許しと週末の予定
木曜日、そろそろ週末が近づいてきた。まとまった時間で何か進めていきたいな。風呂作りに関しては紹司に任せてあるし、セイラさんは畑を作っていた。
「となると、俺は庭か」
庭というと日本庭園とか思い出すが、ああいった風情よりも花壇のある庭がいいな。
プランターに花を植えるか、藤棚のようなのか。バラの垣根なんかも良さそうだ。風呂を隠すのも大事だろう。
ちらほらと良さそうな花をピックアップして、それを攻略サイトで確認。入手方法などを確認しておいた。
「ケイちゃん、そろそろ許してやってくれないか?」
ログインしてすぐにショートメッセージが届いた。プレイ当初に世話になったトーマスからだ。
一瞬何のことかと思ったが、そういえばマーカスにポスターを貼られて迷惑したんだった。
既に忘れていたくらいだが、マーカスのフレンド登録は解除してあった。
「店に行くしかないのか……」
一度ログアウトして、マーカスの店を検索してみる。情報交換用の掲示板で書き込みを見つけたが、最近は話も消えているようだ。店頭に掲載されてたのは、半日もなかったようだ。おかげでしばらくはケイの存在を探す連中も多かったみたいだが、キャスケット帽と金髪の情報が多く、シゲムネのアドバイスが正解だったのが確認できた。週末を挟むと、情報も出なくなり、忘れられている。
「まあ、いいかな……」
ログインし直した俺は、メイフィの散歩がてらマーカスの店へと行ってみた。
当然店頭に飾られていた等身大パネルは無くなっていて、店内も少し暗い。品揃えは相変わらずのコスプレ風だが、派手さは抑えられていた。
マーカスはカウンターにいるようだが、こちらを見ておらず、誰かとメッセージのやりとりをしているようだ。
なのでゆっくりと店内を見てみる。
「落ち着いて見えるけど、やっぱりコスプレだなぁ」
スカートが短かったり、フリルが多かったりと、装飾が多い。マネキンに着せられていて、可愛らしくはあるのだが、自分で着るには抵抗がある。
「え……ケイ、ちゃん?」
マーカスが俺に気づいたようだ。シゲムネに渡された赤い三角帽に、黒髪を三つ編みにした魔女っぽいスタイルだったが、顔で気づけたらしい。
「ふむ、分かるんだ」
「そりゃ当然ですし、おすし。毎晩かかさずおやすみ言って寝てますよ」
それは聞きたくはない情報だった。まだ所持金が少なかったとはいえ、大変なことをしてしまったなと痛感する。
「とりあえず、店は落ち着いて私の情報も流れて無いみたいだから、今回の件はもういいわ」
「ほ、ホント!?」
「もちろん、人を客引きに使ったりしたのが分かったら、完全に絶交だからね」
「わかってる。もうしません、しらせません」
言葉使いはアレだが、真剣なのは伝わってきた。あまりギクシャクしたままなのを残したくもない。
「じゃあ、そうね。黒の目立たない服装を見繕ってもらえるかしら?」
「よろこんでー」
居酒屋のような元気良さで返事があった。
用意されたのはゴシックロリータ系のドレスだった。黒に黒のレースが使われていて、スカートも膝くらいはあって、落ち着いた雰囲気がある。同じく黒のヘッドドレスには、ワンポイントで紅のバラがあしらわれていて上品な雰囲気だ。黒のハーフマントとセットでも、魔法少女の派手さにはならなかった。
「うんうん、こういうのがいいわね」
「今の髪色だと、こういうのがバッチリだよ。服装変えれば気づかれなかったよね……もっと早くに渡すべきだったよ」
「で、これでいくら?」
「そんな、ケイちゃんからお金はもらえないよ」
「いや、プレゼントされたら余計気持ち悪いから。そこはビジネスと割り切って」
付与ステータスを考えるとまだまだ格安なんだろうが、セットで3万Gで購入。定期的に鏡を出品してるので、多少の収入は確保できている。
「ケイちゃん、ちゃんと稼げてるんだね。ダンジョンとか進めてるの?」
