鉱山逆走と令嬢と
「それじゃ、私は地図を埋めに回りますね」
俺が引き返そうとすると、セイラさんに止められた。
「ちょっとケイちゃん、一人で行く気?」
「このくらいの敵なら大丈夫ですよ」
「私は防御を固めてるからそう見えるかもしれないけど、ケイちゃんの装備だとかなりダメージ受けるわよ?」
「重精霊がいるんで大丈夫です」
「「重精霊?」」
そういえばセイラさんにはまだ見せてなかったのか。俺は瓶を取り出して地面に置くと、重力操作魔法で空気を圧縮。召喚魔法を唱えた。
「何その子!?」
「ぽっちゃりですね」
「重力操作で空気の密度を上げてから、召喚するとこうなるんですよ」
自力飛行ができない重精霊は、瓶をよじ登って外へと出てきた。二人は興味深げに、重精霊を見ている。
「適当に戦わせて見ますね」
ダンジョンを引き返し、途中で放置していたコボルトへ、攻撃を指示。ノックバックして近づけないまま、撃破する事ができた。やはりHPは多いので、倒すのに時間はかかりそうだが、何とかなるだろう。
「ケイちゃん、貴女ってホント、面白いわね」
「先ほどのフレアストーンを起爆するのも見事でした」
「そうそう、あれも凄かったわね」
「ふぇ?」
何気なくやってた事を誉められて、間の抜けた声が出てしまった。
「左手でショートカットを起動しつつ、最後の一角でフレアストーンを投げて、それをターゲットに魔法を発動してましたよね」
「はい、魔法は自動命中で、フレアコアも範囲爆発で明確に狙わなくても当たるんで、楽ですよ?」
「そこをさらっと言っちゃうのが、凄いんだけどね。タイミングがズレたら自爆したり、見当違いの所で爆発したりするのに」
そんなものだろうか。
「まあ、いいわ。その精霊ちゃんがノックバックで倒してくれるなら、私も弓の練習させてもらうわ」
「ては僕も投擲の練習を」
「ちょっと、ジェイクさん。うちのケイちゃんにちょっかい出す気じゃないでしょうね?」
セイラさんが俺を庇うように前に出る。
「確かにケイさんに興味はありますが、それは変わった事をやられているからで、下心はないですよ」
「どうだか……」
「いいですよ、ダンジョンの中だけですし。私だけだと戦闘に時間が掛かりそうでしたから」
そんな訳でダンジョンを逆走しながら、マップ埋めと宝箱の回収をしていく。戦闘は重精霊と二人に任せて、俺はダンジョン内にもあった採掘ポイントを掘っていく。
どうやら掘れる割合が違うらしく、フレアストーンがよく取れる。あと不確定の???で表示されたアイテムがあって、それも気になるところだ。
コツコツと作業してると、ジェイクの視線が気になってくる。本人は投擲の練習と言っていたが、戦闘は適当っぽくこちらを気にしているようだ。
やはり下心が?
そんなことを考え始めた時、ジェイクから声を掛けられた。
「ケイさん、採掘ポイントでフレアストーンを使ってみるといいですよ」
というアドバイスだった。俺が自力で気づくか見てたのだろうか。とりあえず、フレアストーンをセットして、炎魔法で起爆する。
「あ……」
ジェイクの声が聞こえた時には、爆発が起こっていた。フレアストーンの掘れる割合の多いポイントで、炎魔法を使うとどうなるか。盛大な引火が発生して、フレアストーンが連鎖爆発。俺の体は吹き飛ばされていた。
ジェイクはすぐに回復してくれながら、謝ってきた。
「ごめん、ちゃんと伝えなくて」
「いえ、私の不注意でした」
爆発が起こっても、地形が変わる事はなく、周囲にアイテムが転がっていた。多くは銅や錫だが、中には錆びたメダルというのが混ざっていた。一カ所で採れる数も増えてるか、フレアストーンはゼロだった。誘爆したんだろう。
「???は、錆びたメダルだったのか」
錆びた品が出たので、携帯用錬金釜を準備、一酸化炭素で還元してみる。『魔除けのメダル』というアイテムになった。僅かだが、魔法への抵抗が上がるらしい。
「坑道が崩れないおまじないかな?」
「それ、錆を落としたんですか?」
ジェイクが興味深げにこちらを見ていた。
「はい、錬金術で」
「錬金術……なるほど、そんな手があったんですね」
「ちょっと、戦闘してるの私だけ?」
セイラさんが拗ねていた。
どうやらジェイクは薬師をメインに上げているらしい。錬金術も少しやったらしいが、ポーション作成をやって薬師にある補正が錬金術では付かないので、伸ばさなかったらしい。
「私はまだ薬の方はやってないから……」
「薬師の場合は、品質で回復量が上がるんだけど、錬金術だと一定の物しか出来なくてね」
「なるほど」
