セイラさんと朝食を
セイラさんにはちゃんとご飯を食べなさいと言われたが、朝から何かを作る気にはなれずシリアルフレークで済ませてしまう。
ログインする前に洗濯を済ませて、簡単な掃除もやっておく。スライムがいると楽なんだろうなぁ。細い隙間も入っていけるだろうし。
一通りの用事が終わったところで、ようやくのログインだ。
我が家で目を覚まして、まずは盗賊からの襲撃報告。倒した数が増えているのは、バラの垣根などで庭を整えたからか。グレード2に上がらなくても、品質が上がると敵の数が増えるみたいだ。
グレード2になると、盗賊の強さがあがるのだろう。メイフィの強さは実感したので、あとはスライムや法師丸の成長か。
「いや、更なる可能性はあるな」
昨日手に入れた錬金術のレシピ。難易度的には人形を動かすのが低いのか。アクイナス屋敷ではマネキンのような人形を使役していた。ああいうのはどこで手に入るのかな。マーカスはショップに並べてるから分かるだろう。
シリカの様子も気になるし、後で聞きに行ってみよう。
「ケイちゃん、おはよう。そろそろご飯だよ」
セイラさんからメッセージが届いた。お隣に朝食を呼ばれる……なんと贅沢なことか。
庭に出るとメイフィが寄ってきたので、一緒にセイラさんの家へ入っていく。
「おはよう、ケイちゃん、メイフィちゃん」
「おはようございます、セイラさん」
朝食が並べられたテーブルに進むと、今日は日本食が並べられていた。
白いご飯に、豆腐のお味噌汁。焼き鮭に玉子焼き。
「漬け物とかなかったのよね、ごめんなさい」
「こ、こんなご飯、いつ以来だろ……」
「ホント、ちゃんと自炊しなさいよ。何なら教えましょうか、お料理」
「う、うーん、また機会があれば……」
「これは強制的にやらせないとダメね。シゲムネくんに批評させましょうか」
「だからアイツはそういうのじゃないですって」
せっかくの料理が冷める前に頂くことにする。それにしてもALFの味覚再現力は凄い。ご飯の噛むほどに甘みのでる風味がわかる。味噌汁の出汁がきちんととられていて、複雑な旨味が感じられた。
玉子焼きは少し甘めで、ふわっと仕上がっていて美味しかった。
「うう、美味しすぎる。セイラさんの手料理食べれる彼氏さんは、幸せですね」
「彼氏がいたらこんなにログインしてないけどね」
それもそうか。
「もうケイちゃんのお嫁さんになろうかな」
一瞬、ネカマがばれたのかとヒヤリとしたが、そんなはずはないか。
「御馳走様でした」
「ケイちゃんは、本当に美味しそうに食べてくれて嬉しいわ」
そういって笑うセイラさんは、喜んでくれているんだろう。普通にモテそうなんだが、逆にそれで苦労したのかな……前にクラン内でもめたらしい話も聞いたし、人当たりがいいのも難しいのかな。
後片付けの要らないゲーム世界は、食後もゆっくりできていい。三毛の子猫又の法師丸を膝に乗せてアゴの下を掻いてやってると、幼狐のメイフィが足下に擦りよってきた。
「メイフィは甘えたがりかな」
『ちょっと耳の後ろが痒かっただけです』
「そうかぁ、撫で撫でしたかったけど、諦めようかな」
『む、むう、仕方ないですねえ』
法師丸を踏みつけるようにして、メイフィまで膝に乗ってきた。たまらず法師丸は、セイラさんのところに逃げる。
「ちゃんと仲良くしてよね?」
『ちゃんと鍛えるのが先です』
教育係としてもやる気を出しているようだ。グレードが上がっても、メイフィなら中心で頑張ってくれるだろう。
食後のコーヒーまで頂いて、セイラさんの家を後にした。バラの垣根は、早くもつぼみがいくつも見られるようになっていた。
芝はまだまばらで、土の色が見えている。