「うっ、そっちはまだ……生産で稼いでるから」
「ケイちゃんも同業者なの? 何系?」
教えていいのか少し迷ったが、知られて困る事もないか。
「錬金術だよ」
「へ? 錬金術で稼ぐの?」
「そうよ、オークション出品だけだけどね」
稼げそうな消耗品であるポーション類は、薬師といつ専門職におよばず、紙やインクもゲーム内で使われることは稀。ガラス類は素材としてある程度裁けるが、素材が安く、まだ初級の品なので稼ぐのは難しい。
鏡にまで加工できる人はいないみたいだ。アレも探って見つけたレシピだしな。
「錬金術って言ったら、アクイナス屋敷だね。行ってみた?」
「えっと、何かな、それ」
「サブで行くIDの一つで、錬金術師が住んでた屋敷っていう設定なんだ。出てくるのは、ゴーレムやホムンクルス、キメラ系のモンスター。錬金術スキルがあると、追加で素材アイテムがもらえるんだ」
「そんなのがあるんだ……」
「良かったら案内するけど?」
興味がないといえば嘘になる。錬金術は基本的に情報が少ない。極めた人が少ないのくか攻略サイトに記載されてないのだ。
そんなダンジョンがあるなら、掲載しててくれと思うが、有志の編集結果だから仕方ないか。
「明日から週末だから、時間が作れたら考えるわ」
「僕やトーマスなら、いつでも都合つけるんで!」
すっかり忘れてたお詫びとして、多少の付き合いは許しておこう。後はシゲムネの都合を合わせて、二人を紹介しておこう。抑止力にはなるだろう。セイラさんは絶対に会わせちゃダメだ。
家に帰るとセイラさんとシゲムネが庭で話し込んでいた。
「ただいまー」
「「!?」」
何故か驚く二人。
「どうかした?」
二人に近づいていったところで、セイラさんに抱きしめられた。
「ケイちゃん、可愛い過ぎっ」
「ふぇ、ふえぇっ」
人から抱きしめられるなんて、ほとんど経験のない俺はかなり戸惑ってしまう。
「お前なぁ、もう少し自分の容姿を自覚しろよ」
シゲムネは呆れたようで、じっとこちらを見つめている。大人しい雰囲気なったつもりだったんだが……。
「ケイちゃん、うちに飾りたいわ。お人形みたいよ」
マーカスと同じ事言ってる気がする。
「ちょっと、放して下さい~」
「ああ、ごめんなさいね」
「次俺な」
寄ってきたシゲムネには拳で返しておいた。
「で、二人で何を話してたんです?」
「ああ、風呂作りの段取りをな。素材はある程度集まったから、この週末で形にしようかなって」
なるほど、そこまで進んでるのか。
「素材の代金とかは?」
「一緒に入っ……」
再び拳で黙らせた。
「ある程度は請求してくれよ、多少は蓄えできてるからさ」
「まあ、例の湯沸かし装置は俺も欲しいし、その辺は追々精算してみるよ」
「あと庭の部分はバラの垣根とか作ろうかなって思ってる。風呂場からは花壇が見える感じで整えようかなって」
「……本気で乙女趣味になりそうだな」
「ゆっくりくつろげるのが大事だからね。外から見えないようにしないと」
「減るもんじゃなし……」
「減る、絶対減るよ!」
セイラさんが強く主張した。
「セイラさん、子猫又どうです?」
「あの子の名前は、法師丸にしたよ。三毛だし日本名がいいかなって。あの子もちゃんと話すようになって、簡単な治癒魔法も使えるわね」
「なるほど、防衛戦力になりそうですね。メイフィ、隣となら一緒に協力できるよね?」
『多分、大丈夫です』
今日の襲撃もきっちり迎撃できていた。メイフィの話だと、まだまだいけそうとの事。回復もできるようになれば、戦力はかなり大きくなるだろう。
「セイラさんの家もグレード1に上げてみて、様子を見ましょうか。あまり高価なのは置かないようにして」
「うちのスライムと法師丸に守ってもらえるかね。メイフィちゃんも、よろしくね」
メイフィの頭を撫でながら、笑いかける。二件分を守れるか、グレードが上がっても大丈夫かをテストしていかないとな。




