二つ目のダンジョンと痛いプレイヤー
日曜日の朝になり、一週間の洗濯をまとめてやってしまう。それから朝昼兼用のご飯を食べてからログインする。
すると侵入者撃退の報告があった。盗賊Lv1の撃破数3と出ている。被害なしの報告に安堵するが、撃破3ってどういうことだ。
マインで倒せるのは一人くらいだと思っていたが、集団できたのをまとめて吹き飛ばしたのだろうか?
裏庭に出てみると、窓の下に穴が空いていた。深さは30cmほど、マインで吹き飛んだ分だろう。
ドロップ品であろう小銭が、庭の三カ所に落ちている。
「吹き飛んでバラバラになった?」
というかコア一つのマインに、敵を一撃で倒すだけの攻撃力があるのか?
「あ、ケイちゃん。おはよう」
「おはようございます、セイラさん」
今日は緑の髪を三つ編みに、頬には六芒星。毎日変えてるのはすごいな、何かのポリシーなんだろうけど。
「あ、もしかしてセイラさん、うちに来た盗賊を倒してくれました?」
「え? 盗賊? 知らないわよ。ケイちゃん、グレードあげちゃったの?」
セイラさんは全く知らなかったらしい。
「ちょっとマインっていうトラップを作れたんで試したんですが、一つしか使ってないのに三人倒した見たいで……」
説明していると、セイラさんの足下に蠢く影。そういえば、裏庭の掃除の為に放し飼いにしてたんだった。セイラさんの庭まで掃除してたのかな。
「あ、もしかして、そいつか!」
「え、何?」
スライムのステータスを確認すると、レベルが二桁になっていた。セイラさんのところで掃除して、裏庭も掃除したことで成長したようだ。
そして決定的な証拠として、その体には錆びた剣が刺さっていた。
「スライムが盗賊を退治したのか、盗賊が落とした武器を拾ったのか……でも、スライムが番犬代わりになるならありがたいな」
「それはそうとケイちゃん、ご飯食べていく?」
セイラさんの家は更に改装が進み、お洒落なリビングができあがっていた。テーブルには、赤のテーブルクロスと花瓶に生けられた花。イスにもクッションが備えられて、うちの簡素なテーブル周りと比べて華やかになっている。
今日はバターロールに、スクランブルエッグ、ベーコンにサラダと彩りも豊かな朝食ができていた。
「今日もおよばれしちゃってすいません」
「こういうのは、一人より二人がいいのよ。どうせ明日は夜しかログインできないから、ゆっくりはできないしね」
「そうですね。それでは頂きます」
女性の手料理を食べる……と言っていいのかわからないが、こうした時間が持てるのが不思議だ。ネカマでプレイして、男に貢がせるつもりだったけど、こうした時間の方が貴重だなと思ってしまった。
もし俺が男のままだったら、セイラさんとIDで出会っても、そのまま別れて終わりだったんだろうな。チートプログラムに感謝する。
「ケイちゃん、ダンジョンは行かないの?」
「そうですね、そっちも進めなきゃなとは思ってるんですが」
「攻撃は買った?」
「はい、炎の魔法を」
「よーし、じゃあ次のダンジョン行っちゃおう!」
「そうですね、行きましょうか」
まずはダンジョン解放からなのだけど。次のダンジョンは、鉱山の街『ボック』にあったりする。転送石もあるので、行くのは簡単だ。
冒険者ギルドで鉱山に出没するコボルトの討伐を依頼される。コボルトは犬顔の人型モンスターで、鉱物を腐らせるとか逸話のある怪物。まだまだ強さとしては、怖くないレベルだ。
セイラさんと共に、『ボック』へ転送。採掘ポイントとは違う入り口に、IDへの侵入ポイントが設置されていた。
「残りのメンバーは、ランダムでいい? それとも彼氏呼ぶ?」
「だから違いますって。それにシゲムネはオフラインみたいですし」
「そっか、じゃあランダムで申請するわね」
ほどなくマッチングが完了し、IDである『ボック鉱山』へと転送された。
鉱山をベースにしたIDは、採掘で行く坑道と似た作りになっていた。主道となる広めの道には、線路が敷かれていて、壊れたトロッコ何かが転がっている。そこから細い枝道が伸びている。
