アクイナス屋敷攻略
諸々の用事を終えてログインし直すと、シゲムネからのメッセージが残っていた。
「彼女は明日までログインしないらしいから、今日ならOK……か。早めに終わらせた方がいいかな」
IDは制限時間が30分から1時間で設定されている。
アクイナス屋敷は30分のショートダンジョンらしい。複雑なギミックもなく、錬金術に関わるモンスターが襲ってくるのを倒していくらしい。
まずはシゲムネと合流し、先にメッセージを飛ばしておいたマーカスの店で、トーマスとマーカスに合流。
「ああ、この店の奴か」
「知ってるの?」
「いや女性向けコスプレオンリーだから入ったことはない。でもデザインなんかは好評だったからな。なるほど、お前の衣装はここのだったか」
「シゲムネが知ってるって事は古参ではあるんだね」
紹司は受験を前にALFから引退したらしいので、約一年半離れていた事になる。
「ケイちゃん! 久しぶ……り?」
俺が一人で無いことに気づいたトーマスの声は、徐々にテンションが落ちていった。シゲムネ効果はバツグンだ。
「こっちは友達のシゲムネ。この人がトーマスで、カウンターにいるのがマーカス」
「おう、よろしくな」
気さくな雰囲気のシゲムネに対して、少し放心している二人。そんなにショックなのか? そこまでの知り合いでもなかったのに。
「お、ケイ。こんなのどうだ。買ってやるぞ」
コスプレマネキンの一つを指さす。黒は黒でも、レザー地の光沢のある黒。女幹部か女王様かというような衣装で、露出はかなり多い。
「馬鹿、そんなの似合わない」
「そうか? ロリ顔とのギャップがあっていいと思うんだが」
「下心が見え見えだって」
シゲムネの飽くなきエロ心に呆れる。
「トーマスさん、今日はよろしくお願いしますね。こいつは、適当に相手してたらいいんで」
「お、おぅ」
シゲムネを少し突き放すことで、より親密さをアピール。案の定、トーマスは戸惑った様子を見せている。
一方のマーカスは。
「ロリにレザーだと、邪道だがギャップ萌えか。どこまで許される……」
などと呟いていて怖い。
「で、アクイナス屋敷のダンジョンを開放しないとだな」
「あ、そっか。クエストから?」
「いやアクイナス屋敷は、玄関までいけばそのまま入れるんだ」
「場所は?」
「ブーエナの森。そこまで遠くは無いけど、乗り物は欲しいかな」
「じゃあケイは俺が連れてくよ」
「乗り物?」
「ああ、俺のはドレイクっていう二足歩行のトカゲなんだけどな。人に比べればかなり速い」
「ぬぐぐ……」
トーマスが少し可哀相な感じになっているが、ここはきっぱりと線を見せるべきだ。
「ケイちゃん、この装備を格安で売るよ。スカートはまずいだろ?」
渡されたのは緑の服だった。試着室で着替えてみると、チュニックにキュロット。森の妖精といった雰囲気になっていた。緑のハンチング帽に茶色のロングブーツ、露出は少な目で俺の好みを抑えた感じになっていた。
「マーカス! 心の友よ!」
「いや、あんたの着眼点も侮れん。今度、レザーなロリ服作ってみせるぜ」
シゲムネとマーカスが何故か意気投合して、固い握手を交わしていた。まあ、ケイに似合った衣装であるのは認めるが。黒の髪はあまり合わないので、三つ編みにした後で団子にまとめ帽子に納めておく。
「ほれ」
ドレイクを呼び出し、飛び乗ったシゲムネから手を引いてもらって、その背中に乗る。
外見としてはラプトルに近いか。太い二本の脚と、小さな手がついている。顔は草食系の穏やかな雰囲気だった。
シゲムネの前に座らされ、手綱を握る腕に挟まれると、すっぽり収まった感じで少し恥ずかしい。
「変なとこ触るなよ?」
「それは前フリか? でも移動中はちゃんと掴まれよ、意外と揺れるから」
街を出てブーエナの森を目指す。確かに上下に揺れて、鞍に掴まるのに必死で、移動中は余裕もなくなっていた。
「うう、酔うね……」
「手綱握ってるとそうでもないんたがな」
ドレイクの揺られるのはあまりよくなさそうだ。自分用の乗り物を早く用意しようと心に決めた。
鬱蒼とした森の中に、長年使われてなさそうな屋敷が建っている。窓ガラスは割れて、壁にはツタが這っていた。
入り口に調べれるポイントがあり、ダンジョン『アクイナス屋敷』が開放された。
「パーティー編成だけど、ケイちゃんは遠距離の魔法だよね」
「はい」
「俺は一通りスキルあるけど、弓とヒールやろうか」