確か攻略サイトにも同じ様な事が書かれていた気がする。ポーション作成の面では、専門職っぽい薬師に軍配が上がるんだろう。
その後もコボルトを倒しながら、フレアストーンを集めて、地図を埋めていった。
ダンジョンを出るとき、ジェイクは自分の店は中央通りにあるから、興味があったら来てと宣伝していった。
「ケイちゃん、ああいう男の方が危険なんだからね!」
ダンジョンから戻ったところで、やることは増えた。まずは錆びたアイテムの還元だ。錆びたメダルは3つあったが、全部魔除けのメダルだった。ツルハシも初級のブロンズピック、ハンマーも大半はブロンズハンマーだった。これは鍛冶や彫金といった生産で使用される初級アイテムだ。
そのハンマーの中に、『名前入りハンマー』というのが混ざっていた。よく見ると、柄の部分に『サイラス』と刻んである。マクシミリアン家の令嬢から受け取っていた写真代わりの水晶には、『サイラス・マクシミリアン』と書いてあった。
やはり連続クエストのアイテムらしい。このままダンジョンを進む度に関連アイテムが集まって、本人が見つかる感じだろうか。
何にせよ、生存の証となるし持って行ってあげるのがいいだろう。
ダンジョンで手に入れたフレアストーンをフレアコアに合成した後、マクシミリアン家に行くことにした。
以前にもらった紋章を見せることもなく、顔パスで館の中まで入って行けた。
「お嬢様は今、御入浴中です。お客人もよろしければ、ご一緒いたしませんかとの事です」
玄関を開けてくれたメイドが、思いも寄らない言葉をかけてきた。お嬢様と入浴だと!?
男なら発生しないイベントか、貴重な体験だろう。これを断ることができるか、いやできまい。
葛藤するまでもなく申し出を受けることにした。
メイドに案内してもらったのは、白い空間だ。大理石で作られているのだろうか。
「お召し物を」
言われるままに装備を外して固まる。下着まででいいんだよね、メニューからだとここまでしか脱げないし。
メイドはそのまま案内を続けたので良かったらしい。メイドの手でお湯を掛けてもらい、浴槽へと促される。その湯からは、バラの香りがして、水はやや白く濁っている。
日本人からすると少しぬるいくらいの温度で、入りやすくはあった。
「このような所ですいません」
現れた令嬢、名前はリリーナだったかな。首から下は白濁とした湯に浸かっているので、見ることはできないが、ほんのり上気した頬は色っぽい。髪もアップにされていて、うなじが綺麗に見えている。
「こ、こちらこそ、突然の訪問ですいませんでした」
「冒険者の方は、入浴が好きだと伺ったのでお誘いしたのですが、迷惑ではありませんでしたか?」
いえいえ、眼福ですとはさすがに返せない。二十歳前後の令嬢と入浴など、現実では体感できないイベントだな。
「いえ、普段は入れないので嬉しいです。
「それは良かったです。それで、今日はどのようなご用件でしたでしょうか」
そうだった、お風呂で全部吹き飛ぶ所だった。
「実は『サイラス』と名前の入ったハンマーを見つけたので、持ってきました」
「まあ、お兄さまのものでしょうか?」
「それは分かりませんが、ダンジョンで見つかったので可能性はあるかなと」
クエストの物と決めつけていたが、別人の物である可能性もあったか。どのみち確認してもらわないといけないけど。
「ではそちらを調べてみますので、メイドに預けて頂けますか」
俺はメイドの方に戻って、ハンマーを取り出し渡す。その間に、令嬢はお風呂からあがってしまっていた。いや、何かを期待した訳じゃないんだけどね。
自分も立ち上がるが、下着は透けることもない。ただ、素肌に水滴が滴るのは色気があるような……などと考えていると、メイドが近づいてきて、バスローブを掛けてくれて、セレブな気分を味わえた。
「やはり、これだと兄の物かは分かりませんね。名前も彫ったもので筆跡とは違っていて……」
「そうですね。でもお兄さんは生きて頑張ってると思いますよ」
「はい、ありがとうございます。ただ今回はお渡しできる報酬はないのてすが……」
「いえ、お風呂に入れてもらっただけで嬉しかったです」
「そうですか? それならいつでも来ていただければ用意いたしますよ」
ご令嬢との入浴タイム、プライスレスだと!?
内心の動揺を抑えながら、俺は屋敷を後にした。しかし、風呂は魅力的だ。別にセイラさんとごにょごにょとかは考えてないんだからねっ。
裏の家も買いとって、畑と離れに風呂か。スライムが本当に番犬代わりに盗賊を倒してくれるなら、家を広げるのもありかなぁ。
懲りずにお風呂の導入。
MMOやってると、温泉地巡りとかしちゃいますよね?