「よろしくお願いします」
「よろしく」
チッと舌打ちした戦士が、挨拶もなく切り出した。
「メインは何だ?」
「私はタンク」
「私は攻撃魔法です」
「僕はヒーラーですよ」
「じゃあ俺が近接アタッカーでいいな」
その戦士は両手で斧を構えて先へと進む。仕方なくセイラさんが続き、ヒーラーの男性と一緒に後を追った。
両手持ちの戦士は、ダンジョンのセオリーも無視して、タンクがターゲットを決める前に攻撃を開始して、ダメージを受けながら戦闘を進める。もちろん、タンクを務めるセイラさんに比べると、受けるダメージが多く、ヒーラーにも負担を掛けている。
「ちょっと、一人でやってるんじゃないのよ」
「てめえのタゲ取りが遅いのが悪いんだろうが」
セイラさんの忠告にも聞く耳を持たず、自分勝手なペースで進んでいく。
「たまにいるんですよね、低級ダンジョンに時間を掛けたくないって人」
「そうなんですか。なら、どうして低級ダンジョンに来るんですか?」
「もしかして、初心者なのかな? 低級ダンジョンから人がいなくならない工夫として、ランダムにダンジョンが決まるシステムがあるんだ。追加の報酬ももらえるんだけど、ベースとなる経験値やお金が少ないから、さっさと終わらせたい人がいるんだよ」
「なるほど、そうなんですね」
ヒーラーをやっているジェイクは、俺に説明しながらも回復の手は休めていない。彼もまた上級者で、そのランダムシステムを使っているのかもしれない。
「ちんたらくっちゃべってんじゃねえよ」
俺も精霊と攻撃魔法でしっかりと援護して、それなりのダメージを与えている。斧戦士は、他人の行動を見ずに文句だけいうタイプみたいだ。
「外れひいちゃったね」
ジェイクは舌を出しながら、セイラさん達の後を追った。
もちろん、最短ルートを攻略していくので、俺のマップは全然埋まっていない。もちろん、宝箱なんかもスルー。そのくせ、コボルトのドロップ品である錆びたツルハシや、錆びたハンマーには権利申請してくるので、俺と分け合う形になっている。
これは早々に終わらせて、後で戻るかな。
中ボスは大きめのコボルト、ラストのボスは更に大きいコボルトに、魔法を使ってくるコボルト。更に取り巻きが沸いて出てくる。
「魔法使いを先に、あとは出てくる奴を叩いてください」
ジェイクの指示に俺は魔法使いにダメージを与えていく。斧戦士はそんなの無視で、大きなコボルトだけを攻撃。セイラさんは、魔法使いと、大コボルトの注意を引くために色々な技を使って務めている。
ジェイクも回復を控えめに、魔法使いへの攻撃に加わってくれた。ヒーラー用の片手で持つ杖で殴りながら、魔法も唱えている。武器を使いながらなので、あの恥ずかしい呪文を唱えながらだが、戦いぶりが良いので様になっていた。
俺と風の精霊も魔法使いへと攻撃を集中。しかし、取り巻きコボルトが出始めた。
俺はフレアコアを用意。出てくる群れに投げつつ、炎の魔法を撃ち込んだ。これで炎の火力があがる上に、範囲攻撃にもなる。
追加で出る敵はHPが少な目なのでほぼ一撃だ。20匹ほどに6個のコアを使って、あとは精霊と共に撃破。その間に魔法使いコボルトを、ジェイクが倒していた。
残る大コボルトも、HPが半減していたので、一気に攻撃を畳みかける。そういえばと試してなかった一酸化炭素の瓶での引火実験も行う。瓶がコボルトに当たって割れた所に炎を撃ち込み、青白い炎が巻き起こる。コボルトの毛を焼きながら、それなりの威力にはなっていた。
セイラさんは技によって、しっかりとターゲット保持。三人の集中攻撃で撃破した。
「早く権利確定しろよ」
ボスを倒す前から、宝箱の出現ポイントに移動していた戦士は、すぐに宝箱を開けて権利申請している。
俺も極力急いで行ったが、その間イライラとした舌打ちを繰り返された。
アイテムの所有権が確定するなり、斧戦士はダンジョンを脱出。
残った三人は苦笑いを浮かべて顔を見合わした。