シゲムネが俺に続いて答えた。
「じゃあ俺がタンクで、マーカスが槍かな」
「オーキードーキ」
各々の武器を準備する。俺も所持品に入っていたメイフィを呼び出し、新たな精霊を召喚。より上位のジンと呼ばれる精霊だ。
「それじゃ、ダンジョンに入るよ」
パーティーリーダーになったトーマスが、先導しダンジョンに突入した。
アクイナス屋敷は、中もかなり荒れ果てた様子で薄暗い。
「メイフィ、狐火出して」
『はい、です』
コンと一鳴きすると、メイフィの頭の上に火の玉が浮かび上がる。
「何気に、その子は何なの?」
「妖狐のメイフィだよ」
「どっかで調教できたっけ?」
トーマスやマーカスは互いに知識を探っている。
「そういや、いつの間にか飼ってたな」
シゲムネにもちゃんとは話してなかったか。
「錬金術で作った子だよ」
「「は?」」
マーカスやシゲムネが驚きの声をあげた。
「そっか、ここでメイフィを戦わせるって、同族の相手をさせる事になるのか」
『関係ないです。ワタシの同族は、マスターが作ったスライムや師法丸だけです』
「そっか、でも嫌だったら言ってね」
「もしかしないでも、しゃべってるんだよな、そいつと。お前といると錬金術の概念が崩れるわ」
シゲムネがぼやく。
「錬金術で作れるのは、マルミミウサギじゃないか。中型でもグレイウルフのはずだし、妖狐なんて!?」
マーカスは多少、錬金術の知識があるんだろう。かなり混乱していた。
「おい、敵さんが来たぞ。構えろ」
合成関係に無頓着なトーマスは、しっかりタンクとしての役割を果たしていた。
アクイナス屋敷で襲ってくるのは、錬金術で作られたモノ達。最初にでてきたのは、動くマネキンでボロボロになったメイド服を着ている。
「メイドさん、ごめん!」
マーカスは謝りながら、槍を突きだし、シゲムネは見事な腕で矢を当てていく。メイフィも負けずに狐火を飛ばし、俺も炎の魔法でダメージを与えていく。
正直、ジンはいらないみたいだったので、送還しておいた。
しかし、メイフィの火力が凄い。錬金術師もINT(知性)が高く、マーカスから買った装備も魔力を上げる装備なんだが、メイフィはレベルが低いのにそれに匹敵するダメージを出している。
『頑張る、です』
「う、うん」
屋敷は朽ちてはいるが、豪華な造りになっていた。書斎や応接室、遊技場などか揃っていて、その部屋毎にモンスターが待ち受ける。
食堂で中ボスとして現れたのはゴーレムだった。防御が高く、炎にも強い。
「連続矢、連続矢、連続矢っ」
シゲムネの矢も、レベルで制限が掛かっているので、微々たるダメージしか通っていない。
トーマスはゴーレムのパンチを盾で受け止め、大きくよろける。マーカスの槍がかろうじてダメージを与えている感じだ。
「ショートカットを設定し忘れた……大気の大いなる根源よ、我が呼びかけに応え、その姿を現せっ」
風の上位精霊であるジンを呼び出し、攻撃に参加させる。
風魔法は耐性がないのか、ゴーレムのHPを削っていく。
攻撃の効かないシゲムネはトーマスの回復に努め、マーカスは壁を足場に高くジャンプしてからの一撃を決めている。
そうしてHPの大きなゴーレムを何とか撃破した。
「あ……」
「ん、どうかしたか、ケイ」
「あ、いや、何でもない」
ゴーレムと言えば、額の文字を消すとどうこうっていう逸話があったことを思い出しただけだ。
まさかボスがその手の弱点が設定されてることはないか。
ゴーレムの背後にあった階段で二階にあがると、そこは寝室が多く並んでいた。
ベッドメイク係のメイドさんは、一階の動くマネキンではなく人造人間のホムンクルス。ただその容姿は、崩れがちでゾンビに近い。なまじ人間に近い姿なので不気味だった。
トーマス達は何かを期待する目で俺の方を見ていたが、ホラーでわーきゃー言うことはないな。
マネキンよりはスムーズに動くそれらを、退治しながら進んでいくと穴の空いた寝室に到着。ここを滑り落ちるだと?
「じゃあ、タンクの俺が先頭で」
「次は僕が……」
トーマスとマーカスが早々に滑り落ちた。
「別にいいだろ、減るもんでなし」
シゲムネもそのまま滑り落ちた。戦闘用の黒のゴスロリは膝丈のスカート、これで滑り台は危険だろう。
「あ、そういえば」
ドレイクに乗るためのチュニックがあったと着替えてから滑り降りた。
待ち受ける男三人の前にズボン姿で降りると、かなりがっかりされたがあからさま過ぎるだろう、お前等。