で装備してみる。
「これじゃあ、全然隠れないというか……」
背中くらいまでのハーフというか、ショートマントで濃いめのピンク。今の衣装とマッチしてて可愛いんだが、俺の要望は満たしていない。
「シグエルちゃん、コンプリートなのだぜ」
「いや、駄目だろ」
俺を連れてきた男は店員にツッコミつつ、視線は俺から外さず瞬きすら忘れている。まさか、キャプチャとかされてないよな。こんな奴らのおかずにされるのは、さすがに嫌だぞ。
後から出してくれたマントは、膝下まである落ち着いた赤のマントで、前を合わせるとすっかり中の服が隠れてくれた。
キャスケット帽と赤マント、ちらりと見える服もいいものだ。可愛さにはちらりズムも大事なのだよ。
「それで君、これからどうするの? レベリングするなら手伝うけど」
下心見え見えだが、こちらとしてもありがたい提案ではある。明らかにオーバースペックの装備を用意してくれた恩もあるし、ここは受けておくべきか。
「あの、貝殻と蟻酸のありかって分かりますか?」
「何かクエストだっけ? 貝殻は海岸で拾えるだろうけど、蟻酸はアリのドロップ品だな」
「アリはタンクがタゲ取ってりゃ特殊攻撃もないし、レベリング向きじゃないか」
「じゃあ、それにしよう」
街を南に出ると海岸へ、北に出ると森へと行けるらしい。街近くの海岸は、襲ってくるモンスターもいないので、一人でも採取は可能だそうだ。
なので二人について、森へと入っていく。こちらも襲ってくるモンスターは、ほとんどいないらしいので、すんなりとアリが出没する蟻塚へと到着した。
巣の周りを歩いているのは、働きアリだろう。視線を合わせてしばらくすると、アイアントという名前が頭に浮かんだ。
「ケイちゃんの魔法ってなんだっけ?」
パーティーを組んだので、相手に名前が伝わっている。俺のキャラはケイ・リュウゾウジ。店員がトーマス、もう一人がマーカスというらしい。
「私のは風の召喚魔法です」
「じゃあ先に呼んでおいて。マーカスがタンクで、俺がアタッカーでいいよな?」
「ああ、それでいいぞ」
俺は風の魔法の本を取りだし、召喚の呪文を調べる。改めてみると、中二臭い呪文とあざとい感じの呪文の二種類がある。これを読むのか……。
「えーと、大気に住んでる精霊さん、私に力を貸して……」
しかし、何も起こらない。
「駄目だよ、ケイちゃん。ちゃんと声を張って、抑揚を付けてよまないと!」
え、ただでさえ恥ずかしいのに、そんな事も必要なの?
「ある程度声に出さないと、システムが認識しないんだ。あと母音を取るらしいから、アクセントに気を付けるとやりやすい。癒しの力よ、我が友を癒せ!」
急に詠唱を始めたトーマス、その声に反応してマーカスが淡い光に包まれた。
「こんな感じ」
「は、はい……」
少し気合いを入れ直し、再度挑戦する。
「大気に住んでる精霊さん、私に力を貸して!」
俺の声に反応が出て、目の前の空間につむじ風か起こる。マントがはためき、少し押されるくらいの風圧。そして、目の前に30cmくらいのエメラルドグリーンに輝く精霊が現れた。
「はわっ」
つるりとした表面で、瞳は無くアイレンズといった感じ。いかにも妖精って雰囲気の女の子だった。
「くぉーなんで、このゲームはSS機能がないんだっ」
「ふっ、記憶のアルバムにしっかり刻めってことだろ、JK」
古くさいネットスラングを使うトーマス。そうか、キャプチャチートなどは使ってないらしい。その分、必死に凝視してくるのかも知れないが。
それからしばらくアイアント狩りを行う。風の精霊が攻撃すると、風魔法のスキルが、杖で殴ると杖のスキルが上がっていく。
この杖、ポコンと可愛い音と共に星が飛び出て、実用性には疑問があるが、スキルは上がっているのでよしとしよう。
蟻酸が10個ほど集まったので、街に帰ると切り出した。
「そう? もっと色々倒せるのいるけど」
「クエストもやっていかないと駄目ですから」
「そうだよね、じゃあまた今度かな」
自然な感じでフレンド申請されてしまった。ここで断ると感じが悪い。フレンドとして登録すると、ログインの状態が分かり、離れていてもメッセージを送る事ができる。
さすがに現在地は分からないので、ストーカー行為まではできないはずだ。そう思って、二人の申請を許可した。
「それじゃ、街まで送るよ」
二人は街まで浮かれながらも送ってくれた。
やっぱり書きはじめのの方が、筆は進みますなあ。
色々と設定の説明は面倒ですが、お付き合い頂ければ幸いです。