錬金術との出会い
現実で軽い食事などを済ませて、再びVRMMO用のヘッドギアを被る。五感全てを電気信号に変えて、脳と直接送受信を行う。そう聞くと恐ろしいが、あのリアルな世界を体感すれば恐怖を上回る興奮があった。
ログインすると宿の中。
まずは初期装備をどうにかしたいところだ。というか、スキル諸々も付けていかないと、今はまだ村人Aですらない。
宿を出て改めて世界を感じる。少し埃っぽい空気は、地面が舗装されてないからか。
行き交う人々は、大半が冒険者できらびやかに武装している。
既にサービスが開始されて数年が経過しているので、ニュービーとトップランカーの差は埋めようも無いだろう。
それでもこの世界には魅力が十分にある。
「彼女、始めたばかり? 案内するよ」
その声に振り返ると、爽やかなイケメンがにこやかに笑っていた。
「あ、あの、私、まだ始めたばかりだから、一人で見て回りたいから……」
「そう? 最初だからこそ、色々と知識のある人が付いた方が楽しめるよ」
「あのその、待ち合わせがあるので、すいません!」
俺は慌ててその場を逃げ去った。姫プレイとか完全に頭から吹き飛んでいる。
俺は自分のコミュニケーション能力の低さと、女の子モデルの集客力を甘く見ていた。
行く先々で声を掛けられ、その度に逃げるのを繰り返す。人のいない方、いない方へとやってくるうちに、変な一角へと踏み込んでいた。
まさにスラムといった一角で、全体的に汚れた印象だ。プレイヤーはおらず、浮浪者のようなNPCが座っているだけの陰気な場所だ。
「どうしよう……」
戻ろうにも無我夢中で走り過ぎた。自分の来た方向すらわからない。そうだゲームだとマップを表示してみるが、地名も分からないのでどこがどこやら。
バボンッ!
爆発音と共に、一つの廃屋から煙が立ち上り、真っ黒になった人が転がり出てきた。
古びた鼠色のローブが、煤にまみれてしまい、その顔も真っ黒になっているが、白っぽい部分もある髭があることから老人だと思われた。
「大丈夫ですか?」
俺は思わず助け起こす。ゴホゴホとせき込む息にも黒いモノが混ざっていた。
「なあに、この希代の錬金術士ゴールドドジャーにとっては、この程度、何ともないわっ」
「錬金術士……?」
「ん? 何だ、嬢ちゃん。興味があるか? ならば我が英知をご覧に入れよう!」
こちらが反応する前に背中を押されて、まだ煙たい小屋へと押し込まれた。
中には未だに煙をあげる怪しげな釜と、乱雑に積まれた本、ガラスの瓶や謎の液体など、怪しいモノに溢れていた。
「錬金術とはその名の通り、金をも産み出せる魔法の様な技術だ。その制作過程で様々な現象も発生させられる。今やっておるのは、燃える空気の作成じゃ」
何でそんな危険なモノを実験してるんだ。というか煤が出てる時点で失敗じゃないか。
「燃える空気があれば、強力な攻撃につかえるのじゃ!」
「それって炎の魔法とかでいいんじゃ……」
せっかくのファンタジー世界、魔法があるならそれを使えばいいじゃない。
「こ、この方法なら、詠唱がいらんのじゃ」
「そのために結構な準備と、爆発の危険ですか?」
「技術が進歩すれば、解決される!……はずじゃ」
否定的な事をいいつつ、少し面白いかなとも思っていた。錬金術は、現実で言うと魔法のまがいものとして、不遇の歴史があり化学の基礎として認知されるのに時間がかかった。
ファンタジー世界では、魔法があるために、様々な条件を整える必要のある錬金術は、面倒で不遇な扱いになるのだろう。
しかし、現代の化学の知識があればファンタジー世界でも恩恵は得られそうだ。何よりまだスキルが無いので、色々と試してみたかった。
「わかりました、やってみます。錬金術」
「そ、そうじゃろう、そうじゃろう。錬金術には未来があるからのぅ! ではまずはこの本からじゃ」
一冊の本を渡されると共に、頭の中にピロンと電子音が響く。ステータスを確認すると、スキルの欄に錬金術が追加されていた。
古い洋本を開くと錬金術を使う説明書になっていて少し笑える。錬金術では薬品を混ぜて化学変化を起こし、新たな薬品を作れたりするようだ。その作業は錬金釜を使って行われる。目の前にあるような大きな釜は、工房を作って設置するか、費用を払って借りる必要がある。簡易合成用の携帯錬金釜というのもあり、それを使うと多少成功率が落ちるようだ。
「この釜を借りるにはいくらかかるんですか?」
「合成するものによるのう」
「携帯用錬金釜は?」
「1000Gじゃ」
初期所持金は500Gで足りてない。しばらくはここに通ってスキルを上げないと駄目らしい。
合成用の素材も集めなきゃならないので、実際に錬金術を始めるのには色々と準備が必要だった。
初日にストック減らしていいのかと思いつつ、読者さんの反応も気になるので投稿。
この手の小説って、妙に細かくスキルのレベルとか書いてたりしますが、今作では適当にやるかも……。
そういうシステム部分がいいんでしょうか、話の展開優先でいいんでしょうか……。