初夏に向けてキキョウも植えてみたけど、今はまだ草しかない。
シゲムネは同居している女の子の相手かな? ログインはしているが、こっちには来ないみたいだ。
俺はマネキンの入手方法を聞きにマーカスの店へと行こうとした。しかし、店の前はまたも人だかり。シリカが客寄せしてるんだろう……俺のポスター騒動は完全に消えるだろうと思いつつ、シリカは大丈夫なのかと心配になる。
大半は男プレイヤーなので人垣が高く、店の様子を見ることもできない。
「マーカス、繁盛してるみたいね」
「僕としてはシリカを見せ物にしたくはないんだけど、トーマスが朝から色んな衣装を着せちゃってね」
マーカスとしては、せっかくの所有権を一人で楽しみたいのだが、トーマスとの約束もあって自由にはできてないみたいだ。
「まあ、それは貴方達で決めてもらえばいいけど。連絡したのはマネキンが欲しいんだけど、どうしたらいいのか聞きたくて」
「マネキン? オークションか木工だろうけど、使わなくなったストックがあるから安くで分けようか?」
「そうしてもらえると助かるけど、本当にいいの?」
「シリカが実演してくれるようになったからね、マネキンの数は減らしていこうかと思ってたから」
それならばと受け取りに行きたいが、店は大混雑。近づきたくはない。
「どこか人のいない場所があればそこがいいかな」
「なら錬金術ギルドは、基本無人だからいいかもね」
少し悲しいが錬金術はマイナー職の位置づけだ。
「お待たせ」
「いや、今来たところだから」
テンプレ台詞をどや顔で返すマーカス。言ってみたかったシリーズだろう。
「とりあえず三体ほど持ってきた。これって錬金術で動かすの?」
「昨日手に入れたレシピで、動く人形というのがあったからね」
「ふうむ、やはり錬金術って色んなところに隠しレシピがあるみたいだね。昨日連れてた妖狐の子供もレシピには無い奴だよね」
「マルミミウサギの素材を変えるとできたの」
「裁縫もデザインは色々変えれるし、耐性の種類もアレンジできるから、同じ様な応用なんだろうけど……」
マーカスは生産メインでやってるから、興味があるようだった。しかし、爆発物のレシピを持ってる錬金術師は教えられないけど。
「シリカみたいな子が造れたら、ウハウハなんだけどなぁ」
「あの子は特殊でしょう。制約の冠を外したらどうなるか分からないし……」
などと話していると、何やら外が騒がしい。ギルドを見てみると、プレイヤーショップの方から煙が上がっている。
「まさか」
マーカスを追って走っていくと、店の周りが大変な事態になっていた。何人かのプレイヤーが死亡していて、あちこちがクレーターのように抉れている。
人垣の中心にいるのは、青白い肌をした少女。その額からは冠が外されていた。
「シリカ!」
マーカスは止める間もなく、そのシリカに駆け寄っていく。
「これはマスター、お帰りなさい」
固まっていた表情が笑みに崩れる。ただその笑みは邪悪そのものだ。両手を広げてマーカスを迎えるようにしながら、寸前で腕が動いてマーカスの胸を貫く。
街中ではプレイヤー同士の戦闘が禁止されているが、既にシリカはプレイヤーの手を放れている。モンスターとしてプレイヤーを攻撃可能なようだ。
「解放してくれて感謝していますわ。ありがとう」
既に死亡してオブジェクトとなっているマーカスに口づけると、シリカは宙に浮かび上がる。
「ふふふ、自由だわ。ワタシは自由を手に入れた!」
その言葉を発して、シリカは空へと飛び去っていった。
ブクマが150を越えました!
読者のみなさん、ありがとうございます。
もう少しイベントを起こしていきたいのですが、試行錯誤中です。
楽しんで頂けていればよいのですが。




